山瀬のことを好きになりはじめてるのかもしれない。
そう気がついた瞬間から世界が変わってみえる。
いや、大したことないんだ。
廊下の壁にもたれてスマホを見てるだけの山瀬がかっこよく見えたり。
隣に並ぶと少し上から聞こえる低い声がなんだか艶っぽいなと気がついたり。
毎朝恒例の、山瀬席のまわりの女子の人垣が邪魔な壁にみえたり…とか。
別に山瀬自身は変わっていない。見え方が変わっただけ。
朝礼中、くしゃみが出そうになって、口を押さえたときに山瀬と目が合った。くしゃみを見られたくなくて我慢しようとしたら、
「ぶぶくっしょーい」
失敗して変なくしゃみになってしまった。
涙が出る。
山瀬は笑ってる。ほかのクラスメイトも笑ってる。ついでに先生も笑ってた。泣ける。
* * *
山瀬は、あの日以降、なにも言ってこない。
登校は一緒、下校も時間があえば一緒。
告白という爆弾が落ちても、幼馴染の親友ポジションは変わらない。
でも、山瀬は女子の前で「モモが好き」とは言わなくなった。頭を撫ぜたり近すぎる距離から見つめることもしてこない。
よく言えば、普通の友達の距離感になったということだ。
でも、今までが今までだけに、
ーー距離、置かれたのかな。
とか、
ーー山瀬もしかして、オレにかまったら嫌われるとか思って抑えてんのかな。
とか、悩んでしまう。
悩んでしまうのは、もちろんオレが、前の距離感でいいのに…と思ってしまっているからだけど。
「モモ」
後ろから低く艶っぽい声で呼びかけられて、肩が跳ね上がった。
放課後の教室。
オレは、今回の期末テスト後も先生に課題を課せられ、一人居残っていた。
中の上の成績を取った山瀬は、もう帰ったと思っていたのに。
山瀬がオレの前の席に座り、机の上の課題に目を落とす。
「何枚あんの? これ」
「出てるプリントだけ。物理、マジで分からん」
思わずため息が出る。
……ドキドキする。
見られているとやりにくい。
前だったら「じゃま。帰って」と普通に言えたのに、今は言えない。
こっそり耳を澄ます。
廊下を歩く音も、話し声もない。グラウンドから野球部の掛け声だけが聞こえてくる。
教室に2人きり。
山瀬、また何か言ってくるんだろうか。
前にもこんなことがあった。
そのときはいきなりネクタイを掴まれて、近くから見つめられて混乱した。
今日もオレ、ネクタイしてるけど…でも…。
「モモ」
ドキッとして顔が赤くなってしまう。
悟られないように、課題に目を落とす。
指で頬をかいた瞬間ーー
「オレ、帰るわ」
ーーえ?
オレは一瞬思考停止した。
2人きりでも何も聞かないんだ。
「物理じゃ手伝えそうもない。✕田に聞いたら? あいつまだ、花壇にいたぜ」
あっさり言って山瀬が立ち上がった。
相変わらずポケットに手を入れながら教室を出ていく。
「……せ」
呼び止めようとしたが、声が出なかった。
行ってしまった。
……そんなの、ありかよ。
そう思いながら、甘いセリフを期待していた自分に赤面する。
言ってもらおうなんて、おこがましい。
山瀬が自分を見てくれるのが嬉しいんだ。
自覚しろ。
山瀬が離れていくのは嫌なくせに、こちらから近づこうとしないのはずるいだろ。
それが恋愛感情なのかは分からない。
親友としての好きと、恋人としての好きの違いは何?
山瀬はそれが分かってるのか?
ーーオレを好きだって言ってた。
胸がきゅっと苦しくなる。
早くこの状態から解放されたいのに。
考えたって分からない。
ーーだったら。
山瀬に聞いてみよう!
オレは課題をカバンに詰め込んで、勢いよく教室を飛び出した。
「山瀬!!」
そう気がついた瞬間から世界が変わってみえる。
いや、大したことないんだ。
廊下の壁にもたれてスマホを見てるだけの山瀬がかっこよく見えたり。
隣に並ぶと少し上から聞こえる低い声がなんだか艶っぽいなと気がついたり。
毎朝恒例の、山瀬席のまわりの女子の人垣が邪魔な壁にみえたり…とか。
別に山瀬自身は変わっていない。見え方が変わっただけ。
朝礼中、くしゃみが出そうになって、口を押さえたときに山瀬と目が合った。くしゃみを見られたくなくて我慢しようとしたら、
「ぶぶくっしょーい」
失敗して変なくしゃみになってしまった。
涙が出る。
山瀬は笑ってる。ほかのクラスメイトも笑ってる。ついでに先生も笑ってた。泣ける。
* * *
山瀬は、あの日以降、なにも言ってこない。
登校は一緒、下校も時間があえば一緒。
告白という爆弾が落ちても、幼馴染の親友ポジションは変わらない。
でも、山瀬は女子の前で「モモが好き」とは言わなくなった。頭を撫ぜたり近すぎる距離から見つめることもしてこない。
よく言えば、普通の友達の距離感になったということだ。
でも、今までが今までだけに、
ーー距離、置かれたのかな。
とか、
ーー山瀬もしかして、オレにかまったら嫌われるとか思って抑えてんのかな。
とか、悩んでしまう。
悩んでしまうのは、もちろんオレが、前の距離感でいいのに…と思ってしまっているからだけど。
「モモ」
後ろから低く艶っぽい声で呼びかけられて、肩が跳ね上がった。
放課後の教室。
オレは、今回の期末テスト後も先生に課題を課せられ、一人居残っていた。
中の上の成績を取った山瀬は、もう帰ったと思っていたのに。
山瀬がオレの前の席に座り、机の上の課題に目を落とす。
「何枚あんの? これ」
「出てるプリントだけ。物理、マジで分からん」
思わずため息が出る。
……ドキドキする。
見られているとやりにくい。
前だったら「じゃま。帰って」と普通に言えたのに、今は言えない。
こっそり耳を澄ます。
廊下を歩く音も、話し声もない。グラウンドから野球部の掛け声だけが聞こえてくる。
教室に2人きり。
山瀬、また何か言ってくるんだろうか。
前にもこんなことがあった。
そのときはいきなりネクタイを掴まれて、近くから見つめられて混乱した。
今日もオレ、ネクタイしてるけど…でも…。
「モモ」
ドキッとして顔が赤くなってしまう。
悟られないように、課題に目を落とす。
指で頬をかいた瞬間ーー
「オレ、帰るわ」
ーーえ?
オレは一瞬思考停止した。
2人きりでも何も聞かないんだ。
「物理じゃ手伝えそうもない。✕田に聞いたら? あいつまだ、花壇にいたぜ」
あっさり言って山瀬が立ち上がった。
相変わらずポケットに手を入れながら教室を出ていく。
「……せ」
呼び止めようとしたが、声が出なかった。
行ってしまった。
……そんなの、ありかよ。
そう思いながら、甘いセリフを期待していた自分に赤面する。
言ってもらおうなんて、おこがましい。
山瀬が自分を見てくれるのが嬉しいんだ。
自覚しろ。
山瀬が離れていくのは嫌なくせに、こちらから近づこうとしないのはずるいだろ。
それが恋愛感情なのかは分からない。
親友としての好きと、恋人としての好きの違いは何?
山瀬はそれが分かってるのか?
ーーオレを好きだって言ってた。
胸がきゅっと苦しくなる。
早くこの状態から解放されたいのに。
考えたって分からない。
ーーだったら。
山瀬に聞いてみよう!
オレは課題をカバンに詰め込んで、勢いよく教室を飛び出した。
「山瀬!!」

