モテる幼馴染に恋人のフリを頼まれた

♥山瀬視点♥

ピンポーン

朝、山瀬家。
オレがベッドの中でまどろんでいると、玄関チャイムが聞こえた。

ーーモモが迎えに来たのか? こんな早い時間に?

枕元に置いたスマホの時計を見る。
そして一気に青ざめる。

8時! 遅刻コースじゃねーか!

昨日の夜は、なかなか寝付けなかった。
バスケのあとの更衣室でのやりとりが蘇る。

『小さい稲妻』

モモに酷いことを言って傷つけた。
モモが女子に囲まれているのを見て、パニックになっていた。

調子に乗るな。これ以上目立つな。
お前に注目するのはオレだけでいいんだ。
取られたくない!
モモって呼んでいいのはオレだけなんだ!

あげくモモに『それって独占欲…』と図星をさされて、見破られた衝撃と

ーーオレの独占欲思い知れよ!

というヤケクソで、ロッカーにモモを追い詰めてしまった。そして驚いているモモを残して逃走。

体育のあとは美術の授業だったが、モモは黙っているきりだった。その後は委員会だったから話す機会はなかった。

玄関先でモモが母と何かを話している。
布団に潜ってる場合か。気まずいからってーー早くオレが行けばいいのに。なに逃げてんだ。

ばたばたと足音が近づいてきた。ガチャッと部屋のドアが開く。母親に怒鳴られるかと布団の中で身をすくませたらーー

「やーませ! もう8時だって、遅刻する!」

可愛い顔がぴょこんと現れた。ニコニコ笑っている。

モモ!

以前、中一の頃だったかモモに『山瀬のタイプってどんな子?』と聞かれたことがある。目の前にいたモモを見ながら

『ショートカットの元気なタイプ』と答えたけど……

タイプじゃなくて、モモが好きなんだ。

そのときに、自覚した。

モモが部屋に入ってくる。容赦なく布団を引っ剥がしにくる。幼馴染の距離感。

ーーでも、無防備すぎる。

ベッドに手をついている。ずっと触れたかった指。
そのまま掴まれて押し倒されるかもなんて、想像もしていない。

少し開いた唇がちらりと視界にはいり、慌てて目をそらす。

「……すぐ用意すっから、リビング行ってて」

体を起こし、ベッドの手を振り払った。触れてしまった自分にドキドキしている。

ジェットコースターの時のこと、モモはなにも言ってこないけど、どう思っているんだろう。


※  ※  ※


がらがらっ

教室のドアをあける。汗が額を伝う。
遅刻するかとダッシュしたオレとモモは、息を切らしながら2人同時に壁の時計を見る。

「おっしゃー!」「よゆーじゃねーか!」

授業開始10分前。間に合った。

『スマホを見ずに、駅を出たらダッシュで学校まで!』

を、合言葉に二人で走った。
足の速いモモ、背が高くてリーチで稼げるオレ。同じペースで走れるだろうと思ったら、モモがとんでもなかった。

早えぇぇぇ! しかも疲れ知らず!!

一人だけ息を切らすのも悔しくて、なるべく余裕を装ったが息も体も熱くなる。
でも、走ったら、色々な思いが風にのってどんどん後ろに飛んでいくような気がした。

走りながら

「モモ! 昨日はごめん!」

息を吐きながら謝った。

「ちっせー男だな! 気にすんな!」

モモに笑ってカバンを叩かれた。バシッとやられて、うじうじと悩んでいた心まで喝をいれられた気がした。そうだ、モモはそういうヤツだ。

小4の頃。一緒にはいった料理クラブでホットケーキを作った。焦がしたオレのを、うまいうまいと食べてくれた。

中学のとき。バスケの試合中にオレとぶつかったモモが転んでケガをした。エースをケガさせたと周りに追及されるのが怖くて謝れなかったオレを「急にふらついた。しくった」と庇ってくれた。

モモ。
なんで好きになっちゃったんだろうな。いや、好きになるだろ。当たり前だろ。

「山瀬くん! ぼーっとしてどうしたの?」

気づいたら、いつもの朝のように女子に囲まれていた。ぼんやりしていた。
ふと後ろを振り返ると、モモも女子と、男子にも囲まれて真ん中で笑っていた。
開けっ放しの窓からの風がモモの髪をゆらしている。

ばちんと目があった。
モモが立ち上がってこちらにむかって歩いてきた。

ーーえっ?

モモはオレの背後にまわり、突然、頭を撫でてきた。ドキっとしたとたん、座っているオレの頭に手を置いたまま、その上に自分の顎を乗せた。見えないけど、多分。

「なに話してんのー」

モモが女子に話しかける。

なんっだこれ。
オレが昨日やったやつの逆パターン。モモ、近い近い。モモの声がすぐ頭の上で聞こえる。

女子がけらけらと笑った。

「距離ちっか!」
「マジで仲いーね」
「モモ、今日髪はねてるよー」

「あー」

モモの困ったような笑い声が降ってくる。

「オレ、”ももだ”呼びで宜しく。モモは照れて無理。山瀬は昔からだからいいけどさぁ」

「えーーーっ」
「せっかく可愛いのにぃ」

女子の不満そうな声。
モモの話す声が、振動が、モモの手の平越しにオレの頭に伝わってくる。

オレだけが『モモ』を許された!

胸にじんわりと幸せが広がって、息が苦しくなった。

ーーでも、モモは、幼馴染以上にオレのことが好きなわけじゃない。

それを間違えちゃいけない。
こんなに近くにいるのに。

担任が前のドアから入ってきた。モモも女子たちも慌てて席に戻っていく。

オレは、幸せと絶望の間を行ったりきたりしていた。

ーーー

次話 モモ視点に戻ります