夏と冬が重なれば。


見た目は完璧なギャルでも、中身はただの高校デビュー三人組。

チャラ男たちの絡みに内心冷や汗をかいていた咲夏だったが、ここでいち早く『一時停止』から復活したのは知華だった。

 知華はいつものぴょんぴょんとした元気で活発な雰囲気を瞬時に切り替え、小悪魔のような笑みを浮かべて前に出る。

「ちょっとー?そんな意地悪言ってるとモテないよ? もう、しょうがないなぁ~」

 首を少し傾げ、男子たちを上目遣いで見つめる。

「私は深瀬知華♪みんなで楽しくワイワイするのが大好きなの!これから宜しくね★」

 語尾にキラキラとした星が見えそうなほどの完璧なファンサービス。

 教室の前で通せんぼをしていた男子たちは、その破壊力に一瞬でノックアウトされた。

「うおっ……!俺の心臓がぁ……!」

「なんだこれぇ!くそ可愛いんだけど!」

「文句なしで合格っ!」

 グッと親指を立てた男子たちは、骨抜きにされた様子で難なく知華を通した。

 関門を突破した知華は、廊下に取り残された咲夏と那智に向かって、パチンとウインクをしながら親指をチラつかせてドヤ顔を決めてみせる。

(マジか……。オタク知識をフル活用して、乙女ゲームの正解ルートを選ぶ感じで乗り切ったのか、知華……!)

 その神がかったプロの犯行に、咲夏は内心で盛大に苦笑いした。

 しかし、ホッとしたのも束の間。

知華という極上の甘口の後に残された男子たちの視線は、期待に胸を膨らませて次の二人――特に、一際クールなオーラを放つ那智へと注がれる。

「じゃあ、次はそっちのシルバーメッシュのお姉さん! お名前は?」

 那智はフッと鼻で笑うと、ポケットに手を突っ込んだまま、大人の色気を漂わせるクールビューティを完璧に演じきった。

「澤木那智。……好きなのは強い男。嫌いなのは、弱い男。宜しく」

 少しだけ首を傾げ、挑発するように妖艶に微笑む。

 その瞬間、男子たちは今度は別の意味で胸を撃ち抜かれることになった。

元ヤンの本物が醸し出すリアルな凄みと色気のハイブリッドは、普通の男子高校生には刺激が強すぎたらしい。

「ク、クールビューティすぎる……!」
「かっけぇぇよ、姉さん……!一生ついていきます!」

 感動に震えながら、那智のことも拝むようにして通す男子たち。

「……じゃ、最後! そこのめちゃくちゃ可愛いギャルの彼女ー!」

 ついに、すべての視線が最後のひとり――咲夏へと集中した。

 知華は乙女ゲーム、那智は元ヤン。

それぞれが持つ『過去の武器』をギャルへと昇華させて見事にハイスコアを叩き出した。

 けれど、自分はどうすればいいのだろう。

 中学時代の自分にあるのは、頑固な前髪と、ピンピン跳ねた黒髪と、目立たないように生きてきた地味な陰キャの記憶だけだ。

使える武器なんて何ひとつ持っていない。

(どうしよう、どうしよう……! なんて言えばギャルっぽくて、尚且つこの場を乗り切れるの!?)

 見た目は誰もが振り返る完璧な可愛い白ギャル。

しかしその中身は、そわそわと不安が絶えず、内心冷や汗だらけの震える迷子。

 逃げ場のない教室の入り口で、咲夏は最大のピンチを迎えていた。