おちゃらけていた男子二人組がすごすごと散らばっていったのを見届け、教室の入り口でハラハラしていた知華と那智が、一斉に咲夏のもとへと駆け寄ってきた。
「もう、咲夏ー! すっごく心配したんだからっ! 大丈夫だったー!?」
「ほんと、マジでくだらないな、アイツら……」
大袈裟に胸をなでおろす知華と、今にもチッと舌打ちをしそうな勢いで眉をひそめる那智。
二人の対照的な、けれど温かい優しさに、咲夏はふにゃりと眉を下げて苦笑いを浮かべた。
「うん、大丈夫! 二人とも、心配してくれてありがとね」
廊下の渋滞が解消され、ぞろぞろと新しいクラスメイトたちが教室になだれ込んでくる。
一気に騒がしさを増していく教室の中、咲夏は喧騒に紛れて、さりげなく視線を泳がせた。
視線の先、窓際の席へと戻っていく冬弥の背中がある。
彼はすでに周りの男子たちに囲まれ、楽しそうに言葉を交わしていた。
屈託のない、眩しいほどの爽やかな笑顔。
それを見つめるだけで、咲夏の胸の奥はきゅん、と甘く、切なく締め付けられる。
「――ねえねえ、ほんっと観月くんってイケメンだよねー!マジで乙女ゲームのメインヒーローとして出てきそう!」
咲夏の視線をいち早く察知した知華が、声を潜めながらも興奮気味に身を乗り出してきた。
「ふふ、うん。本当にそうだね♪」
隠しきれない好意を滲ませて微笑む咲夏を見て、今度は那智が意地悪そうにニヤリと口元を歪める。
「ま、あれは普通に惚れるよねぇ。……よかったじゃん、咲夏」
「そ、そんなんじゃないからっ……!」
那智のからかうような視線から逃れるように、咲夏はパッと顔を背けた。
赤くなっていく耳たぶをピンクベージュの髪で隠そうとするが、親友二人にはすべてがお見通しのようだ。
ふと教室内を見渡せば、咲夏たちだけでなく、他の女子生徒たちもチラチラと冬弥の方を盗み見ている。
それもそのはずだ。あれだけ圧倒的なルックスを持ちながら、部活は強豪バスケ部のエース。
学校中でモテないほうがおかしい、誰もが認める一軍の王子様なのだから。
咲夏は指定された窓際の一番前の席に腰を下ろし、そっと頬杖をついた。
(はぁ……さすがに、ライバル多すぎだよねぇ……)
小さくこぼしたため息に合わせるように、薄手のカーテンが春の風にふわりと揺れる。
窓から差し込むうららかな陽光を浴びながら、咲夏は先ほどの彼の声を、頭の中で何度も巻き戻していた。
『ごめんね、安達さん』
(そういえば……私の名前、ちゃんと覚えててくれたんだ)
地味だった中学時代を経て、外見をガラリと変えてしまった自分。
まともに話したことなんて数えるほどしかないのに、彼は迷わず『安達さん』と呼んでくれた。
カーテンの隙間から吹き抜ける春風に包まれながら、咲夏の心臓は、いつまでも心地よいリズムを刻み続けていた。



