スカートを履きたい僕とズボンを履きたい君

「泉谷」

「そ、蒼空(SORA)!?」

薄々、鰹節くらい薄々思ってたことが今、目の前で起きている。
姫野が入っていった部屋からでてきたのはSORAだった。

「そのカメラの最初の一枚、撮ってくれるんだろ。特等席用意してやる」

見た目はまるで別人で幸せホルモンを纏った天使のようなのに、耳元で囁かれたその声は姫野蒼空その人だった。

「SORAさん、今日投稿あげてませんよね!」

「今さっきあげましたよ」

その言葉に急いでスマホを確認する。
確かにSORAの通知が一件入っていた。
そこをタップするとSNSアプリへととんでその投稿が表れて。

「一番を、あなたに……。ちょっ、これって!」

「内緒」

そっと唇に触れる指先。
そこからSORAの体温が伝わって身体全体を熱くさせる。
今、僕の前にはSORAがいる。
憧れて止まないSORAがいる。

「とりあえず、ついてきて」

今日ビッ○サイトで開催される日本最大級のコスプレイベントはいろいろな意味でレベルが違う。
もちろん普段のイベントのように撮影エリアや交流スペースはあるが毎時間各エリアで行われるイベントがすごい。

握手会にトークイベント、ライブやダンスパフォーマンス、コスプレショーがあったりこの2日間で超盛りだくさんのイベントだ。
そして2日を通して行われるこのイベントの醍醐味はコスプレコンテストだ。

エントリーは事前申し込み制で2日を通してコスプレショーや撮影会を通して自分を披露し、イベント参加者の投票によってグランプリが決まる。
上位5位までは表彰が行われ次月のアニメ雑誌の背表紙を飾る。
そして1位の優勝特典は表紙と特集を組んでもらえるという。

去年のコンテストでSORAは5位に入賞し、有名なコスプレイヤーと肩を並べて写っていた。
もちろん発売初日に本屋に買いに行った。

そして1日目の今日はSORAがコスプレショーに参加する。
数日前に参加の発表がされて、歩く練習頑張らないとって投稿してたな。
有名ブランドとかの格式高いファッションショーはレベルってかベクトルが違うけど同じ見せるものでも色々違うものがあるらしい。

普段学校で歩く姿なんかもうほんとのモデルみたいなのに。
蒼空とSORA。
同じ人が今、僕の手を掴んで目の前を歩いている。
その姿はやっぱり姫野とは違う。

「じゃあ、ここで待ってて」

ショーの30分前、ステージ裏でチケットを一枚手渡された。

「僕から目を離さないでね」

耳元で囁かれたその言葉に胸が弾む。
離すわけない、僕の一番はSORAだから。

ステージイベントは大体が座席指定で事前抽選が行われていた。
僕は握手会にすべての運を使い果たしてしまったため3次まで落ちてしまい、サイトの申し込み履歴には大きく落選と書かれたのが並んでいて、地味に心にきていた。
座席指定エリアの後ろに立ち見自由エリアはあるけど遠すぎるのと場所取り戦争に勝たなきゃいけないのもあって諦めてたイベントだった。
遠くにいるSORAをスクリーンに映ったSORAを見れたらいいなくらいで。

一緒に行くと約束した姫野も落ちたと言ってたし自分だけ1人行くのもあれかなと思って結果オーライかと悔しさを引きずる感情に区切りを着けようと思っていた。

それがどういう訳か今に至っている。
今考えるとあの落選の嵐はこの事を余地してたんじゃないかと寒くもないのに肩が震える。

だって手渡されたチケットの座席は。

「ど真ん中すぎるって」

ランウェイの先端、一番のシャッターチャンスが狙える場所。

いいのか、こんなこと。
続々と入ってくる参加者に肩身を狭くしながらチケットを眺めていた。

そもそもどうしてこうなった。
美術の授業で偶然ペアを組んだだけで、学校の屋上で僕の秘密を知られてしまって、握手会のとき一方的に喋っちゃって……。

ん?
SORAが姫野で、姫野がSORAで。
って事は姫野に向かって僕はあんなことを言ってしまったってこと!?

やばい、やばい、やばいやばいやばい。
絶対キモいとか思ったって。
思っていないでいてくれたとしても頭の上「???」ってなってたでしょ。
そのくせ終いには屋上でコスプレし始めてるし。

どんなに仲良い原田や糸部だって、張本人の僕だって一歩後ろに下がってしまうだろう。
なのに姫野は、こんな僕に一歩を踏み出してくれた。

開いたスマホのトーク画面には原田と糸部から送られてきたメッセージが表示されている。

[今日、姫野と出掛けるんだって!?]
[どういうことだよ]
[糸部には言ってなんで俺には言わないんだよ]

[お前がうるさくてめんどくさいからだろ。俺の泉谷取るなとか]

[俺の泉谷取るな!]
[泉谷、俺は許可してないぞ]

[まぁ、意外は意外だけど]
[楽しんでこい]

やっぱり言うのは糸部だけでよかった。
やり取りだけでこんなうるさいんだから学校だったらもっとうるさかっただろうし。
でも、この根の持ち様、月曜日は少し覚悟して行かないとな。
イヤホン、充電忘れないようにしないと。

[姫野、意外といい人かも]

[は?]
[マジか]
[そうなのか?]
[お前までマイナスイオンに侵されちまうのか?]

原田、今頃部活だろうになぜこんなにも返信が速いんだ。

原田はなぜそんなに姫野を毛嫌いするような態度をするのか。
それに僕は原田ものでもなんでもない。
原田が僕の親になった覚えもないしどちらかといえば糸部の方が親には向いていると思う。

はぁと短いため息をつき、この後も続くメッセージ通知に音をサイレントして画面を閉じた。

スタートが近づくに連れて会場のムードも上がっていく。
ほんのり聞こえるBGMが段々と音をあげ、色のついたライトが光り始めた。

座席には空席が見当たらないほどの人が埋まり、立ち見エリアも会場の後ろまで埋まっていそう。

巨大スクリーンがあるからスクリーン越しにでもみたいという人も多いんだろう。

特定の好きなコスプレイヤーがいなかったとしてもいろんなキャラや衣装が見れるからそこにいるだけで楽しいし、興味がある僕のような人にとってはいい勉強にもなると思う。

それにここは一番の近くで見れる場所。
細かな装飾やメイク、ウィッグセットなんかも。

時刻は11時30分。
会場のライトが一斉に消えスポットライトでステージが照らされる。

鞄からカメラを取り出し膝の上で握りしめる。

「一番を、あなたに」

SORAがそう言ってくれたなら、僕はそれに答えるだけだ。

『コスプレショー、スタートです!』



×××



一日目だというのにショーには有名レイヤーが多く参加していた。
パンフレットに書かれた参加者一覧を確認してみると。

「狼さんもうさ丸さんもでるのか。えっ、reoさんまで!?しかもreoさんの後がSORAって、いくらSORAでも不利過ぎない?なんでreoさんトリにしなかったんだよ」

ここに集まる参加者のほとんどはreoさんを目的としてるはずだ。

reoさんが最高のパフォーマンスをすることは目に見えている。
なぜならreoさんはいつもファンの期待を遥かに越えるものをいつも見せてくれるから。
だからこそ、ファンとの間にできたその信頼感がここまで人気を押し上げたんだと思う。

メインステージの中央にスポットライトが集まる。

『最初の参加者はぁ……、狼&うさ丸!!!』

二つの影がスポットライトの中に現れるとその姿が露になる。

「「きゃぁぁぁぁ!!!」」

黄色い歓声があがる。
スターターを務めるのに最適な二人のお陰でショーは最高の幕開けを果たした。

そこから続々とでてくる参加者たち。
皆、有名なアニメキャラからメカ系、甲冑などもあり多種多様のコスプレを披露した。
自分を武器にするもの、自分の技術を武器にするもの、もしくはその両方。

例えばRPG系の衣装なら金属の装備品って重たそうだけど、発泡プラスチックなどで自作したんだろうものを身につけている。
細かな傷痕や錆び具合なんかも再現されててその再現度の高さに思わず息を飲んだ。

ウィッグなんかもガチガチに固めてるはずなのにそう見えない髪の毛の自然な動きに目を奪われる。

こうやってちゃんと見たことがなかったから脳に送り込まれる情報が大渋滞中だ。

そんな僕をもっと混乱させたのが……。

ステージに一歩踏み出すそのヒールの音が会場中に響き渡る。
刹那的、会場は静寂に包まれコツンッコツンッという音だけが鳴る。

見えるのはその形だけ、それだけなのに感じさせるオーラが格段に違う。
これが、本物。

ーーーーーバチンッ

『reoの登場です!!!』

reoさんが今回コスしたのはルーナだった。
それは有名な漫画の主人公。
ルーナは顔や体型はもちろん、衣装が異次元に美しいため、3次元での再現は困難と言われ、その美しさより、どんなに顔も体型も綺麗なコスプレイヤーであってもルーナのコスプレをすることは避けていた。
しかし、それをreoさんはやってのけた。

前のコミケで初披露し、写真では見たことあったけど生で見るのはこれが初めてだった。

自分の中に一番の人がいたとしてもこの人間離れした美しい人に見惚れない人はいないだろう。

オーロラのレースが揺れるのが、髪の毛が風に靡くのが、ライトの光に照らされて衣装が次々に表情を帰るのが。

会場にいる全員の視線を、意識を奪う。
圧倒されるってきっとこの事を言うんだろう。

けど、皆が手元に構えたカメラのシャッターを切る中僕だけは動かなかった。

ーーーーー……っ!

だからだろうか。
振り向き際、一瞬reoさんと目があった気がする。
そのどこか挑発的な含み笑いに恐怖とも言える感情が全身を巡り心臓を震わせる。

なんだろ、確かに感じた恐怖。
それなのにカメラを握りしめた手はそれとは違った熱を帯びていた。

reoさんは最後、観客に向かって手を振りステージを降りた。
観客のreoさんを惜しむ声が会場のあちこちから聞こえる。

reoさんがどんなにいいパフォーマンスをしたからと言ってもSORAが僕にとって一番であることは変わりない。
でも、reoさんの後というプレッシャーとアウェイ感は僕が考える以上に重圧で自尊心を傷つけられてしまうだろう。

でも、ああ言ってくれたSORAを信じなきゃ。
僕が信じないでどうするんだ。
この席を用意してくれたSORAにせめてもの恩返しを。

月と星が輝く神秘的な空気が一変する。
BGMがピアノからシンセサイザーなんかの電子音に変わる。

思わず体を揺らしたくなるような音楽が流れる中、ヒラヒラのスカートを揺らしてステージの中央へと駆ける人影が現れる。

「SORA、やりおったな」

「これは流石としか言えませんな」

後ろの席に座る人の会話が聞こえる。
そう言うのも当然だ。

「SORAです!私の一番をあげるから、あなたの一番を私に頂戴!」

ダウンロード数2000万を超える超人気アイドルリズムゲームで不動の人気No.1、白鳥音羽ちゃん。
元気いっぱいで真っ直ぐ、ファンのことを第一に大切にしていて頑張りっ子。
だけどその裏に隠された強欲さ、その小悪魔的な魅力がファンの心を掴んでやまない。

reoさんが披露したルーナとは正反対のキャラ。
普通だったら絶対しないような観客の想像もしていなかった方法でSORAは勝負をした。

だからこそ。

「ぐおぉぉぉぉお!!!」

「きゃぁぁぁぁぁ!!!」

誰もがアウェイになると踏んでいたステージが一瞬にしてSORAの、白鳥音羽のワンマンショーへと変貌したのだった。

一瞬よぎる姫野の姿。
普段低くてひんやりとしていた声は少し高くて少年のような無邪気さを感じさせ、歩くという動作だけだった歩き方は白鳥音羽を彷彿とさせる軽やかなステップに変わっている。
仕草の一つの一つが姫野と全然違ってSORAで白鳥音羽で。

見惚れていた。
カメラを構えるのを忘れるくらいに。

SORAが僕の目の前にやってくる。
前後左右にポージングを決めた後だった。

ーーーーーバチンッ。

振り向き際、まるで磁石が引かれ合うようにあった目線。
SORAは僕の方を指差して「それ」と口を動かした。
はっとしてカメラを構える。

「それじゃあ、3、2、1」

SORAは高く手をあげてカウントダウンを始めた。
そして。

「一番の私を撮ってよね」

ーーーーードキンッ。

「ねぇ、今絶対私の方向いたよね!?」

「いや、私の方だって!」

「いやいや、俺だ」

「いやいやいや、某に向けてくださったんです」

「「某って未だにいるの!?」」

あぁ、心臓がうるさい。
陸上だっていうのに海の中にいるみたいに耳がぼわんとして胸が苦しい。
近くで争う人たちの声も遠く感じる。

開いた口が塞がらない。
目に焼き付いた太陽よりも眩しい光。
圧倒されたとかそう言うんじゃなくて、僕の心は多分あの小悪魔に奪われてしまったんだと思う。



×××



コスプレショー終了後、観客たちに紛れて会場を後にしようとしたとき、マネジャーの田中さんに声をかけられ再びSORAの楽屋の前へとやってきた。

それにしても。

「田中さんって変装上手いですね」

「私も歴としたオタクですので」

そう自慢げにいう田中さん。
朝見たときや握手会のときは皺一つ許さないスーツ姿だったのに、今目の前にいるのはサブカル系でちゃっかりキャラTを来て、髪の毛も少し崩している。

「もうそろそろ挨拶終わって帰ってくるころだと思うので、中で待っててください」

「わかりました」

扉が閉まる。
ドアノブを握ったままそこから離れることができない。
足の裏がぞくぞくする。
だって。

「本物の楽屋だ……」

メイク道具やヘアセット系、衣装の手直し用の装飾など、SORAが使ってそのままの状態で残っていた。
最後の最後まで調整してたんだなって思うと胸がきゅっとする。
色んな人の力があって出来ていることかもしれない。
でもそれをどう活かすかはSORA次第、姫野次第だ。

ふと机の上においてあったノートが目にはいった。
恐る恐る一歩を踏み出して覗いてみると。

「白鳥音羽。真っ直ぐでがんばり屋、曲から受ける印象は……」

そこにあったのは細部まで書かれたキャラ情報だった。
公式からでているプロフィールはもちろん、自分なりに分析したキャラの性格だったり仕草や癖、ファンに対する気持ちも。

SORAってやっぱりすごい。

ーーーーーガチャッ。

「泉谷」

「SORA!いや、ひめ……」

「SORAでいいよ」

「SORAお疲れ様でした」

「最高の一枚撮れた?」

「はい!さいっこうの一枚撮れました!」

「よかった。僕との約束守ってくれたんだね。途中、カメラそっちのけだっから心配だったけど」

「だってSORAが可愛くて見惚れてたっていうか一瞬でも目を離すの勿体ないっていうか……」

「可愛い……か」

「んー、可愛いいけどそれとは違って。かっこいい、とか」

「え?」

「まぁ、全部ひっくるめるとSORAがもっと大好きになりました!」

ーーーーードキンッ。

勢いでぶつけた言葉。
向けた視線の先に映った拍子抜けしたSORAの顔に身体の奥から熱がこみあがる。
そう言えばSORAは姫野だったんだ。

「えーっと!大好きって、あの憧れ度がグンッてアップしたといいますか……」

「っははは、わかってるよ。ありがとう」

訳がわからずテンパる僕を横目に爽やかな笑顔で笑うSORA。
それがしばらく続いていると。

「失礼、SORAくんいる?」

「はい」

「れ、reoさん!?」

低く大人びた声の聞こえる方向に目を向けるとそこにはreoさんが立っていた。

「reoさんお疲れ様です」

「SORAくんもお疲れ様。いやぁ、あのショーは凄かったね。ショーというかライブだ。どんなパフォーマンスをするかは本人と一部のスタッフしか知らないからね。こりゃやられたぁって思ったよ」

「reoさんには適いませんよ」

「そりゃ俺に適ってもらっちゃ困るけど。対抗心メラメラって感じでよかったよ。まぁでも、その子には適っちゃってたみたいだけどね」

そう言うとreoさんは僕の方を指差した。

「え、僕?」

「そう、僕」

あ、やっぱりあの時目があってたんだ。

「なんでreoさんこいつのこと知ってるんですか」

「だって、ど真ん中の席で周りみんながカメラ向けるなり目、ハートマークにして見つめてくる中、この子だけ違ったもん」

「でも、reoさんはすごいと思いました」

「うん、そう思ってくれてることはわかったよ。でもそれとこれとは違う。君はSORAくんのことが大好きなんだね」

「あ、憧れの人なんで……」

「ふーん。この子、SORAくんの友達?」

「そうですけど」

あれ、いつの間に友達になってた!?
いや、この状況ならそう言うしかないか。

「本当に?」

reoさんの声がより低く感じた。

「一途に思ってくれることは嬉しいね。でも、それは本当の君じゃない」

reoさんがSORAに向けて囁いた言葉。
それは僕の耳には届かなかった。
ただ、reoさんが話し終えた後、SORAが拳を強く握りしめたのが見えた。

「ま、精々青春を頑張りたまえ。高校生くん」

最後にreoさんはそう言ってSORAの楽屋を後にした。

どんな話をしたんだろう。
少し気になるけどそこに僕が入る権利はない。
きっと、レイヤー同士のなにかだろう。

「失礼します。SORAくんメイク落としと着替えしていってもいいかな」

「はい、よろしくお願いします」



×××



「今日はごめんな、色々回ろうって準備してたよな」

「いえいえ。一番もらえたので幸せです」

「そ、そっか。それはよかった」

「あっ!え、えっと……」

「そうだ。俺たち友達なんだし、敬語じゃなくていいだろ」

「え、でも。SORAのときだって」

「どっちもタメでいいって」

「わ、わかった……」

イベントの帰り。
田中さんが送ろうかと言ってくれたけど僕もいるし、少しでも雰囲気味わいたいからって自分たちで帰ることにした。

こうやって衣装を脱いでメイクを落として私服姿は学校で見てるいつもの姫野だ。
どっちといても緊張はするけどまだ関わりが少なくてあまり知らない姫野といるとなるとSORAといるときとは違う緊張感がある。

「泉谷」

「な、なに」

急にかけられた声に肩が大きく跳ねた。

「よかったら明日、一緒に来てくれないか?」

「明日!?」

「元々は今日だけの予定だったが、見れたのショーだけだったし、俺も他のブース見てみたくて。泉谷の予定空いてたらなんだが」

そういえばあのノート、姫野が書いたものなんだよな。
きっとSORAになってるとき以外でもあぁやってキャラの勉強だったり、見てくれてる人のために頑張ってるんだろうな。
優しいけど人にそこまで興味なさそうに思えてたけど、こんなにも真面目で努力家で愛がある人だったんだな。
なんか、胸が温かい。

「いいよ、僕も行きたい」

SORAじゃなくて、姫野蒼空を知ってみたい。

「じゃあ明日は○○駅で集合な」

「だね」

帰りの電車の中は周りから見たら至って普通の高校生2人組。

誰もその片方がSORAだってことに気づきやしない。

「姫野、早速さっきのショー話題になってるよ」

「絶対アウェイになると思ったからな。一か八かでやってやった」

「最高だったよ」

「ありがとう」

「こちらこそ。ほら、みんなSORA可愛い!だって」

「可愛い」

その瞬間、姫野の表情が曇る。

「姫野、どうし……」

「お前は可愛いって言われることは嬉しいか?」

「まぁ、そう言ってもらえるのはありがたいし、嫌、じゃないかな」

「そうか……」

このときの僕はその質問の意味を全然理解していなかった。

僕のした質問の答えに姫野はどこか寂しげに俯いた。