「みてー!昨日アップした動画、めっちゃバズったんだよ♪」
「本当に!?さすが知華、クオリティ高かったもんね」
知華が差し出してきたスマホの画面を見つめながら、二人は声を弾ませて2組の教室へと急ぐ。
すると、廊下の向こうから「咲夏ー、知華ーっ」と、少し息を切らした声が響いた。
振り返ると、そこには今まさに学校に到着したばかりの那智が立っていた。
走ってきたせいか少し前髪は乱れている。
けれど、綺麗に整えられたシルバーのメッシュが映えるショートボブの髪型は、それだけで圧倒的なお洒落さを放っていた。
自分から元ヤンだと言わなければ絶対に分からない、クールで洗練された完璧なストリート系ギャルスタイルだ。
「なっちー!もう、遅いよっ!」
「あ、那智おはよ♪ 家の鍵、ちゃんと見つかった?」
駆け寄ってきた知華が嬉しそうに那智の腕に抱きつき、咲夏もくすくすと笑いながら尋ねる。
「なんとかね。玄関の靴箱の上に落ちてた。……ってか、あたしらまた同じクラスじゃん。ウケる。今期もヨロー」
那智は少し照れくさそうに頭を掻きながら、にっこりと綺麗な歯を覗かせた。
心強いメンバーが全員揃い、三人は意気揚々と2組の教室へと向かう。
しかし、開け放たれた教室のドアの前に立った瞬間、咲夏は思わず気圧されそうになった。
そこは、新学期特有の独特な熱気と空気感に満ちあふれていた。
教室の入り口付近で、登校してくる女子生徒の顔ぶれを品定めするように見ている男子たちの集まり。
教卓の近くで早くも新作ゲームの話で盛り上がっている男子グループ。
かと思えば、窓際の方にはおっとりとした可愛い清楚系女子の集団や、静かに読書をしている真面目そうなグループもある。
(すごーい……。まだ初日なのに、もうなんとなくグループができ始めてる……)
教室内の一種の生態系のような光景に、咲夏が内心で感心していた、そのときだった。
入り口付近にいた、ちょっとチャラめの陽キャ男子二人組が、咲夏たちの姿を視界に捉えた瞬間、その目をギラリと輝かせた。
「うわ、マジレベル高いギャルの子達じゃん!」
「ほんとだ、超当たりクラスじゃね? ねえねえ、名前教えてよー」
「そうそう、名前言わないとここ通れないかんね、これ2組のルール!」
悪びれもせず、通せんぼをするようにしてはしゃぐチャラ男たち。
(う、わ……。こういうの、一番困るやつ……!)
咲夏は引きつりそうになる顔を必死で取り繕った。
見た目は完璧な白ギャルでも、中身はあの地味で目立たないように生きてきた『陰キャ』の安達咲夏なのだ。
知華もゲームオタクの過去を持つ身。
こういうお調子者の輩に絡まれたとき、一体どんなリアクションを返すのが「正解のギャル」なのか、スリープモード全開だ。
助けを求めるように那智へと視線を送るが、元ヤンの那智の目が、ほんの一瞬だけ据わりかけたのを見てしまい、咲夏は別の意味でヒヤリとする。
「(知華ー、繋がらないワイファイみたいに一旦クルクル停止になってるけどぉぉ!?)」
「(ちょっと、ちょっと那智ーー!その目やばいからぁ!死人出るからぁあー!)」
初登校早々のピンチ。
この歓迎されざる洗礼をどう切り抜けるべきか、三人が固まったその瞬間――。



