ハイスペ特待生たち五人が平凡な僕に執着している、にわかに信じがたい話

「それでは、キャンプファイヤーの開始です」

 宣言のあと、生徒たちによって積み上げられた木枠に松明がかかげられ、火が立ち上った。あたりは真っ赤に照らされて、生徒たちは「おおっ」と感心した顔をあげた。みな魅入られたように笑みを浮かべている。
 こんなものを見てなんになる? なんのための儀式なんだ? 
 バカバカしいと稔は小さく吐き捨て、来なきゃよかったと小石を蹴った。
 昴から避けられて、自分も避けている。登校したって何にも楽しくない。勉強するにも気が散るくらいなのだから、だったら自宅で自習するなりして、ダンスに集中していたほうがましなんじゃないか。

「稔……」

 後ろからか細くも昴の声が聞こえてきた。稔ははっと振り返った。
 ひとりで、うつむいた昴が立っている。

「……なに?」
「花火するって」

 稔は昴から視線をずらして彼の後方を見た。班のメンバーが遠巻きにこちらを見ている様子から、呼びに行く役を昴に頼んだのだろうかと推測した。
 なんてことをしやがる。雅史の差し金にちがいないと、怒りで目の前が暗くなりかけた。

「行かない?」

 しかし昴がおずおずと目を合わせてきたことで、霧が晴れたみたいに怒りが霧散していった。
 いつぶりだろう。しかも、不安で気まずそうな様子だ。怒っていない。マンションで向かい合ったときのように、苛立ちを表に出してはいない。

「バックレるぞ」
「えっ? ……ちょ、稔?」

 稔は昴の手をとって、誰もいないほうへ歩き出した。
 だったら話したい。昴が冷静でいてくれるのなら、なんでもいいからふたりきりで話したい。
 ずっと苦しかった。避け合っても可能な限り登校していたのは、昴に会いたかったからだった。少しでもそばにいたくて、遠目からでも見ていたかったからだ。
 稔は歩みを進めて、ロッジが連なる方角とは真逆の、駐車場のほうへ向かった。

「ちょっと、稔。こっちじゃないよ」
「わかってる。だからだって」
「だからって、なんで? 花火しないの?」
「勝手にやらせておけよ」
「でも、僕が半分持ってて……」

 稔は驚き、ちょうど到着したところだったため歩みを止めた。振り返っても昴の顔はよく見えない。
 山奥のここには周辺に施設や家屋があるわけでもなく、駐車場の照明も心もとない程度の数しかない。
 うちひとつの光が昴の手元で反射した。透明フィルムらしきそれは花火のパッケージのように思えた。

「半分って、それだけ?」
「あ、半分は言い過ぎかな? 三人で分けて持ってたから」
「てことは大半はあっちにあるんだろ? だったら、ふたりでやるか」
「やるって、ここで?」
「いいじゃん。ライターある?」
「……ある……」

 昴はポケットをがさごそとやり、ライターを差し出してきた。
 もしかしたらこれもまた雅史の仕業かもしれない。
 乗せられることになるとしたら面白くはないが、昴とふたりで花火というシチュエーションはわるくない。というより夢に見ていたレベルだ。しかも以前のような態度に戻っているのだから、このチャンスをふいにしたら大馬鹿者だろう。
 稔は思い、昴の気が変わるまえにとパッケージを開けて包装を解き始めた。

「ライトも持っていればよかったね」

 一方の昴はちまちまとテープを剥がしている。なにごとも丁寧に向き合うのが昴らしい。手を止めて口元を緩ませた稔だったが、今は時間が惜しい。
 
「ったく、先にバラしておけよ」

 稔は自分のほうのテープを乱暴に剥ぎ取ったあと、貸してと言って昴の分も請け負った。

「ありがとう」
「……さっさとやるぞ」
「うん。どれにしようかな」
「まずはこの派手そうなのがいいんじゃないか?」
「そうだね」

 稔はライターで昴の持つ花火に火をつけた。ぱっとあたりが明るくなって、昴の表情が朧げながらに見えてきた。

「うわ、きれい……。やっぱいいね、花火って」

 赤青黄の色に照らし出された昴は、心からの笑みを浮かべていた。
 稔の心臓はどきりと跳ね、ばくばくと脈打ち始めた。
 この笑顔——昴のこの笑顔が見たかった。
 稔は泣きそうになり、煙のせいにしてやれと次々花火に点火した。

「もっとゆっくりやろうよ」
「わかってるよ。ただ、ライターを使うより、花火の火を使ったほうが早いから」

 どうやったらこの笑顔を見ていられる?
 ずっとこんなふうに笑ってもらえる?
 この笑顔のためならなんでもする。曇らせないためなら何を差し出したっていい。
 昴のそばにいられるのなら、ダンスだって手放せる。
 稔は昴を見つめながら、そう強く思った。