内海昴は花火を眺めながら、しかし全身の神経はすべて稔に集中させていた。稔の一挙一動が見たい。でも目が合ってしまったら怖いとの思いで視線だけは花火に据えていた。
ぱちぱちと音を立てて色を変えゆく花火は、すぐに消えてしまう。稔が次々に点火してくれているけれど、もう少しもしないうちにふたたび闇夜に戻ってしまうだろう。
儚い夢とも形容される花火は、美しく心を踊らせる面がある一方で切なさも呼び起こす。
一月もしない間に班のメンバーから告白された。
慧人に弘和、そして今日は高志郎と雅史からだ。
好意に対しては嬉しく思ったが、恋人になりたいとまでの思いには戸惑いを覚え、正直なところショックを受けていた。
彼らとは友達になりたかった。最初に声をかけたのは昴からだったが、目的は自分を痛めつけるためだった。しかし親しくなるにつれ、彼らは自分となんら変わりない高校生だと知って嬉しくなった。
それでも、そこに恋愛的な意味での感情はいっさいなかった。
彼らの特別になりたいとまでは思っていなかった。
ただ、稔だけは別だった。
稔の洞察力と無遠慮な物言いは、近づけば危険な気がしていたし、実際に痛いところを突かれて不快な思いをした。押し隠していた本音を暴かれて、生まれて初めての怒りでしばらく頭が冷めやらなかった。
けれど、だからこそ稔のことがますます気になった。
なぜそこまで自分に踏み込んでくるのかを知りたかった。
「これが最後」
ほら、と稔から差し出され、受け取るときに指が触れた。昴は思わずぱっと引っ込めてしまい、妙に思われなかっただろうかと稔へ視線を移した。
するとじっと自分を見つめている目とかち合った。口元は柔らかな微笑みを浮かべている。
いつから見られていたのだろう。今だけじゃない気がした。
昴はどきどきとして、またも不自然な仕草で視線を落としてしまう。
「も、もう終わり?」
「もうって……こんなもんだろ」
「でも、稔があんなに次々やらなきゃもう少しもってたんじゃない?」
緊張してきたせいで、咎めるような言い方になってしまった。いや、本音が漏れ出たのかもしれない。
もっとふたりきりでいたかった。なんて、見透かされていたらどうしよう。
稔のことだから気づいたかもしれない。
「早く戻ろ」
焦った昴は誤魔化すために立ち上がった。
「……急いで戻ったって、もう花火は終わってるって」
稔は苦笑の声で、花火のゴミを砂利や砂で消化して袋に戻していて動かない。
昴の頭に期待が頭をもたげてくる。ふたりだけで花火をして、終わってもまだ戻らずにいようだなんて、稔も自分と一緒にいたいのだろうか。
「心配してるだろうし、戻ったほうがいいよ」
頭に浮かんだ期待を、昴は慌てて振り払った。
期待なんてしちゃだめだ。稔と以前のように話せるようになっただけで十分だろう?
これ以上望んだらバカを見る。蓋をしていた嫌な感情が飛び出てきて、ひどく苦しい思いをする。
本心は表に出しちゃいけない。考えないように蓋をしておくべきで、自覚すらもしないほうがいい。
そうしてきたから今がある。穏やかに過ごせてきたし、誰とでも気楽に付き合えてきた。
「まだいいだろ」
片付け終わった稔はしゃがんだままで、なぜかスマホから音楽を流し出した。古い曲だが、今もたまにコマーシャルで使われている定番のダンスナンバーだ。
昴にとっては馴染みの深い曲で、聞くと思い出したくもない過去が蘇ってくるから苦手だった。
なぜこの曲をいきなり流したのか。
訝しくも見ていると、稔はスマホを地面に置いて突然ダンスをし始めた。
驚愕に戸惑った昴だが、稔の行動を見て信じられないことに気づき、目を見開いた。
「待って。そのコレオ……」
見覚えがあるどころじゃない。おそらくだが今でも踊れるはずだ。稔が踊り始めたダンスの振りは、昴が何十回と練習してきたものとまったく同じだった。
「俺が最初にがちで練習したコレオ。この癖、ステップかと思ったらおまえの癖だったんだな」
言いながら稔はあるポイントで膝を深く曲げ、腕を振った。昴の頭に蘇る。
『そうじゃない。何度言ったらわかるの?』
教師から怒鳴られた声。何度やっても思うようにできず歯がゆい思いをしたステップ。
稔の動きは、普段の彼とは全然違っていた。まるで過去の自分を見ているかのようだった。
鏡越しに苦しみながら見つめていた自分。その姿がいま、目の前にある。信じられない光景に昴は身体を震わせ、両手で自分を抱きしめた。
「……どうして?」
「おまえを見て覚えたんだよ」
稔の答えはますます昴を混乱させた。
「どうやって?」
ビデオになんて残っていない。本番の舞台では一度も踊らなかった曲であり、そもそも昴はどの大会にも出場することが叶わなかった。
「俺もいたんだよ。あのとき、あそこに」
「……どういうこと?」
「おまえは何度も俺に聞いてきたよな? どうしてダンスを始めたのかって。答えはおまえだよ。きっかけはおまえを見たからだ。おまえを見て、ダンスをしようって決めた。おまえがめちゃくちゃかっこよくて、おまえみたいに踊りたいって思ったんだ」
嘘だよ。信じられない。そんなはずない。
言い返したかったのに、昴の喉は締め付けられたみたいになっていて、声を出すことができなかった。
ぱちぱちと音を立てて色を変えゆく花火は、すぐに消えてしまう。稔が次々に点火してくれているけれど、もう少しもしないうちにふたたび闇夜に戻ってしまうだろう。
儚い夢とも形容される花火は、美しく心を踊らせる面がある一方で切なさも呼び起こす。
一月もしない間に班のメンバーから告白された。
慧人に弘和、そして今日は高志郎と雅史からだ。
好意に対しては嬉しく思ったが、恋人になりたいとまでの思いには戸惑いを覚え、正直なところショックを受けていた。
彼らとは友達になりたかった。最初に声をかけたのは昴からだったが、目的は自分を痛めつけるためだった。しかし親しくなるにつれ、彼らは自分となんら変わりない高校生だと知って嬉しくなった。
それでも、そこに恋愛的な意味での感情はいっさいなかった。
彼らの特別になりたいとまでは思っていなかった。
ただ、稔だけは別だった。
稔の洞察力と無遠慮な物言いは、近づけば危険な気がしていたし、実際に痛いところを突かれて不快な思いをした。押し隠していた本音を暴かれて、生まれて初めての怒りでしばらく頭が冷めやらなかった。
けれど、だからこそ稔のことがますます気になった。
なぜそこまで自分に踏み込んでくるのかを知りたかった。
「これが最後」
ほら、と稔から差し出され、受け取るときに指が触れた。昴は思わずぱっと引っ込めてしまい、妙に思われなかっただろうかと稔へ視線を移した。
するとじっと自分を見つめている目とかち合った。口元は柔らかな微笑みを浮かべている。
いつから見られていたのだろう。今だけじゃない気がした。
昴はどきどきとして、またも不自然な仕草で視線を落としてしまう。
「も、もう終わり?」
「もうって……こんなもんだろ」
「でも、稔があんなに次々やらなきゃもう少しもってたんじゃない?」
緊張してきたせいで、咎めるような言い方になってしまった。いや、本音が漏れ出たのかもしれない。
もっとふたりきりでいたかった。なんて、見透かされていたらどうしよう。
稔のことだから気づいたかもしれない。
「早く戻ろ」
焦った昴は誤魔化すために立ち上がった。
「……急いで戻ったって、もう花火は終わってるって」
稔は苦笑の声で、花火のゴミを砂利や砂で消化して袋に戻していて動かない。
昴の頭に期待が頭をもたげてくる。ふたりだけで花火をして、終わってもまだ戻らずにいようだなんて、稔も自分と一緒にいたいのだろうか。
「心配してるだろうし、戻ったほうがいいよ」
頭に浮かんだ期待を、昴は慌てて振り払った。
期待なんてしちゃだめだ。稔と以前のように話せるようになっただけで十分だろう?
これ以上望んだらバカを見る。蓋をしていた嫌な感情が飛び出てきて、ひどく苦しい思いをする。
本心は表に出しちゃいけない。考えないように蓋をしておくべきで、自覚すらもしないほうがいい。
そうしてきたから今がある。穏やかに過ごせてきたし、誰とでも気楽に付き合えてきた。
「まだいいだろ」
片付け終わった稔はしゃがんだままで、なぜかスマホから音楽を流し出した。古い曲だが、今もたまにコマーシャルで使われている定番のダンスナンバーだ。
昴にとっては馴染みの深い曲で、聞くと思い出したくもない過去が蘇ってくるから苦手だった。
なぜこの曲をいきなり流したのか。
訝しくも見ていると、稔はスマホを地面に置いて突然ダンスをし始めた。
驚愕に戸惑った昴だが、稔の行動を見て信じられないことに気づき、目を見開いた。
「待って。そのコレオ……」
見覚えがあるどころじゃない。おそらくだが今でも踊れるはずだ。稔が踊り始めたダンスの振りは、昴が何十回と練習してきたものとまったく同じだった。
「俺が最初にがちで練習したコレオ。この癖、ステップかと思ったらおまえの癖だったんだな」
言いながら稔はあるポイントで膝を深く曲げ、腕を振った。昴の頭に蘇る。
『そうじゃない。何度言ったらわかるの?』
教師から怒鳴られた声。何度やっても思うようにできず歯がゆい思いをしたステップ。
稔の動きは、普段の彼とは全然違っていた。まるで過去の自分を見ているかのようだった。
鏡越しに苦しみながら見つめていた自分。その姿がいま、目の前にある。信じられない光景に昴は身体を震わせ、両手で自分を抱きしめた。
「……どうして?」
「おまえを見て覚えたんだよ」
稔の答えはますます昴を混乱させた。
「どうやって?」
ビデオになんて残っていない。本番の舞台では一度も踊らなかった曲であり、そもそも昴はどの大会にも出場することが叶わなかった。
「俺もいたんだよ。あのとき、あそこに」
「……どういうこと?」
「おまえは何度も俺に聞いてきたよな? どうしてダンスを始めたのかって。答えはおまえだよ。きっかけはおまえを見たからだ。おまえを見て、ダンスをしようって決めた。おまえがめちゃくちゃかっこよくて、おまえみたいに踊りたいって思ったんだ」
嘘だよ。信じられない。そんなはずない。
言い返したかったのに、昴の喉は締め付けられたみたいになっていて、声を出すことができなかった。



