ハイスペ特待生たち五人が平凡な僕に執着している、にわかに信じがたい話

「それじゃあ、天瀬の独壇場じゃん! ダンスが一番見栄えするし、ずるいよ。俺は画面越しじゃなきゃ映えないし」
「でしたら歌ったらいいのでは? わたしこそ特技と言っても勉学と書き物ですから、披露のしようがありません」
「てことは俺はリフティング? ステージでやるとか、めっちゃダサくね?」
「確かに不平等だね。わたしもこれといった披露できるものはないし……」
「……だったら、昴に決めてもらえば?」

 雲行きが怪しくなってきたなと不安に聞いていた昴は、いっせいに注目され仰け反った。

「ぼ、僕?」
「おまえがリーダーなんだし」
 
 稔は言い、班のメンバーを見渡した。
 
「俺は昴に選んでもらいたいと思ってる。こいつが楽しめるんならそれでいい、……っていうか見せる価値のあるものになると思う。そのためならダンスの振りも考えるし、リフティングだろうが歌だろうがなんでもやるつもりだ」

 稔の言葉に昴は仰天した。
 稔は人気急上昇中のダンスグループに所属している、学園内でも随一の有名人だ。ドームでのワンマンライブができるくらい売れている。その稔が無料でダンスを見せるだけでも驚きなのに、自分のためというのだから、とんでもないことだと昴は思った。

「そんなの俺もだよ! 昴のためならなんでもやるって」
「わたしもです。内海くんの参加があってのことですから、意向に沿いたい所存です」
「なんにせよ手っ取り早いよな。……俺も内海が決めたんなら否はない」
「総体的に見ても、内海に決めてもらったほうがスムーズに進みそうだね。なにか、案はある?」

 昴は四人の言葉にますます驚き、期待のこもった十の瞳を受けて、焦り始めた。

「えっと……」

 なにか考えなければ。
 なぜ彼らは昴の意見なら聞くというのかわからないが、求められているのならアイデアを出さなきゃならない。
 昴は一分ほど頭をめぐらせ、なんとか閃いた。

「じゃ、ミュージカルみたいな劇はどう?」

 バカにされるかと思いきや、昴が決めたんならそれでいいと言ってあっさり決まった。
 昴はますます驚き、ぽかんとしつつも、納得できることはあった。美作教諭が頭を下げてきた理由だ。
 なぜ彼らは素直に承諾してくれたのか。自分を立てようとしてくれるのか。理由はわからないが、美作教諭の期待どおりの結果になったことだけは確かだった。

「ねね、昴。こいつら昴のなんなの?」
 
 授業終了のチャイムが鳴り始めて、弘和がやってきた。
 
「なんなのって……どういう意味?」
「俺らは親友じゃん? 笹野は偏屈野郎だけど小説のためとか言って昴にまとわりついてるし、班に入るのは別に不思議じゃない。けど、瀬戸口はなんなわけ?」
「瀬戸口くん?」
「サッカー部の連中と仲が悪いのは知ってるけど、でも仲間はいっぱいいるじゃん。なんでそいつらんとこ行かないわけ?」
「それは……」

 聞かれてもわからない。昴は戸惑った。
 弘和の言うとおり、慧人に友人は多い。慧人はサッカー選手として国際試合に出場するレベルなので、知らない生徒はいないというくらいの有名人だ。嫉妬や羨望が理由か、学内のサッカー部との折り合いは悪いと聞くが、サッカーとは無関係の友人が大勢いる。
 わざわざこの班に入る理由はさっぱりわからない。
 ただ、同じ疑問を抱く相手は慧人だけじゃない。弘和こそなぜここにいるのだろうと昴は不思議だった。
 弘和はVチューバーだが、だからとは関係なく校内の人気者でもある。弘和が声をかけたら何人も集まってくるだろうし、現に誘われていた。なのに、なぜ?

「日下部はたぶんだけど、共通点のない班に見かねて入ってきたんじゃない? でも天瀬はなんなわけ?」

 雅史に関しても弘和の指摘どおり、一番問題が起きそうな班だから入ってきてくれたのだろう、と昴にも察せられた。
 雅史は、彼こそがリーダーに相応しいと思うくらいしっかりしている。けれど美作教諭が昴を選んだのは、雅史に遠慮をしたせいだろう。立ち上げた会社が右肩上がりに成長している現状、負担をかけられないと判断したにちがいない。サポート位置がちょうどいいという考えだったのだろう。
 
「稔は……」

 稔はなぜだろう。ちらっと窺うと昴を見ていたらしく目があった。ぶすっと口元をへの字にして、睨みつけるみたいに目を細めている。
 いつものことなので昴は微笑み、なにか言いたいことがあるのかと、稔に話しかけようとした。

「待って。なんで稔とか呼んでるわけ?」
「えっ?」
「いつから呼び始めたわけ?」
「いつって、去年からだけど?」

 弘和は大げさなほどに驚いた反応を見せ、昴は首を傾げた。
 稔から名前で読んで欲しいと言われ、じゃあお互いにとの会話を交わしたのは一年も前のことだった。
 弘和とは二年になってからの友人だ。共通の友人ではないため話題に出なかったのだろうけど、そんなに意外なことなのだろうか。

「昴って天瀬と仲いいの?」
「悪くはないけど……」

 他の友人と比較したら、稔との時間はごくわずかだ。それこそ弘和と過ごす時間のほうが圧倒的に多い。
 けれど、昴にとって稔は別格の場所にいた。過ごす時間は短くとも、交わす会話は少なくとも、稔との時間は特別だった。
 いつもふたりだけになるからかもしれない。日常とは切り離されたような、別の空間に閉ざされたみたいな安心感を得られるのだ。
 日々、劣等感ばかりにさらされ続けている日常から、唯一逃避できる瞬間だった。

「悪くはないけど、よくもない感じ?」

 続く言葉に詰まっていたら、弘和がにやりとして言った。
 
「そんなこと言ってないよ」

 言ってないけど、事実かもしれない。昴は返答に迷い、曖昧な笑みを浮かべた。
 弘和だったら仲がいいと即答できる。まだ数ヶ月の付き合いだが、稔とは比較にならないくらい一緒に過ごしてきた。
 弘和には友人が大勢いるけれど、昴を末端には加えてくれている。参加してくれたことには驚いたが、おそらく昴を心配してくれたのだろう。弘和が来てくれたことによって雰囲気が明るくなったので、感謝したいくらい嬉しかった。
 常に明るくて前向きな弘和は、太陽のように周りまで照らしてくれるのだ。
 個性とりどりの五人を率いる不安は尽きないけれど、ひとりひとりは悪くないし、弘和がいれば大丈夫だと思えた。

「ちょっと待って。次、数学だったっけ?」
「そうだね。どうしたの?」
「教科書忘れたかも。隣行ってくるわ」

 弘和は慌てた様子で教室から出ていった。
 姿を目で追っていた昴は、自分も準備をしなければと通学リュックに手を伸ばし、ちらっと稔のいた場所を見た。
 姿はなかった。
 ——どこへ行ったのだろう。
 気になり、探したくなったが、堪えて教科書を取り出した。
 今は見えなくてもどこかにはいる。一年のときは別のクラスで、かつ稔が多忙だったためなかなか会えなかった。けれど今は同じクラスで、親睦会にも参加してくれるというのだから、会う機会は増えるはずだ。
 昴にとって稔の存在は弘和以上に安心するものだった。ただ、思いは一方的でしかないこともわかっていた。
 稔が何を考えているのかさっぱりわからないし、友人と呼べるのかすら微妙な関係だった。
 なぜ班に参加してくれたのか。そもそもが参加することにすらびっくりだったのに。
 少しでも親しくなれたら、理由がわかるかもしれない。親睦会のきっかけに、稔のことをもっと知れるかもしれない。

「リーダーになってよかったのかも……」
 
 昴は主のいない稔の席を見ながら、こっそり独りごちた。