笹野高志郎は、もともと親睦会に出席するつもりはなかった。
翔聖学園は、特性上時間的余裕のある生徒は少ない。でなくとも日常が校外活動をメインに生活している生徒ばかりなので、協調性を持った生徒はごくわずかだった。伝統行事といっても、学園側が躍起になっているだけなのだ。実態はバックレる生徒が大半で、高志郎は一年時も欠席していた。
しかし今年は違う。昴が出るとなれば参加しないわけにはいかない。小説のネタとして、様々な姿を観察できるチャンスなのだから。
「さすがと言いますか、内海くんは面白いことを考えつきますね」
高志郎は昴と連れ立って駅前のファミリーレストランへとやってきていた。親睦会について相談があるといえば断られないはず。目論見は的中し、高志郎の前にはステーキセットが届けられ、昴の前にはハンバーグセットが湯気を立てている状況をつくりだすことができた。
「……大丈夫かな?」
昴は不安そうにため息をもらし、ハンバーグをつつきながらも口に運ぼうとしない。高志郎はマナーの悪さに眉をひそめたが、視線のほうは頑として動かさずにいた。高志郎の育った環境では絶対お目にかかれない庶民的な行為だ。見逃すわけにはいかない。
「お気持ちはお察しいたします。メンバーがメンバーですからね。自由奔放と言いますか、協調性がないやつらばかりです」
「うん、まあ。……そう。笹野くん、なにかいいアイデアありそう?」
「そうですね。歌とダンスを入れるとおっしゃるのなら、ミュージカルのようなものになるよう思えますが……」
「……できるかな? っていうより、やってくれるかな?」
高志郎は両親を含む他人すべてを見下していた。幼い頃から人より優れているとの自覚があり、この世界での勝者は知力と思考力だと信じていた。学年一位をキープしている自負もあり、東大へ一発合格する自信もあった。
学園には国際的に活躍する生徒がごろごろいる。しかし、いかに優れていても、スポーツや文化のひとつを極めたに過ぎない。だからどうという話でなんの興味関心もなかった。
ただ昴だけは違う。なにもかもが平均的で没個性だが、そこがよかった。息を吸うように自己顕示ばかりしているやつらとは違って、おもねるでもなく話を聞いてくれる。心からの興味を持ってくれるような相手は、たくさんいるようで貴重なのだ。
「やると宣言したからにはやるでしょう。でなければ男じゃない」
「男に二言はないってやつ?」
「そのとおり」
「……だよね」
「なにか?」
「いや、僕もやるって言ったからにはやるよ」
「積極的ではなかったのですか?」
「そういうわけじゃないけど……」
「本音では後ろ向きでしたか?」
「うーん……まあ、縁の下でいいっていうなら僕でもできるかな?」
「というよりあなたにしかできないでしょう」
「さすが笹野くん。はっきり言ってくれるね。ありがと」
昴は力なく微笑み、ようやくハンバーグを切り分け始めた。
親睦会に出席するのを決めたのは、昴が参加すると聞いたからだ。覚えたくもない名前を記憶し、無駄ともいえる労力を傾けねばならない。それでも、昴ためならと高志郎は参加を決めた。
「調べましたところ、『グレイテストショーマン』という映画が少し前に流行したようで、少し古くさいかもと思ったのですが……」
「あ、見たよ! いい映画だよね。曲もいいし、鳥肌立つくらいよかった」
やはり、とはしゃぎだした昴を見て微笑みながら高志郎はステーキを頬張った。
見つけたとき、昴の好きそうな映画だと感じた。昴のことが知りたいあまり、出会ってから毎日観察し続けている。他人との会話に耳を傾け、彼の一挙一動を見逃さず、今では好みのものを推測できるようになっていた。
観察力と洞察力が鍛えられている。高志郎は、小説を書くための能力を育もうとしながらも、単に目を離せないだけであることには気づいていなかった。
「一度映画を見てみようと思います。どの曲がいいか、どういった流れで寸劇にできるかをまとめてみます」
「うわ、本当? ありがとう!」
「内海くんのお好きな場面などはありますか? よろしければ食事のあと、わたしの家でともに鑑賞しながら教えていただけませんか?」
「いいよ! 何度見てもいいしね」
昴と初めて食事をした。加えて自宅にも招くことになった。
高志郎はこのことだけでも、先に起こる面倒の対価としては十分の価値がある、とひとり口元を緩ませたのだった。
翔聖学園は、特性上時間的余裕のある生徒は少ない。でなくとも日常が校外活動をメインに生活している生徒ばかりなので、協調性を持った生徒はごくわずかだった。伝統行事といっても、学園側が躍起になっているだけなのだ。実態はバックレる生徒が大半で、高志郎は一年時も欠席していた。
しかし今年は違う。昴が出るとなれば参加しないわけにはいかない。小説のネタとして、様々な姿を観察できるチャンスなのだから。
「さすがと言いますか、内海くんは面白いことを考えつきますね」
高志郎は昴と連れ立って駅前のファミリーレストランへとやってきていた。親睦会について相談があるといえば断られないはず。目論見は的中し、高志郎の前にはステーキセットが届けられ、昴の前にはハンバーグセットが湯気を立てている状況をつくりだすことができた。
「……大丈夫かな?」
昴は不安そうにため息をもらし、ハンバーグをつつきながらも口に運ぼうとしない。高志郎はマナーの悪さに眉をひそめたが、視線のほうは頑として動かさずにいた。高志郎の育った環境では絶対お目にかかれない庶民的な行為だ。見逃すわけにはいかない。
「お気持ちはお察しいたします。メンバーがメンバーですからね。自由奔放と言いますか、協調性がないやつらばかりです」
「うん、まあ。……そう。笹野くん、なにかいいアイデアありそう?」
「そうですね。歌とダンスを入れるとおっしゃるのなら、ミュージカルのようなものになるよう思えますが……」
「……できるかな? っていうより、やってくれるかな?」
高志郎は両親を含む他人すべてを見下していた。幼い頃から人より優れているとの自覚があり、この世界での勝者は知力と思考力だと信じていた。学年一位をキープしている自負もあり、東大へ一発合格する自信もあった。
学園には国際的に活躍する生徒がごろごろいる。しかし、いかに優れていても、スポーツや文化のひとつを極めたに過ぎない。だからどうという話でなんの興味関心もなかった。
ただ昴だけは違う。なにもかもが平均的で没個性だが、そこがよかった。息を吸うように自己顕示ばかりしているやつらとは違って、おもねるでもなく話を聞いてくれる。心からの興味を持ってくれるような相手は、たくさんいるようで貴重なのだ。
「やると宣言したからにはやるでしょう。でなければ男じゃない」
「男に二言はないってやつ?」
「そのとおり」
「……だよね」
「なにか?」
「いや、僕もやるって言ったからにはやるよ」
「積極的ではなかったのですか?」
「そういうわけじゃないけど……」
「本音では後ろ向きでしたか?」
「うーん……まあ、縁の下でいいっていうなら僕でもできるかな?」
「というよりあなたにしかできないでしょう」
「さすが笹野くん。はっきり言ってくれるね。ありがと」
昴は力なく微笑み、ようやくハンバーグを切り分け始めた。
親睦会に出席するのを決めたのは、昴が参加すると聞いたからだ。覚えたくもない名前を記憶し、無駄ともいえる労力を傾けねばならない。それでも、昴ためならと高志郎は参加を決めた。
「調べましたところ、『グレイテストショーマン』という映画が少し前に流行したようで、少し古くさいかもと思ったのですが……」
「あ、見たよ! いい映画だよね。曲もいいし、鳥肌立つくらいよかった」
やはり、とはしゃぎだした昴を見て微笑みながら高志郎はステーキを頬張った。
見つけたとき、昴の好きそうな映画だと感じた。昴のことが知りたいあまり、出会ってから毎日観察し続けている。他人との会話に耳を傾け、彼の一挙一動を見逃さず、今では好みのものを推測できるようになっていた。
観察力と洞察力が鍛えられている。高志郎は、小説を書くための能力を育もうとしながらも、単に目を離せないだけであることには気づいていなかった。
「一度映画を見てみようと思います。どの曲がいいか、どういった流れで寸劇にできるかをまとめてみます」
「うわ、本当? ありがとう!」
「内海くんのお好きな場面などはありますか? よろしければ食事のあと、わたしの家でともに鑑賞しながら教えていただけませんか?」
「いいよ! 何度見てもいいしね」
昴と初めて食事をした。加えて自宅にも招くことになった。
高志郎はこのことだけでも、先に起こる面倒の対価としては十分の価値がある、とひとり口元を緩ませたのだった。



