あの前途多難だったベッドの上での独り言から、早いもので二年の歳月が流れていた。
中学時代、あんなに地味で「終わってた」はずの咲夏の姿は、いまや自宅の全身鏡の前に影も形もない。
そこにあるのは、二年間の血の滲むような努力とお小遣いのすべてを注ぎ込んで作り上げた、至高の結晶だった。
お小遣いをコツコツと貯めてようやく手に入れた、SNSで大流行中の高級シャンプー『Sarari(サラリ)』。
「あのインフルエンサーの、スモモちゃんが出てるCMのシャンプーなんだよね♪」
その贅沢な泡で洗い上げた髪は、甘く爽やかな柑橘系の香りをふんわりと纏っている。
同じく『Sarari』の最新ヘアアイロンを滑らせ、毛先だけをキュートにくるんと内側にまとめる。
サロンで丁寧に染め上げた透明感抜群のピンクベージュは、ストレートの美しさをこれ以上ないほど引き立てていた。 メイクにも妥協は一切ない。
唇には、今いちばん売れているトレンドど真ん中のモカピンクのティントを乗せ、ぷるんとした質感を演出。
まつ毛は美容垢で絶賛されている人気のマスカラで、一本一本セパレートさせて綺麗に上へと跳ね上げている。
仕上げに、耳元で控えめにきらめくのは、ミニサイズのハートの形をしたスワロフスキーのピアスだ。
さらに、制服の着こなしこそが咲夏のこだわりだった。
シャツの第二ボタンはあえて開けない。
代わりに、デコルテと鎖骨のラインが最も綺麗に映える絶妙なサイズ感のシャツを選んでいる。
校則ギリギリを攻めたミニスカートは、ただ短いだけではない。
自分の足の比率が最も美しく、スラリと長く見える黄金比の長さを計算し尽くして裾上げしたものだ。
最後に、お気に入りの控えめなコロンを空間にワンプッシュし、そのくぐり抜ける。
「――う~ん!これ!これぞ私の理想のギャル!」
鏡の中にいるのは、誰もが思わず振り返るような、圧倒的透明感を放つ『清純派の白ギャル』。
完璧な仕上がりに、咲夏は思わず「できた♪」とにっこり満面の笑みを浮かべた。
二年前の自分が見たら、腰を抜かして驚くを通り越して拝み出すレベルの大変身だ。
今日は高校二年生の始業式。
クラス替えという、ギャルライフ第二章の幕開けにふさわしい最高の一日。
「行ってきまーす!」 弾むような声をリビングに響かせ、咲夏はるんるん気分で玄関のドアを飛び出した。
春のうららかな陽光が、丁寧に手入れされたピンクベージュの髪をキラキラと祝福するように照らし出していた。



