5月1日、朝8:30 。
高校入学後、登校初日。
オレ、真野レンは、担任とともに教室のドアの前に立っていた。
中からは楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
ごくりとつばを飲みこむ。
入学式は一ヶ月前に終わっている。
クラスメイトたちはすでに互いの名前も顔も覚えている頃だ。グループや、カップルまで誕生しているかもしれない。
なぜ登校が遅れたか。
親の仕事の都合だ。3月に、急に親の海外転勤が決まった。現地校への進学を進めようとする親を振り切って、オレが一人アメリカから帰国したのがつい一週間前。
親が「近いほうが安心」と借りてくれた高校の目の前のマンションに入居し、家具をそろえて、一人暮らしをスタートさせた。
教室の入口に『身だしなみ』と書かれた手鏡がぶら下がっている。
髪型……オッケイ。アホ毛もワックスで撫でつけた。
シャツも第1ボタンまで留めた。
ネクタイに手を当てる。
ガラッと担任がドアを開けた。
担任の後ろについて教室に入る。
全員の視線が集まる。
特別人前が苦手なわけじゃないけど顔はこわばる。
転校生じゃあるまいし、一カ月登校が遅れただけでこの扱い。見ないでほしい。「カワイー」という声に赤面する。けなされてるわけじゃなくてもジャッジされるのはキツイ。
少しざわついたあと、担任に自己紹介を促された。
「あー」
いけ! 失われた一ヶ月の青春を取り戻すんだ!
オレはエイッと顔を上げた。口角をあげて笑顔をつくる。
「真野レンです。親が急に海外転勤になって、4月の一ヶ月だけオレもそっちにいたんですけど、進学のために戻ってきました。いまは校門の真ん前のマンションで一人暮らししてます。料理はこれからなんで、学食が生命線です、よろしくお願いします!」
教室のあちこちから「へー」「親が海外ってカッコいい」「一人暮らしだって!」と聞こえてくる。反応は悪くないようでほっとする。
『一緒に学食いこ』とか『真野くんち行っていい?』とか、女子が声をかけてくれるかもしれない。なんてな!
「じゃ、真野は広川の隣」と担任。
教室を見渡すと、廊下側一番奥の男子生徒がひらっと手をあげた。
う、と詰まる。
威嚇するような鋭い目、ダルそうな手の上げ方。
パシリにさせられそうだな、と思ったら、ふっと笑った。
「隣どーぞ」
声は明るい。話すとだいぶ印象が変わる。隣に座ると、背も高くてガタイもいいし、いかにもモテそうだ。
「よろしく!」
「こっちこそ!」
担任はもう別の話をしている。
次の学年行事、キャンプの話題。
でも、オレはまだついていけなくて、隣の広川を振り返り、小さな声で聞いた。
「キャンプってなに? 一泊?」
広川はバサバサの前髪の間からニカッと笑った。
大きな手で頬杖をついている。
「一泊だよ。みなみキャンプ場。なんでも聞いて! ……あとさ、一人暮らしの家って広い?」
「1LDKだよ。なんで?」
「今日、オレ泊めてくんね? ちょっと事情があって」
「へ?!」
初対面だ。会話もまだ数往復だ。
いきなり「うち、ついていっていいですか?」をかますとは。
マジか?!
でも、グイグイくるタイプは、友達ゼロスタートのオレに有難い。
「いいよ。ベッドもあるし」
「Nice! じゃ、夜9時頃いい? LINE教えて」
「9時?」
放課後からすぐ入り浸ってくるのかと思っていた。
でもまあ、着替えやら明日の授業の課題を自宅に取りにいってから来るんだろう。
……若干ひっかかるけれども。
オレは広川にLINEを教えた。すぐにスタンプで返事がくる。
そして、その日は1日、普通に授業を受けた。
広川と、それから女子たちにいじられながら楽しく過ごせて満足していた。
ーー広川経由で一気に友達が増えたし、滑り出しはまあまあだ。
オレは真っ直ぐ家に帰った。
マンションは1LDK。コンクリート打ちっぱなし風のおしゃれなリビングにソファベッドを置いている。
いや、ソファのつもりだったけどベッドになった。寝室のベッドを広川に貸すつもりだ。
コンビニで買ってきた弁当を食べる。
「ウマッ」
思わず呟いても部屋は静かなまま。
コンビニのチキン南蛮は3回目。そろそろ飽きそうだけど、料理も面倒で鍋も食器もしまったきりだ。
そして9時。
チャイムが鳴った。
「広川です」
少しダルそうな低い声。
マンション入り口のオートロックを解除すると、しばらくして、玄関チャイムが鳴らされた。
ピンポーン………
「はい!」
ドアをガチャッと開けて、オレは目を丸くした。
一人じゃなかった。
ジャケットにアクセサリーをつけたおしゃれな格好をした広川と、……綺麗な年上の、女性?
「あ、ええと?」
言葉が出てこない。
一体どういうことなんだ!!
高校入学後、登校初日。
オレ、真野レンは、担任とともに教室のドアの前に立っていた。
中からは楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
ごくりとつばを飲みこむ。
入学式は一ヶ月前に終わっている。
クラスメイトたちはすでに互いの名前も顔も覚えている頃だ。グループや、カップルまで誕生しているかもしれない。
なぜ登校が遅れたか。
親の仕事の都合だ。3月に、急に親の海外転勤が決まった。現地校への進学を進めようとする親を振り切って、オレが一人アメリカから帰国したのがつい一週間前。
親が「近いほうが安心」と借りてくれた高校の目の前のマンションに入居し、家具をそろえて、一人暮らしをスタートさせた。
教室の入口に『身だしなみ』と書かれた手鏡がぶら下がっている。
髪型……オッケイ。アホ毛もワックスで撫でつけた。
シャツも第1ボタンまで留めた。
ネクタイに手を当てる。
ガラッと担任がドアを開けた。
担任の後ろについて教室に入る。
全員の視線が集まる。
特別人前が苦手なわけじゃないけど顔はこわばる。
転校生じゃあるまいし、一カ月登校が遅れただけでこの扱い。見ないでほしい。「カワイー」という声に赤面する。けなされてるわけじゃなくてもジャッジされるのはキツイ。
少しざわついたあと、担任に自己紹介を促された。
「あー」
いけ! 失われた一ヶ月の青春を取り戻すんだ!
オレはエイッと顔を上げた。口角をあげて笑顔をつくる。
「真野レンです。親が急に海外転勤になって、4月の一ヶ月だけオレもそっちにいたんですけど、進学のために戻ってきました。いまは校門の真ん前のマンションで一人暮らししてます。料理はこれからなんで、学食が生命線です、よろしくお願いします!」
教室のあちこちから「へー」「親が海外ってカッコいい」「一人暮らしだって!」と聞こえてくる。反応は悪くないようでほっとする。
『一緒に学食いこ』とか『真野くんち行っていい?』とか、女子が声をかけてくれるかもしれない。なんてな!
「じゃ、真野は広川の隣」と担任。
教室を見渡すと、廊下側一番奥の男子生徒がひらっと手をあげた。
う、と詰まる。
威嚇するような鋭い目、ダルそうな手の上げ方。
パシリにさせられそうだな、と思ったら、ふっと笑った。
「隣どーぞ」
声は明るい。話すとだいぶ印象が変わる。隣に座ると、背も高くてガタイもいいし、いかにもモテそうだ。
「よろしく!」
「こっちこそ!」
担任はもう別の話をしている。
次の学年行事、キャンプの話題。
でも、オレはまだついていけなくて、隣の広川を振り返り、小さな声で聞いた。
「キャンプってなに? 一泊?」
広川はバサバサの前髪の間からニカッと笑った。
大きな手で頬杖をついている。
「一泊だよ。みなみキャンプ場。なんでも聞いて! ……あとさ、一人暮らしの家って広い?」
「1LDKだよ。なんで?」
「今日、オレ泊めてくんね? ちょっと事情があって」
「へ?!」
初対面だ。会話もまだ数往復だ。
いきなり「うち、ついていっていいですか?」をかますとは。
マジか?!
でも、グイグイくるタイプは、友達ゼロスタートのオレに有難い。
「いいよ。ベッドもあるし」
「Nice! じゃ、夜9時頃いい? LINE教えて」
「9時?」
放課後からすぐ入り浸ってくるのかと思っていた。
でもまあ、着替えやら明日の授業の課題を自宅に取りにいってから来るんだろう。
……若干ひっかかるけれども。
オレは広川にLINEを教えた。すぐにスタンプで返事がくる。
そして、その日は1日、普通に授業を受けた。
広川と、それから女子たちにいじられながら楽しく過ごせて満足していた。
ーー広川経由で一気に友達が増えたし、滑り出しはまあまあだ。
オレは真っ直ぐ家に帰った。
マンションは1LDK。コンクリート打ちっぱなし風のおしゃれなリビングにソファベッドを置いている。
いや、ソファのつもりだったけどベッドになった。寝室のベッドを広川に貸すつもりだ。
コンビニで買ってきた弁当を食べる。
「ウマッ」
思わず呟いても部屋は静かなまま。
コンビニのチキン南蛮は3回目。そろそろ飽きそうだけど、料理も面倒で鍋も食器もしまったきりだ。
そして9時。
チャイムが鳴った。
「広川です」
少しダルそうな低い声。
マンション入り口のオートロックを解除すると、しばらくして、玄関チャイムが鳴らされた。
ピンポーン………
「はい!」
ドアをガチャッと開けて、オレは目を丸くした。
一人じゃなかった。
ジャケットにアクセサリーをつけたおしゃれな格好をした広川と、……綺麗な年上の、女性?
「あ、ええと?」
言葉が出てこない。
一体どういうことなんだ!!


