世界が君を忘れる前に

206X年。
誰かに存在を認めてもらわなければ、生きていけない時代になった。

最初は、確かにただのSNSだった。

写真を投稿して、いいねをもらう。
動画を上げて、誰かが笑う。
誰かの言葉に救われて、感謝を送る。

そんな当たり前のやり取りを、人々は「繋がり」と呼んでいた。

けれど、技術が進歩し、人と人との関係が数値化されるようになった頃、
世界は少しずつ変わり始める。

あなたは誰に必要とされているのか。
あなたはどれだけ愛されているのか。
あなたの存在は、どれだけ社会に影響を与えているのか。

それらはすべて、一つの数字で表されるようになった。

『○○,○○○LIKE』

人々の手首には、生まれた瞬間から数字が記されている。

感謝されると増える。
誰かを笑顔にすると増える。
誰かに愛されると増える。
反対に、忘れられると減る。
必要とされなくなると減る。

誰かの記憶にも残らなくなると、ゆっくり、静かに減っていく。
人々はそれを「LIKE残高」と呼んだ。

誰もが数字を見ながら生きる時代。

学校の推薦。就職。結婚。
銀行口座の開設。賃貸契約。
すべてにLIKEが必要で、その数字が人生そのものを表す。

だから、人々は笑う。
本当は笑いたくない日や、余裕なんてない日だって、誰かに優しくする。

今日も誰かに見つけてもらうために。
今日も誰かに忘れられないために。
今日も、生きるために。

なぜなら——

LIKEが0になった人間は、世界から消えてしまうから。
死ぬわけじゃない。
けれど、誰にも認められていないと判断されて、社会的存在を維持できなくなる。

つまり、

住民記録。学校記録。SNSアカウント。
そして、他人の記憶。
その人がいた証は、世界から消えていく。
まるで、最初から生まれてこなかったみたいに、世界から忘れられる。

それが、この世界のルールだ。

だから私は毎日、写真や動画を撮る。
ファッション、メイク、友達、カフェ、犬、自然。

誰かが見つけてくれるように。
誰かが「いいね」を押してくれるように。
誰かの記憶に残れるように。

手首の数字は、「128,442」
昨日より213増えていた。
私は小さく息を吐いて、微笑む。

——大丈夫。

今日も私は、生きていられる。
この先もこうやって安心する毎日を手に入れるんだ。

——そう、当たり前に思っていた。

17の夏、残り『87LIKE』しか持たない彼と出会うまでは。