「はい…」
消え入りそうな大きさの返事は、果たして届いていたのだろうか。
ばたりと目の前で扉が閉まる。
…頑張らなきゃ。
汚れひとつないように、掃除をしなくては、怒られてしまう。
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お客様が来てもいいように、と言っていたからお客さんが来るんだろう。
客室と玄関と…家の前を掃いておけばいいか。
客室と玄関は常に綺麗にしているので、汚れがないか確認すれば良い。
問題は、家の前である。
家の前には大きな木があり、掃いても掃いても葉っぱが落ちてきて終わらないんだ。
今も、葉っぱが落ちまくっているし。
ため息をひとつつき、箒と塵取を持つ。
…まあ、やるしかないもんね。
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掃いても掃いても、風が木から葉を落とす。
野分が近づいていると、母と瀬奈が話していたのを思い出す。風が強めだ。
私の心と同じように、この家も壊れてしまえばいいのに。
そう思った瞬間、ごくりと息を呑む。だめだ。私は「置いてもらっている」のだから。お父さんの居場所を守るんだから。そんなことを考えてしまっては、ダメだ。
でも一回思ったら、歯止めが効かなくなる。
この風が、私をここから逃がしてくれればいいのに。そうすれば、もうこれ以上、傷つかなくて済むのに。
先ほどまでそんな気持ちを失くそうとしていたくせに、気づいたら目を閉じて手を合わせて、願っていた。
お願い。こんな世界でも、神様がいるのなら。
こんな毎日から、私を逃がしてください——。
そう願った瞬間、一際強い風が吹く。
目をあけても、場所は変わらず、家の前。
…そりゃそうだ。そんな、簡単に行くわけがない。
そう思って、箒を手にした時、気がついた。
家の前に、1人の男性が立っていたのだ。
彼が着ている着物は高級なもので、良い暮らしをしているのだとわかる。
とても綺麗な顔立ちだった。
そして何より——驚いた表情で、私を見ていたことに、1番びっくりした。
あ、もしかして、この方がお客様…?
まだ葉っぱを掃き終えていないし、母たちも帰っていないのに、こんな早くに来るとは。頭を下げて、言った。
「お初にお目にかかります。あの、おいでいただいたところ申し訳ないのですが、あいにく母たちは留守にしておりまして。もう暫くで帰ってくると思いますので、どうぞ中でお待ちくださ——」
「俺の奴隷になってくれないか、君」
「えっ?」
私——?
私の手から、からりと箒が落ちた。

