私を奴隷にしてください!



「はい…」

消え入りそうな大きさの返事は、果たして届いていたのだろうか。

ばたりと目の前で扉が閉まる。

…頑張らなきゃ。

汚れひとつないように、掃除をしなくては、怒られてしまう。

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お客様が来てもいいように、と言っていたからお客さんが来るんだろう。

客室と玄関と…家の前を掃いておけばいいか。

客室と玄関は常に綺麗にしているので、汚れがないか確認すれば良い。

問題は、家の前である。

家の前には大きな木があり、掃いても掃いても葉っぱが落ちてきて終わらないんだ。

今も、葉っぱが落ちまくっているし。
ため息をひとつつき、箒と塵取を持つ。

…まあ、やるしかないもんね。

**

掃いても掃いても、風が木から葉を落とす。
野分が近づいていると、母と瀬奈が話していたのを思い出す。風が強めだ。

私の心と同じように、この家も壊れてしまえばいいのに。

そう思った瞬間、ごくりと息を呑む。だめだ。私は「置いてもらっている」のだから。お父さんの居場所を守るんだから。そんなことを考えてしまっては、ダメだ。
でも一回思ったら、歯止めが効かなくなる。

この風が、私をここから逃がしてくれればいいのに。そうすれば、もうこれ以上、傷つかなくて済むのに。

先ほどまでそんな気持ちを失くそうとしていたくせに、気づいたら目を閉じて手を合わせて、願っていた。


お願い。こんな世界でも、神様がいるのなら。


こんな毎日から、私を逃がしてください——。

そう願った瞬間、一際強い風が吹く。

目をあけても、場所は変わらず、家の前。

…そりゃそうだ。そんな、簡単に行くわけがない。
そう思って、箒を手にした時、気がついた。

家の前に、1人の男性が立っていたのだ。

彼が着ている着物は高級なもので、良い暮らしをしているのだとわかる。
とても綺麗な顔立ちだった。

そして何より——驚いた表情で、私を見ていたことに、1番びっくりした。

あ、もしかして、この方がお客様…?
まだ葉っぱを掃き終えていないし、母たちも帰っていないのに、こんな早くに来るとは。頭を下げて、言った。

「お初にお目にかかります。あの、おいでいただいたところ申し訳ないのですが、あいにく母たちは留守にしておりまして。もう暫くで帰ってくると思いますので、どうぞ中でお待ちくださ——」

「俺の奴隷になってくれないか、君」

「えっ?」

私——?

私の手から、からりと箒が落ちた。