80年越しの君とあの蛍を忘れない

 二〇二五年八月十四日。

 「――よし……っ。さきたま()(ふん)公園、到着。片道は、ノルマ達成」

 まだ暑くなる前、日の出より少し早い時間から、日課のランニングをこなす。

 サッカーを辞めても運動は続けていた。

 スポーツへの熱い情熱や、サッカーへの未練があるわけじゃない。

 ただ、何もしてないと自分の心身が更に(くさ)る気がして動かずにいられないんだ。

 正直、鬱憤(うっぷん)を発散できるならゲームでも運動でも、何でもいいんだと思う。

 「隣の(ぎょう)()()まで走ってきたのに、今日は外れかな……」

 いつまでも明るくならないと思ったら、どんよりした雨雲が空を覆ってる。

 「ぁ、また飴玉入れられてる……。二個も食べるわけないじゃん」

 ランニングウェアのポケットに、また婆ちゃんが飴玉を忍ばせてたのを見つけた。

 はぁ……何度言っても止めてくれないな。仕方ない、食べればいいんだろう。

 一個だけ包装を開けて口に放り込む。

 甘い飴玉を口の中で溶かしながら景色を眺めていると、ついセンチメンタルになる。

 「やりたいことも目標もない。何となく目先のことに追われながら生きて、死ぬ人生なのかな」

 それは凄く嫌だ。

 そんなの、安定というより――退屈でしかない。

 「……うわ、ヤバいな。雨が降ってきた」

 ポツポツと小雨が肌へ当たる感触に空を見上げた。

 すると、ドンドンドンッと腹の内側まで揺らす様な空砲が響いてくる。

 「何か行事があるのかな?」

 天気が怪しいと、イベントを開催するのかどうかを空砲で知らせると聞いたことがある。

 雨が本格的に降り出す前に帰るか……。

 その瞬間、薄暗かった周囲がピカッと光に包まれ――。

 「――うおっ!? か、雷!?」

 腹にズドンと響いた……。

 思わず目を(つむ)り身が(すく)む様な轟音(ごうおん)だった……。

 雷が、かなり近くに落ちたみたいだ。

 この辺りの木にでも落ちたのか?

 「……ぇ? 人?」

 見れば――木の下で、人が倒れてる。

 もしかして、今の落雷でケガでもしたのか!?

 「だ、大丈夫ですか!?!?」

 (とっ)()に駆け寄っていた。

 倒れてる人を見過ごすわけにはいかない!

 「……なん、だ?」

 見たことのない……。

 いや、どこかで見たことのある服装をしてる。

 確か、そう。

 修学旅行の時に資料館で見学した――『もんぺ』とかいう、戦時中の服だ。

 身長は中学生ぐらいに見えるけど、(どろ)で髪や顔が汚れていてよくわからない。

 雷で……、こんな状態になる、のか? 泥はともかく、この服装は何だ?

 い、いや、今はそれどころじゃない!

 「意識はありますか!?」

 こういう時は、下手に動かさない方が良いのか?

 いや、ここに居て、また雷でも落ちて来たら危ない。

 彼女を安全な所へ運ぶ為に抱きあげる。

 「ぅ……ん」

 「生きてる!? 良かった……」

 安全な場所で泥まみれな彼女の顔を拭い、へばり付いた長い黒髪を整える。

 ある程度整うと、()(れい)な顔立ちに目が釘付けになる。

 同い年か、やっぱり俺より一、二歳ぐらい歳が下の中学生ぐらいか?