モテる幼馴染に恋人のフリを頼まれた

眠れないと思っていたのに、気づいたら朝だった。
カーテンのすき間から眩しい陽が入る。枕元のスマホを見ると、7時。

昨日、山瀬に告白された。

「モモ、ごめん。オレーーモモが好き」

そう言われた。

何か返さなければ…とは思った。

ーーなんでごめんなんだよ。

気づかないフリをしてたオレの方がごめんだよ。
きっと、苦しかったろ?
親友を好きになっちゃいけないわけじゃない。
ただ、オレに答える準備が出来ていなかっただけで。
嫌じゃない。それだけは伝えたいのに。

伝えたかったのにーー「うん」のひと言しか口に出せなかった。

でも、山瀬はきっと今頃、オレ以上にどうすればいいか悩んでいるはずなんだ。

「おしっ!」

オレは気合を入れてベッドから飛び起きた。
朝のトーストが喉に詰まるけど牛乳で飲み下し、家を飛び出す。
いつも家を出る時間より30分も早い。
山瀬の家の玄関チャイムの前で息を吸う。

ガチャッ

押す前にドアが開いた。心臓が跳ね上がる。
山瀬が内側からドアを開けるところだった。山瀬が目を見開く。

「やっぱり!」

オレは動悸を誤魔化しながら目一杯余裕ぶって茶化してみた。

「どうせ気まずくて先行こうとしたんだろ?」

山瀬が赤い目でオレを見下ろしてくる。あまり寝られなかったんだろう。泣いたあとのようにも見える。
胸が痛くなる。オレのせいで……。

オレは山瀬の腕を軽く叩いた。

「何年付き合ってんだよ。いまさら何があっても壊れねぇよ」

オレが歩き始めると、山瀬も慌ててついてくる。
無言のまま、二人でしばらく歩く。
一歩後ろにいた山瀬がすっと追い抜かしてきた。

「モモ。オレ、友達でもいられねぇかと思った」

山瀬がはあっと息を吐き出してこちらを見る。

「もう話せないかと」

「そんなわけない」

オレも歩きながら山瀬を振り仰いだ。

「オレさ、昨日から伝えたいと思ってたことがあって」

山瀬が息を飲むのが分かった。返事をされると思っているのかもしれない。半分そうで、半分違う。

山瀬はいつものようにポケットに手を突っ込んだ。冷静を装っているようで、歩き方が硬い。
オレも隣を歩きながら、昨日から言いたかったことを山瀬に伝える。

「オレ、嫌じゃない。だから、ごめんなんて言う必要ない」

ーーそれ以上の返事は、待ってほしい。

口には出さなかったけど。

山瀬は「ありがとう」と小さく呟いた。

人が増えてきた。
二人で角を曲がると、駅が見えてくる。

息があがる。
ただ歩いているだけなのに、ドキドキして苦しい。


*  *  *


その日は授業中も、山瀬のことばかり考えていた。
そして、放課後。

「桃田くん!」

体育用具室で片付けをしていたら、女子に声をかけられた。
一緒にバッシュを買いに行ったら、オレと付き合ってることにされた子。

オレはバスケのボールを籠に投げ入れる。
体育用具室にはオレと彼女だけ。
彼女が、用具室の床に転がっていたほかのボールも投げ入れる。オレが、使った台車を壁際に寄せて部屋を出たところで

「桃田くんって、好きな人いるの?」

不意に声をかけられた。
振り向くと、手にタオルを握りしめてこちらを真っ直ぐに見つめていた。
ドキッとする。
オレに好きな人がいるのか、なんで気になるんだろう。

「ーーあ、なんかオレと付き合ってるって噂流れてるみたいだね。ごめん。ちゃんと否定しとくから」

笑ってその場を離れようとしたら、言われた。

「私は桃田くんが好き!」

胸がかっと熱くなる。

好きだと言われて嬉しくないわけがない。
バスケ好きの可愛い女の子。

でも。

「オレーーごめん。そんなん言われて嬉しいけど、そういう風には見れなくて…」

オレは彼女を見つめながら伝えた。
真剣に告白してくれたんだ。言いにくくても、真剣に返したい。

きゅ、と体育館の床が鳴った。
一瞬の沈黙。

「……ごめん」

オレは手元の用具室の鍵を握りしめた。
彼女が用具室から出てきた。

「そっか。はっきり言ってくれて良かった」

首を傾げて笑っている。
切なげな笑顔に申し訳なく思う。でも、応えられないものは仕方ない。

ーーでも、オレ、山瀬の「好き」は断らなかった。

待ってほしいとは思ったけど……断ることはしなかった。

どうして?
応える気がないなら、断るだろ?

今だって、断り方じゃなくて、どうしたら応えられるかを探してる。

彼女が目の前を通り過ぎる。
一人になったオレは、用具室の鍵をかけた。ガチャ、という音とともに手が止まる。

それは、山瀬のことを好きになり始めているからかもしれない。

そう気がついて、顔が赤くなっていくのを感じた。