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R15軽微
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パタッパタッ……
パタタタッ……
軽快な音が窓を叩く。
白い光が
窓から差し込んでいる。
「――雨?」
慧がうっすらと
目を開ける。
アンバーの香りがする。
ふと、
流を思う。
「落ち着く……」
細かに香りを嗅ぐ。
「……流。」
掠れた声が漏れる。
布団に
鼻をこすりつける。
顔を埋める。
じんわりとした温もり。
――気持ちいい。
吐息を漏らす。
うつらうつら……
ハッ!
「――温もり?」
ガサッ!!
顔を上げる。
目の前で
流の胸が
静かに動いている。
「ぅわっ!!」
慌てて
ベッドから飛び降りる。
なんだ?
どうなってる?
床専門の流が
なぜにベッドに?
「――あ。」
額に手を触れる。
流の
柔らかい温もりを
思い出す。
「……そうだ、そうだ。」
眉間に
こつん。と拳を当てる。
昨夜――
流はあのまま
俺を離さなかった。
力づくじゃない。
包むように
抱きしめたまま。
俺の額に
優しく唇を当て
『――もう寝よう。』
頭に低く響いた、
流の声。
キスと言うよりは、
まるで
おまじないみたいな……
俺の中に
鮮明に残っている。
――で、ベッドに導かれ
――そのまま、寝落ちた。
「俺、ただの駄々っ子じゃん。」
不甲斐なさに笑えてくる。
すぐ傍で
寝息を立てる流。
そっと、布団を整える。
窓の外。

雨で
景色が霞んでいる。
「いい雨だな。よし!」
身支度をする。
愛用のメモ帳とペンを
手に取る。
「クスッ……
お前たち、ボロボロだな。」
キュッと握りしめ
ポケットにしまう。
ガチャッ…
――パタン。。
傘の下から
空を見上げる。
部屋から見た時よりも
雨が強くなっている。
灰色の大きな雫が
放射状に降り注ぐ。
傘の上を
転がっていく音に
耳を傾ける。
足元からは
宙に向かって
雫が踊り跳ねている。
辺りを見渡す。
雨は――、
全てに平等だ。
一定のリズムで
地面を叩く。
そして
不規則に跳ねる。
なんて綺麗なんだ……。
水溜まりに落ちた雫が、
円を広げる。
重なり、
崩れ、
また生まれる。
「すごく、いい。」
しゃがみこむ。
傘を閉じる。
落ちてくる、
空気の震え。
弾ける雫の刹那。
水面が揺れる瞬間。
それを、
目に耳に
直に注ぎたい。
絶え間なく
――降りてくる“言葉”。
痛いほどに降り注ぐ。
無心にメモをとる。
水溜まりに広がる円形が
静かに小さくなっていく。
空を見上げる。
髪から水が滴る。
メモ帳を握りしめ
立ち上がる。
「くしゅんっ。」
体の芯まで冷えていた。
「またやっちゃった。おー寒っ。」
両腕をさすると
家路へ駆けた。
―――――
扉を開ける。
「ただいま。
流、起きたんだ。」
「あぁ、おはよ……う。」
振り向いた流の目が、
見開かれる。
「お前、なんでびしょ濡れ!?」
靴を脱ぎながら
肩をすくめる。
「観察。」
「――観察って、お前。」
タオルを手に、
流が近づく。
俺を見て、
肩で大きなため息をつく。
バサッ
ガシガシ!ガシガシ!
「いてて、
もっと優しくしてよ。」
「うるせー。
なら、自分でやれ。」
ほのかに香る
大好きな匂い。
――俺には充分、あっかいよ。
「体が冷たい。風呂入れ。」
「んー……」
ゆらりゆらり、
視界が揺れる。
「……おい――……慧――……」
遠くなっていく。
――流、
その低音ボイス、
心地いいよ。
なんだか、
ほわほわする。
「……ちょっとだけ、
……貸して。」
流の胸に
額を預ける。
力が抜けていく。
「えっ、ちょっと……
――おい……慧?」

抱きとめられた、
安心感。
「なぁ、風邪ひくぞ?」
微かに揺すられる。
動きたくない。
そのまま、
眠りに落ちていく――。
―――――
俺にもたれたまま
寝やがった……。
「……ったく。
何なんだコイツは。」
慧をそっと抱え直す。
濡れた服を脱がせ、
タオルで髪を拭く。
頬。
首筋。
鎖骨。
胸……
慧を流れる雫と共に
俺の目線も流れていく。
慶のまつ毛が、
雫を含んで
ゆらゆら光っている。
ポン……
ポン……
タオルを当てていく。
クローゼットの奥から
真新しいスエットを出す。
「まさか
自分で着せるとはな。」
眉を下げ、クッと笑う。
「よっ!……と。」
抱えて
ベッドに運ぶ。
「コイツ、意外と重いな。」
ベッドに慧の腰を下ろし、
慎重に、
そっと。
……そっと。
枕を引き寄せ、
慧の頭を
置く。
腕と脚を整え、
布団をかける。
ほんのり色づいた
慧の頬に
手の甲を当てる。
「ん。大丈夫そうかな。」
揺らさないように
そぉっと
ベッドから下りる。
「ふぅ……。」
グンッと伸びをして
制作部屋へと戻った。
―――――
慧の目元を、朝陽が照らす。
軽くしかめっ面。
「んんーっ……ふあぁぁ。」
寝転んだまま
手脚を大の字に伸ばす。
大きなあくびが出る。
「いつの間に寝たっけ?」
しばし思案する。
「ま、いっか。」
わからないことは、
深くは考えない。
それ即ち、健康の秘訣だ。
リビングに出ると、
タオルケットを抱えた流が
ソファに沈んでいる。
「またこんなところで!」
つかつかと近づき
タオルケットを剥ぎ取る。
「コラ!起きろ!
たまには
ベッドでちゃんと寝ろ!」
流の腕に手をかける。
――熱い。
「……お前、どうした!?」
額に触れる。
頬に手を当て、
顔を覗き込む。
流が少し目を開ける。
「あ。流!?
なんで熱出してんの?」
「……知るかよ。」
ぶっきらぼうな掠れた声。
「ありゃー……」
小さく息を吐き、
流の脇に腰をかける。
熱を帯びた前髪を、
指で避ける。
「お前さ。」
「……ん?」
「試合の次の日、
よく熱出して練習休んだよな。」
「うるせ。いつの話だよ。」
気だるそうに、
俺の手を振り払う。
すーっと
流の目が閉じる。
ふふっ……
俺の口元が緩む。
「変わってないな。
――知恵熱。
っていうんだぞ。」
―――――
「はぁっ……はぁ……」
辛そうな流の顔。
影の濃い目元。
上下する胸。
汗が、
首筋を伝っている。
「……エロスだ。」
息のようにもれる。
――違う。
“エロスだ”
なんて言葉じゃ、
もうごまかせない。
触れてしまった、
リアルな味。
皮膚に残る――湿度と熱。
“劣情”と呼ぶしかない――。
こんな時まで
じわっと熱い欲情。
自制心も何も
あったもんじゃない。
「コラ、自分!しっかりしろ!」
両頬に、
強く手のひらを叩き当てる。
パンッ!!
「よし!」
セルフビンタは便利である。
ピクッ。
流の指が動く。
「あ。やべ。うるさかったかな……」
チラッと流の顔を覗く。
バチッ。
目が合う。
「あ、流、起きたか?」
返事の代わりなのか、
流が俺に向かって
手を伸ばす。
「なんだ?どうした?」
その手を握ろうとする。
指先を少し絡ませた後、
その手は
俺の後頭部に触れた。
「――え?流?」
グンッ。
引き寄せられる。
俺の頬が、
流の胸に触れる。
トクン、トクン、
強く、ゆっくりと打つ心臓の音。
「そのまま……
静かにしてて――……」
低い声が、頬に響く。
俺は体の力を抜き、
流の胸に
身を預けた。

―――――
(キーボードを弾く音)
カチャ……カチャッ……
カチャカチャ……カチャ……
『彼の持つ仄かな熱。
触れた皮膚から
深部に滲んでくる。
じわっと
侵食されるように。
……このまま、少しだけ。
今日は、もう――。』



