ゆっくりと彼女の瞼が開かれ――カッと見開いた。
「に、兄さん!?」
「……は?」
彼女は意味の分からない言葉を口にして、俺の腕から地面へと降りた。
俺の爪先から頭の先まで舐め回す様に見ている瞳が濡れてるのは――雨とは関係なさそうだ。
透き通った美しい瞳がキラキラと瞬く。
「こんな大男は、兄さんしか有り得ません! 髪型や服装は奇天烈ですが……っ。うっさんど――……っ」
「ちょ、ちょっと待って」
確かに、俺はキーパーをしていただけあって身長は一八五センチメートルぐらいある。
だけど、それだけで兄と勘違いする程に珍しい高身長ではないだろう。
そうか、落雷で混乱してるんだな?
一回、落ち着いて欲しい。
「ぇ? ぁ、ああ! こ、興奮のあまり、方言を使ってしまいました!? 標準語励行を破ったのを憲兵さんに聞かれたら、間諜の疑いで方言札を首から掛けられて……。下手をすれば尋問されちゃいますっ! き、聞かれてない、ですよね?」
標準語励行に憲兵? 間諜? 尋問?
映画で見たことがあるけど、間諜ってスパイのことだよな?
もう、意味が分からない……。
更にテンパってしまった彼女だが、誰にも聞かれていないのを理解したみたいだ。
ふぅと、安心した様に大きく息を吐いた。
あどけなさを感じる、可愛い満面の笑みを浮かべてる。
「えっと……。どこかで会ったかな?」
「ま、まさか、私のことを忘れてしまったんですか!? に、兄さんが分家の養子になって以来、久しぶりに会うからって……。そんな寂しいことを言わないでください」
先ほどの弾けるような笑みから一転、悲しそうな表情に罪悪感が湧く。
「ご、ごめん?」
「兄さんが空襲で行方不明になってから……。お父さんも、お母さんも、一子も、心配していたのですよ? もう、二度と、会えないんじゃないかって」
嬉しそうに表情を崩して涙を流す彼女に、とてもじゃないけどついていけない。
全く状況が理解できないんだけど……。
服装とか言葉選びとか、ツッコミたいのは俺の方だ。
「お父さんは、軍務に追われる中で通信隊の伝手を使い、焼けた街の中で生存情報がないか、ずっと兄さんのことを捜していました。生きていたのなら、何で連絡をしてくださらなかったのですか?」
「ちょ、ちょっと待って?」
「まさか、分家の養子になったから、もう家族ではないとか考えていないですよね?」
軍務に通信隊……。?
ま、まさかとは思うけれど……。
「……兄さん、どうしたのですか?」
昨日、図書館で何となく頭に詰め込んだ断片的な知識が蘇る。
現代人なら、まず使わない言葉の数々。服装。
普通に考えれば、有り得ない話だけど――。
「――まさか君は、第二次世界大戦の……。戦時中から来た、とか?」
俺の質問に、彼女はキョトンとして目を瞬かせた。
「大東亜戦争のことですか? 兄さん何を言っているのですか。」
「今が戦時中だなんて、当然の話ではないですか」
当然……?
戦争中なのが、当然?
「もしかして、兄さんは、空襲で記憶を失ってしまったのですか……?」
思わず天を仰いだ。
勢いを増してきた雨粒が顔や目に当たって痛むが、構わない。
夢を見ているなら、どうか俺の顔を洗って覚ましてくれ。
「ひっ!? こ、この見慣れない場所は、どこですか? 見たことのない、天高く伸びる建造物が山の様に……ッ。く、車が通過する様な響きまでも次々と!?」
今更ながら気が付いたのか、彼女は驚き混乱してるようだ。
混乱してるのは、俺の方だ……。
「なな、何で私は、この様な場所に!? まさか空襲の爆撃で死んだの!? そ、そうだとしたら、まさか、ここは死後の世界……。噂に聞く、天国……?」
そんなの、有り得るわけがないだろう……。
第二次世界大戦の起きている最中、空襲が日本で起きている時代。
そんな時代に生きている人間が、人間が二〇二五年にタイムスリップしてきたとでも言うつもりか――……?
「に、兄さん!?」
「……は?」
彼女は意味の分からない言葉を口にして、俺の腕から地面へと降りた。
俺の爪先から頭の先まで舐め回す様に見ている瞳が濡れてるのは――雨とは関係なさそうだ。
透き通った美しい瞳がキラキラと瞬く。
「こんな大男は、兄さんしか有り得ません! 髪型や服装は奇天烈ですが……っ。うっさんど――……っ」
「ちょ、ちょっと待って」
確かに、俺はキーパーをしていただけあって身長は一八五センチメートルぐらいある。
だけど、それだけで兄と勘違いする程に珍しい高身長ではないだろう。
そうか、落雷で混乱してるんだな?
一回、落ち着いて欲しい。
「ぇ? ぁ、ああ! こ、興奮のあまり、方言を使ってしまいました!? 標準語励行を破ったのを憲兵さんに聞かれたら、間諜の疑いで方言札を首から掛けられて……。下手をすれば尋問されちゃいますっ! き、聞かれてない、ですよね?」
標準語励行に憲兵? 間諜? 尋問?
映画で見たことがあるけど、間諜ってスパイのことだよな?
もう、意味が分からない……。
更にテンパってしまった彼女だが、誰にも聞かれていないのを理解したみたいだ。
ふぅと、安心した様に大きく息を吐いた。
あどけなさを感じる、可愛い満面の笑みを浮かべてる。
「えっと……。どこかで会ったかな?」
「ま、まさか、私のことを忘れてしまったんですか!? に、兄さんが分家の養子になって以来、久しぶりに会うからって……。そんな寂しいことを言わないでください」
先ほどの弾けるような笑みから一転、悲しそうな表情に罪悪感が湧く。
「ご、ごめん?」
「兄さんが空襲で行方不明になってから……。お父さんも、お母さんも、一子も、心配していたのですよ? もう、二度と、会えないんじゃないかって」
嬉しそうに表情を崩して涙を流す彼女に、とてもじゃないけどついていけない。
全く状況が理解できないんだけど……。
服装とか言葉選びとか、ツッコミたいのは俺の方だ。
「お父さんは、軍務に追われる中で通信隊の伝手を使い、焼けた街の中で生存情報がないか、ずっと兄さんのことを捜していました。生きていたのなら、何で連絡をしてくださらなかったのですか?」
「ちょ、ちょっと待って?」
「まさか、分家の養子になったから、もう家族ではないとか考えていないですよね?」
軍務に通信隊……。?
ま、まさかとは思うけれど……。
「……兄さん、どうしたのですか?」
昨日、図書館で何となく頭に詰め込んだ断片的な知識が蘇る。
現代人なら、まず使わない言葉の数々。服装。
普通に考えれば、有り得ない話だけど――。
「――まさか君は、第二次世界大戦の……。戦時中から来た、とか?」
俺の質問に、彼女はキョトンとして目を瞬かせた。
「大東亜戦争のことですか? 兄さん何を言っているのですか。」
「今が戦時中だなんて、当然の話ではないですか」
当然……?
戦争中なのが、当然?
「もしかして、兄さんは、空襲で記憶を失ってしまったのですか……?」
思わず天を仰いだ。
勢いを増してきた雨粒が顔や目に当たって痛むが、構わない。
夢を見ているなら、どうか俺の顔を洗って覚ましてくれ。
「ひっ!? こ、この見慣れない場所は、どこですか? 見たことのない、天高く伸びる建造物が山の様に……ッ。く、車が通過する様な響きまでも次々と!?」
今更ながら気が付いたのか、彼女は驚き混乱してるようだ。
混乱してるのは、俺の方だ……。
「なな、何で私は、この様な場所に!? まさか空襲の爆撃で死んだの!? そ、そうだとしたら、まさか、ここは死後の世界……。噂に聞く、天国……?」
そんなの、有り得るわけがないだろう……。
第二次世界大戦の起きている最中、空襲が日本で起きている時代。
そんな時代に生きている人間が、人間が二〇二五年にタイムスリップしてきたとでも言うつもりか――……?



