私を奴隷にしてください!



この世には、男性と目を合わせるだけで男性を自分に惚れさせることができる力を持つ女性——神女(かみじょ)がいる。

男性は無理矢理感情を操る神女を恐れた。

だが、普通の女性と神女の区別はつかない。

だから男性は、女性という存在を恐れ、遠ざけた。


しかしひとつだけ、神女の力から逃れられる手があった。
それが奴隷だった。

神女ではない、普通の女性の中から奴隷契約を結ぶだけで、神女の力の影響を受けない。
それが知れ渡った当初は、男性は喜んで奴隷を探した。
…少し経った後は、絶望することになるが。

主人の身の回りのことをする従者とは違い、奴隷とは主人の所有物になるということだ。そして、強制的な労働をさせられると思った女性たちが多く、殆どの女性は奴隷を断る。自分の名誉を守り抜きたい、などという理由もあった。
なので、大半の男性は嘆き悲しみ、神女から逃れるため家に引きこもった。ほんの一部の男性が、奴隷を持つことができたのだ。


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「俺の奴隷になってくれないか」

少し経って理解ができた時、私は衝撃を受けた。
これほどまでに美しい彼でも、奴隷はできなかったのか。きっと女性は群がってくるだろうに。

というか、奴隷契約を結ぶということは、のちに婚姻を結ぶことになるのだ。この人は、わかって言っているのだろうか。

「ああ、まだ名乗っていなかったな。俺の名は修夜だ」

「修夜…」

聞き覚えのある名前。

そうだ、瀬奈が喋っていた。並外れた名家で、途轍もなく美しい人だ、と。だがひどく人を疑い深く、どれだけ自分から奴隷や使用人になりたいと言った女性でも、全て断っていると。どうせすぐ辞めるだろう、俺はずっと奴隷でいてくれると信じられる相手しか奴隷にしたくない、と言って——。

それを聞いて、私は折角自分の名誉を失くしてでも仕えたいと思って言ってくれたのに、それを断るなんてと思った。

だから、彼に対しては今も、あまり好ましくは思っていない。

でも。


彼は、1人も使用人を雇っていない。つまり、彼が私に対して、瀬奈たちがしているような非道な行いをしたとしても、今まで2人にされていたことが、1人にされる、ということになる。

今より、良い毎日になるかもしれない。

そう思って、私は彼の手を取った。


「…よろしくお願いします」

そう言って微笑むと、彼は一瞬驚いたようだった。

それは普通の反応だ。先ほど言った通り、名誉を捨てる行為をこうして二つ返事で承諾驚くだろう。

でも、私は…。




——一瞬でも、この生活から逃れられるかもしれない——。


そう思って、私はこの、一見最悪に見える契約を、喜んで受け入れたのだった。