17歳、僕たちの第一死望

「絵川さん、もう一つ聞いていいかな?」

 沈黙を破ったのは、柊木だった。
 組んでた手をほどき、絵川の背中を見つめる。

「俺たちは、現実ではどうなってるんだろう」

 絵川の鉛筆が止まり、長い黒髪を揺らしながら、振り返る。

「どうって?」
「言葉通りの意味だよ」

 柊木は立ち上がり、透き通った姿のクラスメイトたちを見回す。

「もし向こうからも、俺たちがこんなふうに透けて見えてるなら、誰かが騒ぐはずだ。けど、そんな様子はない」
「へえ……続けて」
「つまり、現実の世界から、俺たちの姿はまったく見えてない」
「正解――と言いたいけど、おそらく、ね。死んだ私には確認できないし」
「たしかにそうだ」

 柊木が表情をやわらげ、肩をすくめる。

「ここまでは、誰でも分かる。問題は、現実の世界で俺たちはどういう存在になってるかってことだ。俺たちが突然教室から消失したら、それこそ大騒ぎだ」

 柊木の目が、わずかにけわしくなる。
 五十嵐が僕の隣にやってきて、肩をつっつく。

「内海ー、今の聞いた? そんなのすぐ分かるわけないよね。私たち、『誰でも』から除外されちゃった」
「僕は何となく気づいてた」
「……裏切り者」

 五十嵐が唇を少しとがらせる。
 同盟も結んでいないのに、裏切者扱いされる意味が分からなかった。
 柊木はあごに軽く手を当てながら、つぶやく。

「もしかすると、俺たちは――」

 柊木の言葉は、教室の外から響く声にかき消された。
 それはクラスメイトのものと違い、聞き取れるほど大きかった。

『柊……さん、どう……落ち着いてくだ……い』
『こんな時……落ち着いていられるわけない……! 司が……司がどうして……!』

 一方は高田の声。
 もう一方は――。

「か、母さん……?」

 柊木は目を大きく開き、つぶやいた。
 そして、駆けるようにして教室を出ていく。
 廊下の向こうに柊木の背中が消えるのを見ながら、僕は思う。

「教室を出てても、首ははねられないみたいだ」
「え。今、それ言う?」

 五十嵐が口をぽかんと開けた。

「柊木君に言われてから、気になってたし」
「……内海、あんたも、なかなか変わってるね」

 五十嵐は、なぜか僕の顔をじろじろと眺めた。
 絵川は静かに立ち上がり、僕を見る。
 彼女は、ぴったりと閉じた茶色の大学ノートを胸に抱えている。

「柊木君の質問の答え、気にならないの?」
「それも、気になる」
「ついていけば――分かるかもね」

 絵川はゆっくりとした足取りで、廊下に出ていく。
 僕と五十嵐は、示し合わせたかのように目を合わせ、うなずいた。