80年越しの君とあの蛍を忘れない

 二〇二五年八月二十八日。

 婆ちゃんが美花を連れ車で遠出したので――俺は図書館へ来ていた。

 交流を重ねれば重ねる程に『美花は嘘を吐いてない。本当に戦時中からタイムスリップしたんじゃないか?』という気持ちが強まる。

 作文の課題が終わってないのもあり、再び第二次世界大戦に関する資料を見にきた。

 今なら、以前に図書館で抱いた『どこか遠い世界の話の様だ』という感想にはならなそうな気もするんだ。

 「彼女が言ってた場所、高校は――……ぇ」

 図書館で資料を改めて調べるうちに、言葉を失っていった。

 前に流し見をしていた時とは、全く違う。

 嘘だ……っ。信じたくないっ。

 そんな思いが脳内をグルグルと回る。 

 美花の話していた時代や状況の資料を見れば見る程、吐きそうになる……。

 無機質で染みないと思ってた文章でも構わない。

 この情報を否定して安心させてくれと必死に蔵書を(あさ)り続ける。

 夕陽が射し込む閉館近くになって――俺は本を開きながら、棚にもたれかかってしまった。

 もう、力が入らない。

 「何でだよ……」

 口から漏れ出る言葉も抑えられない……。

 誤解であってくれと願いながら、再び本に視線を落とす。

 「一九四五年三月の下旬。戦況の悪化に伴い十四歳以上の学生が――学徒隊が結成。男子は物資の運搬や爆弾を背負っての特攻、通信や伝令に動員。女子生徒は、看護補助や炊事要員として戦地に投入される」

 歴史の教科書の様な一文なのに……。

 美花と重ねると、心に重く突き刺さる。

 「学徒隊となった高等女学校の生徒は――大半が凄惨な戦争の被害で死亡。敵兵や錯乱した自国兵による加害だけでなく、過酷な状況に追い詰められて集団自決を図るケースも多かった。……ふざけるなよ」

 何だよ、これ……。

 何なんだよ、それは。

 ()りにも選って何で君が……。

 「悲惨な運命を辿る学徒隊員として、美花が半ば強制的に動員されるなんて……」

 受け入れたくない。

 これ程に、彼女の戦時中からタイムスリップしてきたことが設定であってくれと願ったことはない。

 彼女は、一九四五年の一月四日から来たと言っていた。

 もし、タイムスリップしなかったら――死んでいたかもしれない。

 そう考えると、嫌だ。

 美花に死なないで欲しいという思いで胸が張り裂けそうに痛んで……。

 「……ああ、そっか。俺は――彼女が大切なんだ」

 この二週間だけで特別だと認識してしまったなんて、笑えもしない。

 気持ちを直視しない様に抗っても無駄だった。

 身体は本音を嫌という程に教えてくる。

 絶対に彼女に亡くなって欲しくない。

 俺は、初めて恋をしたのかもしれない――。