咲夏達が通う朝凪高等学園の校庭は、春の暖かな光を浴びた桜の花びらでピンク色に染まっていた。
新学期の始まりに胸を躍らせる大勢の生徒たちで、どこもかしこも賑やかだ。
その雑踏の中を並んで歩く咲夏と知華は、少なからず周囲の視線を集めていた。
すれ違う男子生徒たちが、チラチラと何度も彼女たちを振り返る。
「うわ、派手だなー」
「……いや、でもめっちゃ可愛いじゃん。」
「白ギャルだ。スタイル良すぎ」
そんなひそひそ話が嫌でも耳に届き、咲夏は少しだけ肩をすぼめた。
「うーん……やっぱり、さすがに目立っちゃうよねぇ」
苦笑いする咲夏の手を、知華がぐいっと引っ張る。
「何言ってるの咲夏!それだけうちらが完璧ってこと! ほら、早く行かないとクラス発表の掲示板が埋まっちゃうよ!」
昇降口の前に人だかりができているのを見つけ、二人は自然と足早になった。
掲示板に大きく貼り出されたクラス発表の名簿。
咲夏は、胸の奥をぎゅっと掴まれるような緊張感を覚えながら、並んだ名前を目で追っていく。
そのとき、隣の知華が「あ!」と大きな声を上げた。
「あった、2組!咲夏、私達おなじクラスだよ!やったああー!」
知華が咲夏の腕を掴んでピョンピョンと跳ねる。
「しかも見て!那智も一緒だぁっ!最高じゃん、やったね!」
「本当!?やったぁ……!」
最高の文字配列に、咲夏も不安が吹き飛び、知華と一緒に手を取り合ってはしゃいだ。
今年もあの心強い仲間たちと一緒にいられる。
それだけで、これからの高校生活が何倍も輝くような気がした。
――けれど。 弾む心を落ち着かせようと、何気なく名簿の少し下へと視線を滑らせた、その瞬間。
ある名前が網膜に飛び込んできて、咲夏の心臓がドクン、と大きく跳ね上がった。
"観月 冬弥 "
「(あっ……)」
驚きのあまり、喉の奥から小さな声が漏れそうになる。
咲夏は慌てて自分の口を手で押さえ、その声を心の奥へと引っ込めた。
「んー?咲夏?どうしたの、急に止まって」
さっきまで一緒に喜んでいた咲夏が突然フリーズしたことに気づき、知華が不思議そうに顔を覗き込んでくる。
「ううん、なんでもない!さ、教室いこっ!」
心配させまいと、咲夏はパッといつもの笑顔を作ってはにかんでみせた。
けれど、繋いだ知華の手を引きながら歩き出す咲夏の視線は、もう一度だけ、名簿のその名前へと吸い寄せられてしまう。
春風に吹かれた桜の花びらが、ひらりと掲示板の文字の上に重なる。
『観月 冬弥』――その名前を目にしただけで、咲夏の胸の奥が、じんわりと切ないほどに温かくなっていった。



