「着いた。ここが俺の屋敷だ」
「おお…」
なんというか……なんともいえぬ威圧感に気圧される。
大きなお屋敷で、お金持ちなのは十分に見てとれる。
でも、なんだか人の気配がまるでない。
お屋敷の中に入ると、それを余計に感じた。
広いお屋敷で、部屋が多いのに、全体的に家具が少なく、生活感がまるでない。
ここに、修夜さんはひとりで住んでいたのか。
なんて寂しい場所なんだろうか。こんなにも寂しい場所で暮らして、悲しくなかったんだろうか?
「ここが沙奈の部屋だ。好きに暮らしてくれ」
「えっ…。私の部屋、あるんですか…?」
てっきり奴隷だから物置部屋に放り込まれると思っていた。…いや、流石にそれはしないか…。
「ああ、もちろんだ。…先ほどの女たちは、誰だ?」
「あっ…義理の母と、腹違いの妹です。父は母と再婚して暫くして、消息を絶ちました」
「後妻を迎えた後に…?」
ぴくりと修夜さんが反応した。「はい」と頷いた。
「もしかしたら、瀬奈が神女だったことと、父がいなくなったこと、関係しているのかなって思いました。…でも、父は必ず帰ってきます。そう信じています」
「…そうか。戻ってくるといいな…お前の父親。今日はもう遅い、ゆっくり休んでくれ」
部屋に入ると、扉を閉められた。
ほんとに、いいお部屋…こんなところに住ませてもらえるなんて、修夜さんには感謝しても感謝しきれない。
それに、あの家から出してくれて…ありがたい。
敷布団に横になり、ゆっくりと目を瞑った。
**
『お荷物は早く出て行きなさい』
『お姉ちゃん、勘違いしてない?誰もお姉ちゃんのこと好きじゃないんだよ。だからお父さんもお姉ちゃんを置いて行ったんだよ』
『瀬奈はこんなにも物分かりがいいのに、あんたはどうしてそんなふうに育ったの?』
『お姉ちゃんは、一生誰にも愛されないんだよ』
「…っ‼︎」
瀬奈の声が耳の奥で響いた。
耳を押さえて飛び起きた。
ゆ、め…?
夢だったんだ、とホッとしながら、まだ耳に残る2人の声を払拭する。
そうだ、私は奴隷になったんだから、修夜さんの身の回りのことは私が…!
そう思って、部屋を出て大きな大きな扉を開く。
…え。
「起きたか、沙奈」
「修夜さん…」
修夜さんはもう既に外出の身支度終えており、出掛けるところだった。
「え、私…奴隷なのでは…」
「奴隷など肩書だけだ。実際には、神女の力から逃れるため作ったものだ」
まだ呆然としている私に向かって「出掛けてくる。少ししたら帰るから、待っていてくれ」と言って修夜さんは家を出て行った。
「い、いってらっしゃい、です…」
…まさか。じゃあ、瀬奈たちにされていたような非道な行いはされないということ…?
…いや、そんなことはないだろう。きっと修夜さんも、流石に奴隷を作らなくてはと思っていたところ私が現れて、取り敢えずで適当な女と契約を結んだだけだ。
…あれ、でも修夜さんって、奴隷を全然作ろうとしなかったんじゃなかったっけ…。
…ああもう、考え始めたらよくわからなくなってしまった。こういう時は、思考を放棄する。

