7月7日は七夕。
オレにとっては山瀬の誕生日。
小学生のころは、誕生日といえばプレゼントを贈るのが恒例だった。
けれど中学以降はそういったイベントをしなくなり、オレと山瀬も「誕生日にはお互いにマックを奢る」で落ち着いていたのだけど。
ーー今年は、久々にプレゼントを用意しよう。
オレは気合を入れていた。
というのも、校外学習で出かけた先で、山瀬が帽子を無くしたのだ。
帰宅後
「オレの帽子、モモのカバンに入ってねぇ?」
と、LINEが来ていた。
授業の合間の休憩タイム。
オレがスマホで帽子のカタログを見ていると、前の方で女子が騒ぎ始めた。
「山瀬くん、誕生日もうすぐだね」
「カラオケ行こ。ハピバ歌うから!」
「あーでもオレ」
山瀬が笑いながら返している。
「モモが誘ってくれんの待ってんの。駄目だったらカラオケね」
「またそれっ!どこまで本気?!」
オレはスマホから目を上げないままやり過ごす。
胸が痺れるような変な熱さを感じる。
やっぱり「モモが」と言われると嬉しい。言われないと寂しい。
「桃田くーん。どうすんのぉ?」
強気タイプの女子がこちらに向かって声をかけてくる。気づいているのにスルーしているのがバレていたか。
オレは顔を上げて返事をする。
「どうしよっかなーぁ」
茶化してみると、
「うっわ、選択権が桃田くん!」
「別格の強さ!」
女子が笑った。
手元のスマホに目を戻すと、色々なオシャレな帽子。
小学生のころも、山瀬の喜ぶ顔を想像してプレゼントを選ぶのが楽しかった。
ーー帽子をあげたら、その場で被って貰う流れよな? いや、プレゼントだから被せてあげんのか……?
オレは、山瀬に帽子を被せてやるところを想像した。
「……」
オレが両手で帽子をもって、山瀬にスポッとやって、そうしたらその手を山瀬が掴んで……て……
な、わけねええええーー!
顔近すぎだろ! それはカップルのするこったろおおおーー!!
「も、桃田くん?」
隣の席の女子に怯えられてはっとした。
山瀬の距離感がおかしいせいで、変な想像をしてしまった。
全部山瀬が悪い。
* * *
山瀬の誕生日、当日。
朝、山瀬の家に行ったら「なんか、用があるって先行った」と、お母さんに言われた。
学校に行ったら、すでに女子に囲まれていて話しかける隙もなかった。
帰りにマックに誘ったら「今日、用があって…先帰って」と濁された。
ーー避けられてる?
全く会話のチャンスがない。
もしかして、本命の彼女とデートだったり?
そんな風に思いながら一人で家に帰る。なぜもやもやするのか分からない。
LINEばかり見てしまう。見るくせに、打つのにためらう謎仕様。
二階の窓から、細い庭を挟んだ山瀬の部屋の方を見る。暗くなっても電気がつかない。……夜8時を過ぎて、ぱっと電気がついたのにすぐに気づく。
行ってみよう! 深く考えてもしょーがない!
オレは、プレゼントを持って山瀬の家の玄関チャイムを押そうとして、少し躊躇する。
ーーオレ、もしかして邪魔か?
普段から山瀬は「モモが好き」と冗談ばかり言っていた。
いざ彼女が出来て、彼女と誕生日を祝うことになってーー引っ込みがつかなくなったのかもしれない。
いや、だったら普通に「彼女出来た」とドヤってきそうだよな……。だな!
玄関チャイムを押したら、ばたばたと音がして、
「あっれ……モモ?」
ドアをから顔を出した山瀬が驚いた表情をした。
視線が下がり、オレが持っていた手提げ袋にいく。
オレは、さっと山瀬に差し出す。
「これ、プレゼント! 帽子! 無くしたろ? ちょうど誕生日だったし、たまにはいいかなって」
店員さんが「プレゼントですか?」と丁寧にラッピングしてくれたから、妙に気恥ずかしい。
山瀬は目を丸くしたまま受け取り、そのまま持っている。
「……」
山瀬が何も言わないので少し焦る。
「開けて! ほら、喜ぶ顔見るのがプレゼントの醍醐味なんだからさ!」
ちらっと山瀬の家の中に目をやる。人の気配はない。両親ともまだ帰っていないのかもしれない。
「……サンキュー。嬉しすぎてびびったわ」
そう言って山瀬はようやく笑い、家にいれてくれた。
山瀬の部屋に行くと、ラッピングされたままのプレゼントがいくつか置いてあった。
「モテるねー」
冷やかすと「うるせ」と返される。
「今日さぁ、山瀬、なかなか捕まんなくて、オレ邪魔なのかと思った」
本音半分、冗談半分。
「んなわけないだろ。モモこそ、オレの誕生日祝ってる場合じゃねーだろ。彼女いんだし」
「は?」
なんのこと?
よくよく聞いたら、バスで隣になった女子のことだった。バッシュ選びに付き合ってほしいと言われ、一度だけ一緒に出かけたけど……どこでそういう話になったのか。
驚いて否定したら「なんだ」と笑われた。そのとき瞳にほっとしたような色が見えたのは…気のせいだろう、多分。
そして、山瀬に
「誕生日祝ってくれとか言うの、照れくさくて逃げてた」
そう言われたから笑ってしまった。
一緒に過ごしたくなくて避けられていたわけじゃなかったんだ。
しかも照れくさいとかなんだ。付き合いが長いのに、山瀬の照れのツボが分からない。
山瀬はオレのプレゼントを丁寧にあけて、モスグリーンのキャップを取り出す。
「おーかっけー!」と山瀬。
目をキラキラさせて、スポッと被り、鏡の前に立って調整している。
「どう?」
「似合うじゃん!」
オレはベッドに腰掛けて見あげる。黒とモスグリーンで迷ったが、モスグリーンのほうが柔らかく見える気がする。はっきりした顔立ちの山瀬によく似合う。
「モモも被ってみてよ」
「え?」
少し面食らった。オレが被るって、どうして?
「オレはいいよ。あげたんだから」と言うと、
「いや、どんな感じに見えるか見てみたいから」
言いながら、山瀬はかがんでオレの頭にキャップを被せてきた。
そのまま両手で、オレの頭の両サイドを押さえる。
ーーえっ?
手が離れない。
顔を覗き込んでくる。
近い。
友達の距離じゃない。
顔が熱くなる。
こんなに近くから見つめられるのは、息が苦しくて……でも、顔をそらすのも意識してるみたいで気まずくて…
心臓がバクバクする。
体を動かすとベッドが軋む音がする。
息を止めないと、山瀬の鼻に息がかかってしまう。
だから、言葉を口から出せない。
山瀬の目が、じっとオレを見ている。
いつもの、冗談を言っている目じゃない。
真剣。
「……かわい」
目を細めてぽつりと言われた。
どうしよう。
どうしよう。
山瀬!!
「ーーなぁんて」
山瀬は冗談めかしてから、オレの頭からキャップを取った。
オレはベッドに座って固まったまま。
山瀬はなんでもないようにキャップを机に置いている。
そして、振り返ってにこっと笑った。
「モモ、ありがとう」
「め、珍しく素直! よっ、さすがイケメン!」
混ぜかえしてみるが、ドキドキが止まらなくなった。多分、顔は真っ赤だ。
慌ててバッグを掴み、立ち上がる。
なんだ。なんなんだ。
距離感おかしいだろ!
嫌じゃないオレもおかしいだろ! なんのおふざけだよ!
部屋を出ていく直前。
「モモ」
不意に後ろから声を掛けられる。
低くて静かな、山瀬の声。
「モモ、ごめん。オレーーモモが好き」
ーーえ。
心臓が止まりそうになった。
好きって……。
これまでのことが蘇る。
前に、恋人のフリを女子に咎められたとき
「モモのことが好きなのは、本当」って言ってた。
ジェットコースターでは「モモ好きだからモモと乗る」って言ってた。それで手を握られて…
バスケのあと、モモ呼びを「独占欲」って茶化そうとしたら、怒ったのも。
雨の日に切なげな顔で唇に触れようとしたのも。
全部。
本当は、そうなのかなって、思ったこともあったけど……。
オレは、山瀬の顔が見られなかった。
気づかなかったわけじゃない。ただ、今の関係を壊すのが怖くて逃げていたんだ。
山瀬が傷つくかもしれないって分かっていたのに。
どんな言葉を返したらいいのか分からない。
ただ、
「……うん」
どうにか絞り出して、家を後にした。
オレにとっては山瀬の誕生日。
小学生のころは、誕生日といえばプレゼントを贈るのが恒例だった。
けれど中学以降はそういったイベントをしなくなり、オレと山瀬も「誕生日にはお互いにマックを奢る」で落ち着いていたのだけど。
ーー今年は、久々にプレゼントを用意しよう。
オレは気合を入れていた。
というのも、校外学習で出かけた先で、山瀬が帽子を無くしたのだ。
帰宅後
「オレの帽子、モモのカバンに入ってねぇ?」
と、LINEが来ていた。
授業の合間の休憩タイム。
オレがスマホで帽子のカタログを見ていると、前の方で女子が騒ぎ始めた。
「山瀬くん、誕生日もうすぐだね」
「カラオケ行こ。ハピバ歌うから!」
「あーでもオレ」
山瀬が笑いながら返している。
「モモが誘ってくれんの待ってんの。駄目だったらカラオケね」
「またそれっ!どこまで本気?!」
オレはスマホから目を上げないままやり過ごす。
胸が痺れるような変な熱さを感じる。
やっぱり「モモが」と言われると嬉しい。言われないと寂しい。
「桃田くーん。どうすんのぉ?」
強気タイプの女子がこちらに向かって声をかけてくる。気づいているのにスルーしているのがバレていたか。
オレは顔を上げて返事をする。
「どうしよっかなーぁ」
茶化してみると、
「うっわ、選択権が桃田くん!」
「別格の強さ!」
女子が笑った。
手元のスマホに目を戻すと、色々なオシャレな帽子。
小学生のころも、山瀬の喜ぶ顔を想像してプレゼントを選ぶのが楽しかった。
ーー帽子をあげたら、その場で被って貰う流れよな? いや、プレゼントだから被せてあげんのか……?
オレは、山瀬に帽子を被せてやるところを想像した。
「……」
オレが両手で帽子をもって、山瀬にスポッとやって、そうしたらその手を山瀬が掴んで……て……
な、わけねええええーー!
顔近すぎだろ! それはカップルのするこったろおおおーー!!
「も、桃田くん?」
隣の席の女子に怯えられてはっとした。
山瀬の距離感がおかしいせいで、変な想像をしてしまった。
全部山瀬が悪い。
* * *
山瀬の誕生日、当日。
朝、山瀬の家に行ったら「なんか、用があるって先行った」と、お母さんに言われた。
学校に行ったら、すでに女子に囲まれていて話しかける隙もなかった。
帰りにマックに誘ったら「今日、用があって…先帰って」と濁された。
ーー避けられてる?
全く会話のチャンスがない。
もしかして、本命の彼女とデートだったり?
そんな風に思いながら一人で家に帰る。なぜもやもやするのか分からない。
LINEばかり見てしまう。見るくせに、打つのにためらう謎仕様。
二階の窓から、細い庭を挟んだ山瀬の部屋の方を見る。暗くなっても電気がつかない。……夜8時を過ぎて、ぱっと電気がついたのにすぐに気づく。
行ってみよう! 深く考えてもしょーがない!
オレは、プレゼントを持って山瀬の家の玄関チャイムを押そうとして、少し躊躇する。
ーーオレ、もしかして邪魔か?
普段から山瀬は「モモが好き」と冗談ばかり言っていた。
いざ彼女が出来て、彼女と誕生日を祝うことになってーー引っ込みがつかなくなったのかもしれない。
いや、だったら普通に「彼女出来た」とドヤってきそうだよな……。だな!
玄関チャイムを押したら、ばたばたと音がして、
「あっれ……モモ?」
ドアをから顔を出した山瀬が驚いた表情をした。
視線が下がり、オレが持っていた手提げ袋にいく。
オレは、さっと山瀬に差し出す。
「これ、プレゼント! 帽子! 無くしたろ? ちょうど誕生日だったし、たまにはいいかなって」
店員さんが「プレゼントですか?」と丁寧にラッピングしてくれたから、妙に気恥ずかしい。
山瀬は目を丸くしたまま受け取り、そのまま持っている。
「……」
山瀬が何も言わないので少し焦る。
「開けて! ほら、喜ぶ顔見るのがプレゼントの醍醐味なんだからさ!」
ちらっと山瀬の家の中に目をやる。人の気配はない。両親ともまだ帰っていないのかもしれない。
「……サンキュー。嬉しすぎてびびったわ」
そう言って山瀬はようやく笑い、家にいれてくれた。
山瀬の部屋に行くと、ラッピングされたままのプレゼントがいくつか置いてあった。
「モテるねー」
冷やかすと「うるせ」と返される。
「今日さぁ、山瀬、なかなか捕まんなくて、オレ邪魔なのかと思った」
本音半分、冗談半分。
「んなわけないだろ。モモこそ、オレの誕生日祝ってる場合じゃねーだろ。彼女いんだし」
「は?」
なんのこと?
よくよく聞いたら、バスで隣になった女子のことだった。バッシュ選びに付き合ってほしいと言われ、一度だけ一緒に出かけたけど……どこでそういう話になったのか。
驚いて否定したら「なんだ」と笑われた。そのとき瞳にほっとしたような色が見えたのは…気のせいだろう、多分。
そして、山瀬に
「誕生日祝ってくれとか言うの、照れくさくて逃げてた」
そう言われたから笑ってしまった。
一緒に過ごしたくなくて避けられていたわけじゃなかったんだ。
しかも照れくさいとかなんだ。付き合いが長いのに、山瀬の照れのツボが分からない。
山瀬はオレのプレゼントを丁寧にあけて、モスグリーンのキャップを取り出す。
「おーかっけー!」と山瀬。
目をキラキラさせて、スポッと被り、鏡の前に立って調整している。
「どう?」
「似合うじゃん!」
オレはベッドに腰掛けて見あげる。黒とモスグリーンで迷ったが、モスグリーンのほうが柔らかく見える気がする。はっきりした顔立ちの山瀬によく似合う。
「モモも被ってみてよ」
「え?」
少し面食らった。オレが被るって、どうして?
「オレはいいよ。あげたんだから」と言うと、
「いや、どんな感じに見えるか見てみたいから」
言いながら、山瀬はかがんでオレの頭にキャップを被せてきた。
そのまま両手で、オレの頭の両サイドを押さえる。
ーーえっ?
手が離れない。
顔を覗き込んでくる。
近い。
友達の距離じゃない。
顔が熱くなる。
こんなに近くから見つめられるのは、息が苦しくて……でも、顔をそらすのも意識してるみたいで気まずくて…
心臓がバクバクする。
体を動かすとベッドが軋む音がする。
息を止めないと、山瀬の鼻に息がかかってしまう。
だから、言葉を口から出せない。
山瀬の目が、じっとオレを見ている。
いつもの、冗談を言っている目じゃない。
真剣。
「……かわい」
目を細めてぽつりと言われた。
どうしよう。
どうしよう。
山瀬!!
「ーーなぁんて」
山瀬は冗談めかしてから、オレの頭からキャップを取った。
オレはベッドに座って固まったまま。
山瀬はなんでもないようにキャップを机に置いている。
そして、振り返ってにこっと笑った。
「モモ、ありがとう」
「め、珍しく素直! よっ、さすがイケメン!」
混ぜかえしてみるが、ドキドキが止まらなくなった。多分、顔は真っ赤だ。
慌ててバッグを掴み、立ち上がる。
なんだ。なんなんだ。
距離感おかしいだろ!
嫌じゃないオレもおかしいだろ! なんのおふざけだよ!
部屋を出ていく直前。
「モモ」
不意に後ろから声を掛けられる。
低くて静かな、山瀬の声。
「モモ、ごめん。オレーーモモが好き」
ーーえ。
心臓が止まりそうになった。
好きって……。
これまでのことが蘇る。
前に、恋人のフリを女子に咎められたとき
「モモのことが好きなのは、本当」って言ってた。
ジェットコースターでは「モモ好きだからモモと乗る」って言ってた。それで手を握られて…
バスケのあと、モモ呼びを「独占欲」って茶化そうとしたら、怒ったのも。
雨の日に切なげな顔で唇に触れようとしたのも。
全部。
本当は、そうなのかなって、思ったこともあったけど……。
オレは、山瀬の顔が見られなかった。
気づかなかったわけじゃない。ただ、今の関係を壊すのが怖くて逃げていたんだ。
山瀬が傷つくかもしれないって分かっていたのに。
どんな言葉を返したらいいのか分からない。
ただ、
「……うん」
どうにか絞り出して、家を後にした。

