ベッドの中。
カーテンの隙間から朝日がさす。まぶたに当たって少し眩しい。
キッチンからいい匂い。
ベーコンの焼ける匂いだ。スクランブルエッグも作ってるよな。菜箸でフライパンをかき混ぜる音。
誰だろ。ピンクのエプロンをした可愛い女の子?
ん? 違うな。
あのデカい後ろ姿は……。
ピピピピッ
ハッ!!!
目を開けた。
いつもの月曜の朝。部屋の中にはオレ一人。ベーコンもスクランブルエッグもデカい後ろ姿も夢だったようだ。
枕元にミネラルウォーターがあるだけ。
変な夢を見てしまった。
腹減ってるからって、よりによって広川に作ってもらう夢なんか見なくても。
そう思ってスマホのアラームを止めようとして、気がついた。
アラームじゃねえ、電話だ!
画面には「新井」の文字。
そういや、前回新井と会ってからちょうど2週間たった。
2週間経って朝イチに電話とは義理堅い。
体を起こし、慌てて電話を取ると、
「グッモーニン! テスト前でスマホ切ってた。なんだった?」
脳天気な新井の声。自分の話したことを忘れてんのか?!
オレが聞きたかったのはーーなんだっけ。
起き抜けの電話で、すぐには思い出せない。なはは。
あ、そうそう!
「広川の件!」
「広川? 広川がどうかした? ーーあ」
電話の向こうで一瞬沈默があった。思い出したらしい。
ベッドの上に座ったまま、窓のカーテンを引いて開ける。
「広川……ってか、桐山のこと。桐山には言えないつってたから、なんでか気になって」
「あーそんなこと言ったっけ。言ったな。その件ね」
電話の向こうでは多分、頭をぽりぽりかいている。新井は続ける。
「まぁ、言えないのはさ。その女の子さ、桐山のこと好きだったからさ」
「ほえ?!」
思いがけない答えに、変な声を出してしまう。
「自分の好きな子が好きなのは自分の親友。て、辛くね?」と、新井。
「桐山はそのこと知ってたの?」
「なんも知らんて。テニス一筋! あはは」
……。
なるほど。
確かに桐山なら気づかなそうだな。納得しちまってごめんだけど。
桐山は、女の子が広川に惚れてると勝手に思い込んでいたんだろう。
「で、その女の子はどうしたの? 桐山に告白はしなかったってことだよな?」
「してねえ。で、オレ、その子と同じ高校なんよ。最近その子に彼氏できて、広川もさ……」
「ああ」
それでオレにメンタルフォローを頼んだってわけか。
状況はだいたい分かった。
オレは電話を持ったまま、ベッドからおりる。
「分かった! サンキュー」
「そんじゃー」
プツッと電話を切る。
朝の支度をしなくては。
オレは冷蔵庫をのぞいた。ベーコンも卵もある。
2人なら、ベーコン焼いてスクランブルエッグ作ってもいいけど、一人じゃな。
一緒に食べるの、楽しいんだけどな。……夢にみるほどじゃないけど。
トースターを待つ間にシャワーを浴びる。
頭からかぶると、思考がすっきりしてくる。
広川も、好きな子に彼氏が出来たんじゃ諦めるしかないだろう。振り向けと願ったって、相手は振り向かない。
ボタンを押すと、シャワーがミストに変わる。
……オレなら振り向くかもしれないじゃないか?
キャンプん時、肝試しの神社で、ちゃんと振り向いたじゃないか。
「……」
体を滑り落ちた細かな泡が、円を描きながら排水溝に流れていく。
※ ※ ※
朝の教室。
ガラガラとドアを開けて入ると
「真野、ちょーど良かったっ!」
「レーン、こっち」
入口近くの席から、桐山と広川に声を掛けられた。
2人に視線を向けられて、今朝の新井の話を思い出す。
……脳筋テニス桐山と、距離感おかしいレトリバー広川が三角関係になっていたわけか。
表現に悪意はねえ。
机の上にたくさん広げられているのは……ん? キャンプの写真?
「誰か印刷してくれたの?」
オレが聞くと、広川がいつものようにニカッと笑った。
「写真クラブのヤツがくれたよ! いいやつは抜いたから、あと欲しいのあったらあげるって」
「そんで、広川が目を皿のようにして女子写ってんの探してる」
桐山がげらげら笑う。
「あ、そ」
いや、女子写真は気になるけれども!
でも、こんなチャラそうに見える広川が、一人の女の子を真摯に好きになって、まだ引きずっているなんて。
「それは?」
オレは、広川が自分の手元に置いている2枚の写真に気がついた。
「あ、これは貰う分ね」
オレの視線に気がついた広川が、手渡しして見せてくる。
一枚は、肝だめしをしたキャンプ場裏の小道の写真だった。よく見ると、木の上からコンニャクがぶら下がっている。
なんでそんな変な写真選んでんだ。コンニャクにビビッて広川に飛びついたこと、思い出しちまったじゃねえか!
もう一枚は、帰りのバスの写真。
ピースしている広川ーーはいいんだが、通路をはさんだ反対側に、ぽかんと口を開けて爆睡してるオレが写りこんでる! ちくしょう。
「さすが写真部、どれも画角がいいよな!」
桐山も数枚確保していて、みんなカオリンが写っている。分かりやすい。
「レンも貰ったら?」
言われて、机に広げられた写真を見てーー
山小屋の中を撮った写真の中から、天窓だけをフレームインした写真を一枚セレクト。
天窓の向こうは茜色の空。
オレも、同じような写真は撮った。
確か、広川と一緒にベッドに寝転んで話していたときだっけ。けど、撮ったまま忘れていた。
「これだったら、部屋に飾れる」
オレは、写真を持ち上げてかざしてみる。
「確かに真野の部屋に合いそー。オシャレルームだもんな」と桐山。
広川は、眩しそうに目を細めて写真を見つめているけど、何も言わない。
カーテンの隙間から朝日がさす。まぶたに当たって少し眩しい。
キッチンからいい匂い。
ベーコンの焼ける匂いだ。スクランブルエッグも作ってるよな。菜箸でフライパンをかき混ぜる音。
誰だろ。ピンクのエプロンをした可愛い女の子?
ん? 違うな。
あのデカい後ろ姿は……。
ピピピピッ
ハッ!!!
目を開けた。
いつもの月曜の朝。部屋の中にはオレ一人。ベーコンもスクランブルエッグもデカい後ろ姿も夢だったようだ。
枕元にミネラルウォーターがあるだけ。
変な夢を見てしまった。
腹減ってるからって、よりによって広川に作ってもらう夢なんか見なくても。
そう思ってスマホのアラームを止めようとして、気がついた。
アラームじゃねえ、電話だ!
画面には「新井」の文字。
そういや、前回新井と会ってからちょうど2週間たった。
2週間経って朝イチに電話とは義理堅い。
体を起こし、慌てて電話を取ると、
「グッモーニン! テスト前でスマホ切ってた。なんだった?」
脳天気な新井の声。自分の話したことを忘れてんのか?!
オレが聞きたかったのはーーなんだっけ。
起き抜けの電話で、すぐには思い出せない。なはは。
あ、そうそう!
「広川の件!」
「広川? 広川がどうかした? ーーあ」
電話の向こうで一瞬沈默があった。思い出したらしい。
ベッドの上に座ったまま、窓のカーテンを引いて開ける。
「広川……ってか、桐山のこと。桐山には言えないつってたから、なんでか気になって」
「あーそんなこと言ったっけ。言ったな。その件ね」
電話の向こうでは多分、頭をぽりぽりかいている。新井は続ける。
「まぁ、言えないのはさ。その女の子さ、桐山のこと好きだったからさ」
「ほえ?!」
思いがけない答えに、変な声を出してしまう。
「自分の好きな子が好きなのは自分の親友。て、辛くね?」と、新井。
「桐山はそのこと知ってたの?」
「なんも知らんて。テニス一筋! あはは」
……。
なるほど。
確かに桐山なら気づかなそうだな。納得しちまってごめんだけど。
桐山は、女の子が広川に惚れてると勝手に思い込んでいたんだろう。
「で、その女の子はどうしたの? 桐山に告白はしなかったってことだよな?」
「してねえ。で、オレ、その子と同じ高校なんよ。最近その子に彼氏できて、広川もさ……」
「ああ」
それでオレにメンタルフォローを頼んだってわけか。
状況はだいたい分かった。
オレは電話を持ったまま、ベッドからおりる。
「分かった! サンキュー」
「そんじゃー」
プツッと電話を切る。
朝の支度をしなくては。
オレは冷蔵庫をのぞいた。ベーコンも卵もある。
2人なら、ベーコン焼いてスクランブルエッグ作ってもいいけど、一人じゃな。
一緒に食べるの、楽しいんだけどな。……夢にみるほどじゃないけど。
トースターを待つ間にシャワーを浴びる。
頭からかぶると、思考がすっきりしてくる。
広川も、好きな子に彼氏が出来たんじゃ諦めるしかないだろう。振り向けと願ったって、相手は振り向かない。
ボタンを押すと、シャワーがミストに変わる。
……オレなら振り向くかもしれないじゃないか?
キャンプん時、肝試しの神社で、ちゃんと振り向いたじゃないか。
「……」
体を滑り落ちた細かな泡が、円を描きながら排水溝に流れていく。
※ ※ ※
朝の教室。
ガラガラとドアを開けて入ると
「真野、ちょーど良かったっ!」
「レーン、こっち」
入口近くの席から、桐山と広川に声を掛けられた。
2人に視線を向けられて、今朝の新井の話を思い出す。
……脳筋テニス桐山と、距離感おかしいレトリバー広川が三角関係になっていたわけか。
表現に悪意はねえ。
机の上にたくさん広げられているのは……ん? キャンプの写真?
「誰か印刷してくれたの?」
オレが聞くと、広川がいつものようにニカッと笑った。
「写真クラブのヤツがくれたよ! いいやつは抜いたから、あと欲しいのあったらあげるって」
「そんで、広川が目を皿のようにして女子写ってんの探してる」
桐山がげらげら笑う。
「あ、そ」
いや、女子写真は気になるけれども!
でも、こんなチャラそうに見える広川が、一人の女の子を真摯に好きになって、まだ引きずっているなんて。
「それは?」
オレは、広川が自分の手元に置いている2枚の写真に気がついた。
「あ、これは貰う分ね」
オレの視線に気がついた広川が、手渡しして見せてくる。
一枚は、肝だめしをしたキャンプ場裏の小道の写真だった。よく見ると、木の上からコンニャクがぶら下がっている。
なんでそんな変な写真選んでんだ。コンニャクにビビッて広川に飛びついたこと、思い出しちまったじゃねえか!
もう一枚は、帰りのバスの写真。
ピースしている広川ーーはいいんだが、通路をはさんだ反対側に、ぽかんと口を開けて爆睡してるオレが写りこんでる! ちくしょう。
「さすが写真部、どれも画角がいいよな!」
桐山も数枚確保していて、みんなカオリンが写っている。分かりやすい。
「レンも貰ったら?」
言われて、机に広げられた写真を見てーー
山小屋の中を撮った写真の中から、天窓だけをフレームインした写真を一枚セレクト。
天窓の向こうは茜色の空。
オレも、同じような写真は撮った。
確か、広川と一緒にベッドに寝転んで話していたときだっけ。けど、撮ったまま忘れていた。
「これだったら、部屋に飾れる」
オレは、写真を持ち上げてかざしてみる。
「確かに真野の部屋に合いそー。オシャレルームだもんな」と桐山。
広川は、眩しそうに目を細めて写真を見つめているけど、何も言わない。

