いなくなったお父さんが帰ってきて、呆れられないようにしたい。
そのためには、こんなものに、負けてられないんだ。
それに、私がここで挫けて、この家から逃げ出したら、お父さんが帰ってきた時、帰る場所がない。
お父さんの居場所は、私が守る。
私の原動力は、お父さんなんだ。
「沙奈!こっちに来なさい!」
「はいっ!」
母の叫びが聞こえたので、作業の手を止め慌てて声の方へ駆ける。
「私たちは出かけているから、その間にお客様が来ても大丈夫なように、綺麗に掃除しておきなさい」
「わかりました」
「ねえお母さん、早く行こうよ」
「わかってるわよ、瀬奈。…少しでも汚れていたら承知しないわよ?」
瀬奈には優しい笑顔を向けるのに、私には怒りに満ちた瞳と、低い声を向ける。
「はい、わかっています」
「そう。じゃあ早く私の目の前から消えて」
「は…」
あっ。
近くの木から落ちてきた葉っぱが、母の髪についた。
目の前から消えろとは言われたが、これは言わなかったほうが怒られるのではないか。どちらを取ることもできずおろおろしていると、母が見たことがないほど怒りに満ちた表情をした。
「…私の言うことが聞けないのっ!?」
突き飛ばされ、床に倒れ込む。
「ご、ごめんなさい…」
「全く、どうやって躾をしたらこんなふうになるのかしら。やっぱりあの人が最初に選んだ女の血が卑しいのね」
…私の家族を悪く言わないで。
そんなことを言えたら、どんなに良かっただろうか。
そんなことを言ったら、怒り狂い、殺されるだろう。
だから、私には平伏して耐える選択肢しか残されていないのだ。
「あ、お母さん。葉っぱついてるよ」
「あら、本当ね。瀬奈はいい子ねぇ」
…あ…。
瀬奈が母についた葉を取り、瀬奈に笑みを向ける母は、その直後にギラついた瞳を私に向ける。
「どうして同じ父親の血が流れていると言うのに、こんなに違うのかしら?」
「ねえお母さん、お父さんの話はしないでよ…」
「…そうね。私たちとこんなお荷物を置いて出て行ったやつの話をしたら、瀬奈も気分が悪いわよね。ごめんねぇ」
猫撫で声で言い、2人は私に背を向けた。
「早く掃除しなさい、無能」

