天瀬稔は怒り心頭だった。
どいつもこいつもちゃんと義務をこなしやがれ。高校生にもなってぐだぐだと恋愛沙汰をしているなんて、と呆れていた。
昴の変化に関しては、むしろいいことだと考えていた。
バカどもが告白したところで昴がなびくはずはない。その点の不安はなかった。自覚なく愛想を振りまいていたことにやきもきしていたくらいで、虫どもは勝手に特攻して敗れたのだと、すっきりしていたほどだった。
「うわ。もう片付いたの?」
昴と雅史が戻ってくるまでに片付け終えることができた。ふたりは驚いたようだが、四人もいて終わっていなかったら、そのほうが問題だ。稔は昴から視線を逸らしつつ、当然といった態度でペットボトルに口をつけた。
「少し早いけど、キャンプファイヤーに向かおうか」
昴と雅史も水分補給をしたようだが、腰は下ろさずにふたたび外へ出ていった。
ふたりきりでなにを話していたのだろう。昴の表情がすっきりとしているのが気にかかる。
「あなたも行くんですよ。先程お話ししたように、隙を見て内海くんにお声をかけるようお願いいたします」
高志郎から促されて、稔は睨み返した。行くつもりだったが、こいつの手に乗ったと思われるのは癪だ。
稔が無視を決め込むと、高志郎は諦めたようで昴たちの後を追いかけていった。
「内海くん、先程は失礼いたしました」
「あ……逃げちゃってごめん。びっくりして、その……」
昴は予想外にもちゃんと答えている。
本当になにがあったのだろう。雅史の様子も窺ってみるも、にこにことしたポーカーフェイスで読み取れない。
稔はここ最近、ずっと苛立った様子を見せていた。
きっかけは自宅へ招いたあのときの会話にちがいない。口を滑らせたうえに、したくもない口論へ発展させたのだ。翌日から避けられるようになったのだから、他に考えられないと稔は思った。
だから受け止める以外にないと考えて、昴の気持ちを汲み自分のほうもなるべく避けていたのだが──
「くそっ……」
昴は二度と話してくれないかもしれない。だとしても諦めたくない。
稔は大きく舌打ちをして立ち上がった。
高志郎から背中を押されたようなかたちになるのは癪だが、稔自身もどうにかしなければと考えていた。
「待て、天瀬」
稔がのろのろと広場へ向かっていたさなか、雅史が声をかけてきた。普段なら無視をしてやるところだが、今日は別だ。探りを入れてやると思い、稔は足を止めた。
「はっ! ……社長さまともなるとクラスメイトも社員のように見えてくるっていうのか?」
「嫌味など無用だ。わたしには利かないからな。それより昴のことだ。キャンプファイヤーが始まったら声をかけて、どうにかふたりきりになるようにしろ」
「……は?」
高志郎とまったく同じことを言われた驚きに、稔は素っ頓狂な声をあげた。
「自分が原因だってことくらい自覚しているだろう? 昴は短期間に三人から告白されて困っているが、困ってるだけだ。わたしが笹野に対するアドバイスをしたら、言うとおりにしたしな。だが、天瀬に対してだけは頑なだった。話すことはない、そもそも友人としての釣り合いが取れてないってな」
「釣り合い?」
「世界的に有名なダンサー様とはしゃべりにくいんだとよ」
「はあ?」
とんでもないことを言われて、稔は絶句した。
昴はそんなことを気にするやつじゃない。これまで普通に喋っていたのだし、原因もあのときの会話に違いないのだから。
ただその理由を雅史に説明できないために、誤魔化しただけでしかない。にしても酷い言い草だ、と稔は口の端をひくつかせた。
「……なんて不貞腐れるくらい、天瀬に対しては複雑な思いを抱えているってことだ」
言い添えてきた雅史の言葉を聞いて稔は顔を強張らせた。
腹立たしいことにお見通しだったらしい。雅史は、だから稔のほうから和解の口火を切れろと言いたいようだが、できたらとっくにやってる。
謝罪したところでなんら意味がない。本音だったと互いにわかっているのに、後からなしにできるはずがないだろう。
「キレてんのはあいつのほうだ。俺じゃない」
「……そんなことわかってる。いったい、なにを言ったんだ? 告白したわけじゃないんだろう?」
「おまえもか……んなもん、あいつにしたって意味ないんだよ。あいつは恋愛したいわけじゃないんだから」
「……そうかな?」
「はっ! ストーカーみたいに探りまわっていてわからないとはね」
「ストーカー呼ばわりは心外だが、探りまわっているという指摘のほうは否定しない。で、そのわたしの見た限りじゃ、昴は恋愛に興味がないとは思えないんだがな」
「そうかよ」
「そうだ。わたしはね、なにも最初の相手じゃなくてもいいと思っているんだ。むしろ最後に選ばれたほうがいいとすら考えている。昴が何人かと付き合って、ひとつひとつ減点していって、最終的に完璧な男に行き着く。無論わたしにだが、理想の流れだと思うね」
「……へえ」
「だから、まずは天瀬、きみと付き合ったらいいとわたしは考えている」
稔はかっとして、怒りのあまり足を止めた。
「俺はおまえらとは違う」
低く吐き捨てたあと、今度は早足で歩きだした。ついてくるなという思いでずんずん進み、昴たちに追いついた。しかし合流はせず方向を変えて、人気のないほうへ向かい、しばらくしたあと立ち止まった。
頭にくる。なにが最後の男だ。
稔はむちゃくちゃに暴れてやりたくなった。したところですっきりするとは思えない。けれど身体のなかで溜まりに溜まった苛立ちや嫉妬、困惑と悲しみはやりどころもなく破裂しそうだった。
どいつもこいつもちゃんと義務をこなしやがれ。高校生にもなってぐだぐだと恋愛沙汰をしているなんて、と呆れていた。
昴の変化に関しては、むしろいいことだと考えていた。
バカどもが告白したところで昴がなびくはずはない。その点の不安はなかった。自覚なく愛想を振りまいていたことにやきもきしていたくらいで、虫どもは勝手に特攻して敗れたのだと、すっきりしていたほどだった。
「うわ。もう片付いたの?」
昴と雅史が戻ってくるまでに片付け終えることができた。ふたりは驚いたようだが、四人もいて終わっていなかったら、そのほうが問題だ。稔は昴から視線を逸らしつつ、当然といった態度でペットボトルに口をつけた。
「少し早いけど、キャンプファイヤーに向かおうか」
昴と雅史も水分補給をしたようだが、腰は下ろさずにふたたび外へ出ていった。
ふたりきりでなにを話していたのだろう。昴の表情がすっきりとしているのが気にかかる。
「あなたも行くんですよ。先程お話ししたように、隙を見て内海くんにお声をかけるようお願いいたします」
高志郎から促されて、稔は睨み返した。行くつもりだったが、こいつの手に乗ったと思われるのは癪だ。
稔が無視を決め込むと、高志郎は諦めたようで昴たちの後を追いかけていった。
「内海くん、先程は失礼いたしました」
「あ……逃げちゃってごめん。びっくりして、その……」
昴は予想外にもちゃんと答えている。
本当になにがあったのだろう。雅史の様子も窺ってみるも、にこにことしたポーカーフェイスで読み取れない。
稔はここ最近、ずっと苛立った様子を見せていた。
きっかけは自宅へ招いたあのときの会話にちがいない。口を滑らせたうえに、したくもない口論へ発展させたのだ。翌日から避けられるようになったのだから、他に考えられないと稔は思った。
だから受け止める以外にないと考えて、昴の気持ちを汲み自分のほうもなるべく避けていたのだが──
「くそっ……」
昴は二度と話してくれないかもしれない。だとしても諦めたくない。
稔は大きく舌打ちをして立ち上がった。
高志郎から背中を押されたようなかたちになるのは癪だが、稔自身もどうにかしなければと考えていた。
「待て、天瀬」
稔がのろのろと広場へ向かっていたさなか、雅史が声をかけてきた。普段なら無視をしてやるところだが、今日は別だ。探りを入れてやると思い、稔は足を止めた。
「はっ! ……社長さまともなるとクラスメイトも社員のように見えてくるっていうのか?」
「嫌味など無用だ。わたしには利かないからな。それより昴のことだ。キャンプファイヤーが始まったら声をかけて、どうにかふたりきりになるようにしろ」
「……は?」
高志郎とまったく同じことを言われた驚きに、稔は素っ頓狂な声をあげた。
「自分が原因だってことくらい自覚しているだろう? 昴は短期間に三人から告白されて困っているが、困ってるだけだ。わたしが笹野に対するアドバイスをしたら、言うとおりにしたしな。だが、天瀬に対してだけは頑なだった。話すことはない、そもそも友人としての釣り合いが取れてないってな」
「釣り合い?」
「世界的に有名なダンサー様とはしゃべりにくいんだとよ」
「はあ?」
とんでもないことを言われて、稔は絶句した。
昴はそんなことを気にするやつじゃない。これまで普通に喋っていたのだし、原因もあのときの会話に違いないのだから。
ただその理由を雅史に説明できないために、誤魔化しただけでしかない。にしても酷い言い草だ、と稔は口の端をひくつかせた。
「……なんて不貞腐れるくらい、天瀬に対しては複雑な思いを抱えているってことだ」
言い添えてきた雅史の言葉を聞いて稔は顔を強張らせた。
腹立たしいことにお見通しだったらしい。雅史は、だから稔のほうから和解の口火を切れろと言いたいようだが、できたらとっくにやってる。
謝罪したところでなんら意味がない。本音だったと互いにわかっているのに、後からなしにできるはずがないだろう。
「キレてんのはあいつのほうだ。俺じゃない」
「……そんなことわかってる。いったい、なにを言ったんだ? 告白したわけじゃないんだろう?」
「おまえもか……んなもん、あいつにしたって意味ないんだよ。あいつは恋愛したいわけじゃないんだから」
「……そうかな?」
「はっ! ストーカーみたいに探りまわっていてわからないとはね」
「ストーカー呼ばわりは心外だが、探りまわっているという指摘のほうは否定しない。で、そのわたしの見た限りじゃ、昴は恋愛に興味がないとは思えないんだがな」
「そうかよ」
「そうだ。わたしはね、なにも最初の相手じゃなくてもいいと思っているんだ。むしろ最後に選ばれたほうがいいとすら考えている。昴が何人かと付き合って、ひとつひとつ減点していって、最終的に完璧な男に行き着く。無論わたしにだが、理想の流れだと思うね」
「……へえ」
「だから、まずは天瀬、きみと付き合ったらいいとわたしは考えている」
稔はかっとして、怒りのあまり足を止めた。
「俺はおまえらとは違う」
低く吐き捨てたあと、今度は早足で歩きだした。ついてくるなという思いでずんずん進み、昴たちに追いついた。しかし合流はせず方向を変えて、人気のないほうへ向かい、しばらくしたあと立ち止まった。
頭にくる。なにが最後の男だ。
稔はむちゃくちゃに暴れてやりたくなった。したところですっきりするとは思えない。けれど身体のなかで溜まりに溜まった苛立ちや嫉妬、困惑と悲しみはやりどころもなく破裂しそうだった。



