完璧な白ギャルスタイルで最寄り駅に到着した瞬間、咲夏のポケットの中でスマホが震えた。
画面を確認すると、メッセージアプリ『LIME』の通知が表示されている。
送り主は、高校一年生の一年間を共に駆け抜けた親友のひとり、澤木 那智。
可愛い桃のピアスの画像をアイコンに設定し、表示名を『なっち』にしている彼女からの連絡に、咲夏は思わず笑みをこぼした。
「あ、なちのやつ、また寝坊かな?」
そう予想しながらトーク画面を開く。
しかし、そこに並んでいたのは予想外に無機質な文字列だった。
『御免。家の鍵無。先行って。』
申し訳なさそうなキャラクターのスタンプが一つ添えられているものの、肝心の本文はまるで電報のように短い。
「ふふっ、相変わらず文章が硬いよ、那智……」
咲夏はくすくすと肩を揺らした。
それもそのはず、今でこそ可愛い桃のピアスをアイコンにしている那智だが、中学時代は地元でも有名な『元ヤン』だったのだ。
お互いに過去を隠してイメチェンを図った、いわば「高校デビュー」の"類友"。
ひょんなことから事情を隠し持っている同志だと知り、なんやかんやで意気投合し、今では何でも話せる大の仲良しになっていた。
(『了解! 教室で待ってるね』っと……)
那智への返信を画面に打ち込んでいた、そのときだった。
「さなー! やほっ!」
背後から凄まじい勢いの声が響いたかと思うと、咲夏の体に柔らかな衝撃が走った。
後ろから思いきりギュッとハグをされ、咲夏は「わっ!?」と小さく悲鳴をあげる。
驚いて振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべた女の子が立っていた。
大人っぽいワンレンボブの髪に、鮮やかな水色のハイライトをインナーに入れた元気いっぱいの女子高生――もう一人の親友、深瀬 知華だ。
通学カバンをリュックのように両肩で背負うのが、彼女のお決まりのスタイルだった。
「もー、知華! びっくりさせないでよ」
「あはは、ごめんごめん!今日もめちゃくちゃ可愛いからさ、すぐ咲夏だって気付いて、つい!」
悪びれずに笑う知華だが、実は彼女もまた、重度の『ゲームオタク』という過去を隠した高校デビュー仲間だった。
白ギャルを目指して努力を重ねた咲夏。
元ヤンから可愛い系ギャルに転換した那智。
ゲームオタクから派手めな元気っ子ギャルに変身した知華。
傍から見れば、今をときめく一軍の仲良しギャル3人組。
しかしその実態は、全員が血の滲むような努力で過去を上書きした「高校デビュー女子」の集まりなのだ。
「あれ、なっちは?まだ来てないの?」
「ううん、それがさ……」
咲夏は知華にスマホの画面を見せながら、二人の賑やかな通学路を歩き始める。
お互い「素」を隠しながら、ギャルとしての自分を全力で楽しむ新学期。
春風通る学園へ、咲夏と知華は一歩を踏み出した。



