80年越しの君とあの蛍を忘れない

 正直に思ったことを言ったんだけど、踏み込んだことを口にする勇気はない。

 美花に恋心を抱いてるのかもしれないと意識すると、途端に素直に何かを言うのが躊躇(ためら)われる。

 先走って気持ちを伝えても美花だって反応に困るだろうから、まだ言わない。

 それは、今日の夕暮れまで我慢だ。

 「よし、アトラクションエリアに行こうか」

 「アトラクションって何ですか?」

 「何か乗り物とか、ワクワクする体験ができる所だよ」

 「ワクワクですか!?」

 表情がパッと明るくなった後、一瞬陰ったのは――八十年前に残してきた人々に悪いと思ってるからなのかな?

 この時代に彼女が来たのなら、きっと何か意味があるはずだ。

 それが幸せになる為でも良いじゃないか――。

 「――きゃあああっ!?」

 (みや)(ざわ)()を縦断するようなロープを、シャアアと音を立てハーネスを着けた美花が渡ってくる。

 俺は先に手本を見せる為に渡り、後から来る美花を待ってる。

 悲鳴が湖畔に響き到着地点にまで聞こえるけど、年相応に楽しんでくれてよかった。

 「た、体験したことのない恐怖を感じました」

 「面白くなかった?」

 「先に安全だと見せてくださったので面白かったです! 今の時代には、こんな遊びもあるのですね! すっごく胸が良い意味でバクバクしています!」

 彼女の時代の遊びについても気になる。

 生まれてから戦争があるのが当たり前とは言っていたけど……。

 全く遊んだことがないなんてことは、流石にないはずだ。

 「今までは、どんなことをして遊んでたの?」

 「ここと少しだけ似ていますけど、川に飛び込んだり海に飛び込んだりですね。母と妹と一緒に育てているサトウキビ畑で、かくれんぼ等も前はできたのですけど……」

 哀しそうな笑みを浮かべてしまった。

 不謹慎なことを聞いちゃったかもしれない。

 「それも自然の中で楽しめそうだね。……タイムスリップが本当なら」

 「護流さん、まだ疑っていたのですか? 私だって信じられないですけど、本当なのです」

 「ごめんごめん。かき氷で機嫌を直して」

 「か、かき氷!? あるのですか!?」

 今日、一番の反応かもしれない。

 凄く興奮して身をズイッと前かがみにしてきた。

 「うん。かき氷が好きなの?」

 「好きというか、思い出が……。まだ戦争の被害が大きくなる前ですけど、幼い妹と食べたのです。アイスキャンディーと、かき氷を……」

 「それは……。大切な思い出として残りそうだよね」

 「はい。私の生まれた場所では、元々ほとんど軍人さんがいなかったのです。だけど突然、大勢の軍人さんがやってきて……。製氷工場も軍の使用が優先になっちゃったのです。そもそも、『甘い物を食べたい』なんて言うだけで非国民として捕まり、折檻(せっかん)されちゃいますから」

 記述には、そこまで詳しく書いてなかった。

 折檻? それって、痛めつける(しつけ)や体罰のことだよな?

 甘い物を口にしたいという当たり前の気持ちすら言えないなんて……。

 「ここは恵まれた時代だなぁ……。何で私たちの時代は……」

 美花の呟きに辛くなってしまう。

 俺は、何の疑問も抱いたことがなかった。

 今あるものが当然として生きてきた俺は、責められてる様にすら感じた――。