東弘和は中学生の頃からVチューバーとして活動していた。五歳上の兄が一揃えして挫折した残骸があり、試してみたところ大受けしたため続けている。兄は飽き性ながらに凝り性で、まずはとバイト代を注ぎ込んで一式揃えるこだわりがあった。ゲームも話題になるとすぐに購入する。弘和の自宅には、一円も払うことなくゲームのプレイ実況をできる環境にあったのだ。
「えっ、イーストンって東くんだったんだ?」
入学式が終わったあとの教室で、同じ中学の仲間と喋っていたときだった。前の席の昴が振り返って言った。弘和の配信を何度か見たことがあると言い、同じクラスで光栄だと続けたあと、にこっと笑みを浮かべた。
Vチューバーであることを隠していない弘和は、驚き尊敬の滲む反応を幾度となく見てきた。
けれど、昴はこれまでの何十人とはまるで違っていた。
「めっちゃイケボじゃん!」
一目惚れならぬ声に惚れたのだ。
「えっ? イケボ?」
きょとんとした声もかわいい。日本に一万人くらいいそうな平凡な顔立ちなのに、声がいいせいか顔もかわいく見えてくる。
「そうだよ。名前は?」
「内海昴、だけど……」
「いい響き。昴って呼んでいい?」
「えっ……い、いいけど」
「昴って、どこ中出身? 趣味は?」
「北中だよ」
「めっちゃ近いじゃん! じゃあ、通学は徒歩?」
「うん、歩いて三分」
「がちで? ちっか! 遊びいってい?」
「えっ、いきなり?」
「うん。だめ? で、趣味は? ゲーム好き?」
もっと声が聞きたくて矢継ぎ早に質問を浴びせた。おどおどとしながらも誠実にひとつひとつ答えてくれる姿に好感を抱き、ますます昴に興味を惹かれた。
「おじゃましまーす」
翌日の放課後、弘和はさっそく昴の家へ遊びに行った。困りつつも二つ返事で承諾してくれた昴は、人が良く優しいやつだと改めて感じた。昴と話すたびに好きな要素が増していく。いい出会いをしたと思ってご満悦だった。
「ごめん、弟たちがいるんだ」
「弟? ……わ! 双子?」
昴の家は学校からほど近いマンションの一室だった。両親は不在にしていたが祖母がいて、小学生だという双子の弟もいた。
「こんにちは。お兄さんがVチューバーのイーストンさんですか?」
「そうだよ。東弘和っていうんだ。きみらは?」
「僕は聡で、弟が明です。漢字は聡明という文字をそれぞれに」
「へえ! かっこいいじゃん!」
「東さんも、ひょっとして漢字は東と書くのですか? だからイーストン?」
「そのとおり。よくわかったね。名前どおり聡明じゃん。あったまいい!」
弟たちは八歳という話だったが、揃って礼儀正しく理知的な子たちだった。男ばかりの兄弟がいて共働きだと聞いたのに、部屋はすっきりと片付いていて、清潔だった。祖母も絵に描いたような優しいおばあちゃんで、ますます昴を好きになった。
「さすがだね」
「いいとこ見せたくて調子乗っちゃった」
部屋にお邪魔させてもらって、一緒にゲームをした。百時間以上プレイしたソフトだったこともあり、久しぶりに腕が鳴って昴をこてんぱんにしてしまった。
けれど昴はいっさい嫌な顔をせず、弘和の腕が凄いと言い、トークが面白いと言っては笑い転げてくれた。
「足引っ張っちゃってごめんね」
「なんで? V仲間よか全然上手いし」
「でもプレイしながらトークするわけでしょ? しかもめちゃくちゃ面白いし、すごいよね」
「褒めたってなにもでないぞ?」
「なんか、申し訳なくなってきた」
「え? なんで?」
「生でイーストンのトーク聞けちゃっていいのかなって」
「Vでも素だからなー。っておい、そこファイヤーだろ! 出せ! 打て!」
「えっ? いま?」
「いけ! スーパーローリングサンダー!」
「そんな技あった?」
昴は笑うとき、思わずといった様子で弘和の肩に触れてくる。友人同士ならよくあるボディタッチだ。なのに弘和は触れられるたびにどきりとして、距離が縮むと体温が上がってしまう。
「ここ、どうしたらいいの?」
操作が難しいと言って泣きつかれると、感心してもらいたくて頑張った。こうやるんだなんて言いながらくっついて、コントローラーを持った昴の手をうえから掴んで教えたりもした。
「ヒロはほんとに凄いね。上手いし面白いし」
「上手くて面白くて他には?」
「他に?」
昴がきょとんとしたので、弘和はわざとらしく何度も片目をつむってみせた。昴は気づいたようであははと笑いだし、付け加えた。
「ヒロはかっこいいよ。Vじゃもったいないから顔出ししたらいいのにって思う」
「そこまで言えとは言ってない」
「本音だよ。本当に思ってる」
真剣な顔で言い添えた昴に、弘和はくらりとやられた。名字で呼ぶ昴に、ヒロって呼ぶよう頼んで正解だった。
かっこいいのはおまえで、おまけにかわいい。そう言い返してやりたかったが、軽い調子で言えない気がしてできなかった。しゃべりで売っているのに、昴の前だと調子が狂う。
昴と出会えてよかったと思いつつ、これまで感じたことがないくらいに舞い上がってしまったことには、少しの不安を覚えた。
「えっ、イーストンって東くんだったんだ?」
入学式が終わったあとの教室で、同じ中学の仲間と喋っていたときだった。前の席の昴が振り返って言った。弘和の配信を何度か見たことがあると言い、同じクラスで光栄だと続けたあと、にこっと笑みを浮かべた。
Vチューバーであることを隠していない弘和は、驚き尊敬の滲む反応を幾度となく見てきた。
けれど、昴はこれまでの何十人とはまるで違っていた。
「めっちゃイケボじゃん!」
一目惚れならぬ声に惚れたのだ。
「えっ? イケボ?」
きょとんとした声もかわいい。日本に一万人くらいいそうな平凡な顔立ちなのに、声がいいせいか顔もかわいく見えてくる。
「そうだよ。名前は?」
「内海昴、だけど……」
「いい響き。昴って呼んでいい?」
「えっ……い、いいけど」
「昴って、どこ中出身? 趣味は?」
「北中だよ」
「めっちゃ近いじゃん! じゃあ、通学は徒歩?」
「うん、歩いて三分」
「がちで? ちっか! 遊びいってい?」
「えっ、いきなり?」
「うん。だめ? で、趣味は? ゲーム好き?」
もっと声が聞きたくて矢継ぎ早に質問を浴びせた。おどおどとしながらも誠実にひとつひとつ答えてくれる姿に好感を抱き、ますます昴に興味を惹かれた。
「おじゃましまーす」
翌日の放課後、弘和はさっそく昴の家へ遊びに行った。困りつつも二つ返事で承諾してくれた昴は、人が良く優しいやつだと改めて感じた。昴と話すたびに好きな要素が増していく。いい出会いをしたと思ってご満悦だった。
「ごめん、弟たちがいるんだ」
「弟? ……わ! 双子?」
昴の家は学校からほど近いマンションの一室だった。両親は不在にしていたが祖母がいて、小学生だという双子の弟もいた。
「こんにちは。お兄さんがVチューバーのイーストンさんですか?」
「そうだよ。東弘和っていうんだ。きみらは?」
「僕は聡で、弟が明です。漢字は聡明という文字をそれぞれに」
「へえ! かっこいいじゃん!」
「東さんも、ひょっとして漢字は東と書くのですか? だからイーストン?」
「そのとおり。よくわかったね。名前どおり聡明じゃん。あったまいい!」
弟たちは八歳という話だったが、揃って礼儀正しく理知的な子たちだった。男ばかりの兄弟がいて共働きだと聞いたのに、部屋はすっきりと片付いていて、清潔だった。祖母も絵に描いたような優しいおばあちゃんで、ますます昴を好きになった。
「さすがだね」
「いいとこ見せたくて調子乗っちゃった」
部屋にお邪魔させてもらって、一緒にゲームをした。百時間以上プレイしたソフトだったこともあり、久しぶりに腕が鳴って昴をこてんぱんにしてしまった。
けれど昴はいっさい嫌な顔をせず、弘和の腕が凄いと言い、トークが面白いと言っては笑い転げてくれた。
「足引っ張っちゃってごめんね」
「なんで? V仲間よか全然上手いし」
「でもプレイしながらトークするわけでしょ? しかもめちゃくちゃ面白いし、すごいよね」
「褒めたってなにもでないぞ?」
「なんか、申し訳なくなってきた」
「え? なんで?」
「生でイーストンのトーク聞けちゃっていいのかなって」
「Vでも素だからなー。っておい、そこファイヤーだろ! 出せ! 打て!」
「えっ? いま?」
「いけ! スーパーローリングサンダー!」
「そんな技あった?」
昴は笑うとき、思わずといった様子で弘和の肩に触れてくる。友人同士ならよくあるボディタッチだ。なのに弘和は触れられるたびにどきりとして、距離が縮むと体温が上がってしまう。
「ここ、どうしたらいいの?」
操作が難しいと言って泣きつかれると、感心してもらいたくて頑張った。こうやるんだなんて言いながらくっついて、コントローラーを持った昴の手をうえから掴んで教えたりもした。
「ヒロはほんとに凄いね。上手いし面白いし」
「上手くて面白くて他には?」
「他に?」
昴がきょとんとしたので、弘和はわざとらしく何度も片目をつむってみせた。昴は気づいたようであははと笑いだし、付け加えた。
「ヒロはかっこいいよ。Vじゃもったいないから顔出ししたらいいのにって思う」
「そこまで言えとは言ってない」
「本音だよ。本当に思ってる」
真剣な顔で言い添えた昴に、弘和はくらりとやられた。名字で呼ぶ昴に、ヒロって呼ぶよう頼んで正解だった。
かっこいいのはおまえで、おまけにかわいい。そう言い返してやりたかったが、軽い調子で言えない気がしてできなかった。しゃべりで売っているのに、昴の前だと調子が狂う。
昴と出会えてよかったと思いつつ、これまで感じたことがないくらいに舞い上がってしまったことには、少しの不安を覚えた。



