地球の果ての島の物語(白兎事件編)

(柚木)

「ゆーずきー、調子は大丈夫?」

 石田から子ども達を学校へ送り届けたというメッセージを読んでいたら、ベランダに繋がる窓が開けられた。
 6対の天使の羽を持つ天使、中川は銀色のふわふわした髪をこてんと傾けて、紫色の綺麗な瞳を柔らかく細める。

「わぁ、本当に子どもの姿だねぇ。熱はもうないの?」
「熱はもうない」
「それは良かった」

 中川はベランダで靴を脱いで、中へ入ってきた。手には紙袋を下げている。

「何持ってんの?」
「一緒に食べようと思ってアイス買ってきたのー。現世のお高いアイス屋さんだよ」
「アイス!」

 この姿は嫌だけど、いつまでも不貞腐れていたって仕方ないしアイスは食べたい。
 おれはキッチンの上の戸棚からマグカップを取ろうとして、届かないことに気付く。中川がすぐに側に来ておれと中川のマグカップを取り出してくれた。
 おれのマグカップは黄色のペンギン、中川のマグカップは紫色のペンギン。
 引っ越してきた時に中川が買ってくれた。大事にしているマグカップに紅茶を淹れて、ふたりで向かい合わせに座る。

「柚木はミルクでしょ」
「うん。中川は?」
「俺は抹茶味だよー」

 手のひらサイズのカップアイスには英語でミルク味と書かれている。
 蓋を開けると、中蓋があった。ペリペリ外していると、中川がふふっと小さな声をあげる。

「なんだか懐かしいね」
「⋯⋯おれは嬉しくない」
「そっか。ごめんね」

 謝って欲しかったわけじゃない。おれは首を振って、乳白色のアイスを見下ろした。
 
 アイスは、お腹が痛くても食べられる。
 口の中が血の味がしても、歯が折れていても、アイスなら食べられた。
 だから、アイスがあると安心する。薄ら暗い思いを抱えながらアイスを口に入れると、口の中ですぐに解けて甘い味が広がった。

「美味しい!」
「でしょ。これ1個500円もするんだよ」
「高級アイス⋯⋯!」
「だから、柚木にだけ特別ね」

 中川は天使の微笑みを浮かべて、小首を傾げる。

「柚木は俺の神様なんだから」

 ―――中川、おれは神様なんかじゃないよ。

 何も守れない。何も救えない。そんな役立たずのおれが、神様なんて名乗る資格はないんだ。

 だけど、中川には言わない。中川が側からいなくなるのは嫌だから。おれはずるくて気持ち悪くて、⋯⋯最低なやつだ。

「ありがとう、中川」
「どういたしまして〜」

 やっぱり、おれはあの時消えたって良かったのに。
 中川に気を使わせて、仕事もせずにアイス食べて、のうのうと生きているおれは、本当に―――

 存在している価値のない、歪で腐った存在だ。