80年越しの君とあの蛍を忘れない

 ゆっくりと目を開くと、全く違う風景が広がっていた。

 「ぇ……」

 (ぼう)(ぜん)として、思わず声が漏れてしまう。

 俺たちは夕暮れ時の宮沢湖畔にいたはずだ。

 それなのに、気が付けば伸びきった草むらに立ってる。

 「ど、どこ、ここ?」

 何で――朝陽が見えるんだ?

 「何かが焦げたような臭い……?」

 鼻を突く強い臭いに顔を(しか)め、腕の中に目を向ける。

 「み、美花!?」

 青白い顔色をした美花を覗き込む。

 スゥスゥと息の音がした。

 「気を失ってる、のか?」

 よかった……。

 目を開けないから最悪の事態を考えてしまった。

 背に気を失った美花を担ぎ草むらの中を歩く。

 不思議な程に人の気配を感じない。

 人どころか空と草以外に何も見当たらないじゃないか……。

 臭いが強い方向へ数分程歩いただろうか。

 「……は?」

 ()(そう)もされてない(あぜ)(みち)に出た。

 遠くにはニュースで見た火災跡地のような街跡が――延々と続いてる。

 「貴様、止まれ!」

 「え、え……!?」

 土煙を上げながら映画で見たような服装の男が走ってきた。

 表情は怒りに歪んで見え警察の帽子にカーキ色の軍服のような姿。

 それに、腰には――長い剣をガチャガチャと揺らしてる。

 「何だ、貴様の奇怪な服装と髪型は!? さては貴様、敵国の(かん)(ちょう)だな!?」

 還暦を過ぎたのではないかという年配の男が、(たか)の様に鋭い目で()めつけながら叫んだ。

 ただならぬ緊張感に有無を言わさない雰囲気。

 その手は剣に添えられており……。

 どう考えても夢とは思えないリアリティだ。

 俺は突然の恐怖に震えながらも悟ってしまった。

 ここは、第二次世界大戦下にある一九四五年の日本。

 かつて空砲音や落雷音と同時に二〇二五年にタイムスリップをした美花の逆。

 俺も、戦時中の日本へタイムスリップしてしまったのだと――。