17歳、僕たちの第一死望

「……なにが、違うの?」

 僕は胸の動悸を押さえ、努めて平坦な声で聞いた。
 指先には、まだ彼の背中から伝わってきた温もりが、こびりついているような気がした。

 彼は白紙のページに視線を落としたまま、答える。

「何もないんじゃない。まだ、描かれてないだけだと思う」

 僕はすぐに反論した。

「言葉を言い換えただけだ。今の君には、何もないってことだろ」
「今は、そうかもしれない」

 彼は顔を上げた。
 その瞳には、さっきまでの怯えはなかった。

「でも、これから見つかるかもしれない」
「……かもしれない?」

 僕は思わず眉をひそめた。
 以前の彼なら、そんな曖昧な言葉は口にしなかったはずだ。

「仮に何か見つかったとして、それに現実へ戻るほどの価値があるの?」

 僕はノートに手を伸ばし、ページを乱暴に前へと戻した。
 激しく紙がこすれる音が、教室内に響く。
 僕は、白衣を着た柊木の絵を指差す。

「見てみなよ。柊木君は、疲れ果ててる」

 五十嵐メルのページを叩く。

「五十嵐さんは、結局アイドルにはなれてない」

 そして、絵川由夢のページ。

「絵川さんの右手、最後まで治ってない」

 僕は彼の顔をのぞき込み、本物の銃ぐらいの威力がある言葉を突きつける。

「夢さえ見つかれば救われると思ってた? 立派な何かがあれば、前を向いて生きられると思ってた? 現実は違うよ。夢を持っている三人だって、こんなに苦しんでるんだ」

 教室に重い沈黙が落ちる。
 僕の指摘は完璧だ。
 彼はきっとまた絶望する――はずだった。

「……それ、本当?」
「は?」
「柊木君が医者を選んで後悔してるかなんて、僕には分からない。五十嵐さんが、アイドルになれなかった人生を不幸だと思ってるかも分からない。絵川さんが、右手が治らなくても絵を描きたいと思う理由……どうして、君が分かるんだよ」
「それは……」

 彼は静かに、でもはっきりと言う。

「それを決めるのは、あの三人だ。外にいる僕たちが勝手に決めることじゃない」

 彼はノートを見つめ、それから自嘲するように小さく笑った。

「そんなの……僕がいなくなった方が本田君のためになるって、勝手に決めつけた時と、同じだ」

 僕は息をうまく吸えず、のどを押さえる。

「今の僕が、未来の僕まで、勝手に終わらせたくないんだ」
「そんなの、ただの希望的観測じゃないか」
「うん。ただの希望だ」

 彼はノートを丁寧にめくり、駆け出すマッシロと白紙のページを見つめた。

「だから、僕は帰るよ」

 僕にはもう彼を引き留める言葉を持っていない。

「……そっか」

 僕は短く息を吐いた。

「分かったよ。じゃあ……帰ればいい」
「うん」

 彼は少しだけ笑った。
 まるで、話が終わったと思っているかのように。 
 僕は教室の後ろを見る。

「僕は、ここに残るよ」

 そこは月の陰となっており、この教室で一番闇が深い。