ハイスペ特待生たち五人が平凡な僕に執着している、にわかに信じがたい話

 笹野高志郎は、もともと親睦会に出席するつもりがなかった。
 翔聖学園の生徒は、時間的余裕のある者が少ない。校外活動をメインに生活している生徒ばかりなので、協調性を持った生徒もごくわずかだ。そのため親睦会が伝統行事であっても、実態はバックレる生徒が大半で、学園側が躍起になっているだけだった。高志郎も一年時は欠席していた。
 しかし今年は違う。昴と同じ班に入れたうえ、リーダーまでやってくれるという。参加しないわけにはいかない。
 小説のネタとして、様々な姿を観察できるチャンスなのだから。
 
「さすがと言いますか、内海くんは面白いことを考えつきますね」

 高志郎は昴と連れ立って駅前のファミリーレストランへとやってきていた。親睦会について相談があるといえば断られないはず。目論見は的中し、高志郎の前にはステーキセットが届けられ、昴の前にはハンバーグセットが湯気を立てている状況となれた。
 
「ありがと……でも不安なんだよね。大丈夫かな?」

 昴はため息をもらし、ハンバーグをつつきながら口に運ぼうとしない。高志郎はマナーの悪さに眉をひそめたが、視線のほうは頑として動かさずにいた。高志郎の育った環境では絶対お目にかかれない庶民的な行為だ。見逃すわけにはいかない。
 
「ご懸念はお察しいたします。メンバーがメンバーですからね。自由奔放と言いますか、協調性がないやつらばかりです」
「うん、まあ。……そう。笹野くん、なにかいいアイデアありそう?」
「そうですね。ミュージカルのようなものとおっしゃるのなら、既存の作品のワンシーンを翻案してみるのがよいかもしれません」
「……できるかな? っていうより、やってくれるかな?」

 なんとしてでも可能にしてみせる。自分にならできる、との思いを込めて高志郎は微笑んだ。

「やると宣言したからにはやるでしょう。でなければ男じゃない」
「男に二言はないってやつ?」
「そのとおり」
「……だよね」
「なにか?」
「いや、僕もやるって言ったからにはやるよ」
「それは、本音では後ろ向きだったということですか?」
「そういうわけじゃないけど……」
 
 高志郎は幼い頃から人より優れているとの自覚があった。この世界において、勝者となる器に自分はあると冷静に分析していた。
 学園には国際的に活躍する生徒がごろごろいる。しかし、いかに優れていても、スポーツや文化のうちひとつを極めたに過ぎない。
 この世界において重要となるは知力と思考力だ。
 高志郎は学年一位をキープしている。東大に一発合格する自信もある。特待生などだからどうという話でなんの興味関心もなかった。
 ただ昴だけは違う。なにもかもが平均的で没個性的だが、自己顕示欲ばかりのやつらとは違って、おもねるでもなく話を聞いてくれる。心からの興味を持ってくれるような相手は、たくさんいるようで貴重なのだ。

「彼らを率いるには内海くん、あなたの力が必要不可欠です。あなたがリーダーを担うと決意されたゆえ集まったようなものなのですから」
「うーん……なんでなのか未だにわかんないんだけど……」
 
 昴は力なく微笑み、ようやくハンバーグを切り分け始めた。
 親睦会に出席するのを決めたのは、昴が参加すると聞いたからだ。覚えたくもない名前を記憶し、無駄ともいえる労力を傾けねばならない。それでも、昴ためならと高志郎は参加を決めた。

「調べましたところ、『グレイテストショーマン』という映画が少し前に流行したようで……」
「知ってる! 見たよ! いい映画だよね。曲もいいし、鳥肌立つくらいよかった」

 はしゃぎだした昴を見て高志郎は微笑んだ。
 見つけたとき、昴の好きそうな映画だと感じた。昴のことは出会ってから毎日観察し続けている。他人との会話に耳を傾け、彼の一挙一動を見逃さず、今では好みのものを推測できるようになった。
 観察力と洞察力を鍛えるためだ。高志郎は、小説を書くための能力を育む目的だと自分に言い聞かせていて、単に目を離せないだけであることには気づいていなかった。

「でしたら一度見てみようと思います。そのうえで劇にできるかをまとめてみます」
「うわ、本当? ありがとう!」
「内海くんのお好きな場面などはありますか? よろしければ食事のあと、わたしの家でともに鑑賞しながら教えていただけませんか?」
「いいよ! 何度見てもいいしね」

 昴と初めて食事をした。加えて自宅にも招くことになった。
 高志郎はこのことだけでも、先に起こる面倒の対価としては十分の価値がある、とひとり口元を緩ませたのだった。