――風太の毎日。
高校生ってのは
兎にも角にも目まぐるしい。
クラス活動やら、
スポーツテストやら、
訳の分からん大量の課題やら、
青春?
そんなものは知らん。
朝っぱらから揺られる満員電車。
流れる景色よりも
早いスピードで過ぎていく毎日。
そこにスロウライフなど
ありはしない。
俺の知る高校生ってのは
そういうもんだ。
少しずつ、学校でも
煌人と一緒にいることが
増えてきている。
バリケード3人組とも
行動は共にしているが、
俺が煌人といる時は
なぜか寄ってこない。
不思議だ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
バリケード3人組は
ホラーハウスにいた。
右から、
富士川、鷹野、茄子。
ニュアンスのずれはあるものの
風太に“バリケード”と
呼ばれてることは
3人とも周知している。
ある種の
誇りみたいなものもある。
薄暗い通路を
3人、横に並んで歩く。
「なぁ、なんでホラーハウスに?」
「深い意味はないよな。」
「自然と足が向いたんだもんよ。」
腕組みをした富士川、
顎に手を置いてる鷹野、
頭の後ろに手を添えてる茄子、
三者三葉。
「なんか光星、雰囲気違うくね?」
「あー、それな。」
「洞だっけ?アイツとよく居るな。」
「そろそろ俺らお役御免では?」
「それはそれで寂しいな。」
「きっと関係は変わんないさ。」
「でも、何かと“洞!”じゃん?」
「光星が誰かに寄ってくのレアだな。」
「それはそれで嬉しいけどな。」
「うん、そうですよね。」
「そうだよな。嬉しい。」
「でも、心配はあるけどな。」
「まぁな、
光星いつも狙われてるからな。」
「そう、そこなんですよね。」
「うん、だからそろそろさ……」
「洞に直談判すっか?」
「だな。必須事案だわ、それ。」
「いつでも受け付けてます。」
「いつでもいいのか?」
「なら話は早いな。」
「じゃぁ、まず洞を捕まえないと。」
「あ、どうぞ。今、いいですよ。」
「マジ?」
「おお、話が早いな。」
「この後、ちょっと時間ある?」
「ええ、ありますとも。」
しん……
ピタ。3人の足が止まる。
「……おい。」
「さっきから誰か返事してるよな。」
「後ろ見るぞ。せーの!」
バババッ!
3人同時に振り返る。
「ばぁ!!」
満面の笑みのゾンビが
顔を出す。

「ーー!!
ぎゃぁぁぁあ!!」
走り出した富士川と茄子。
「お、おい、待て!!」
鷹野が2人を止める。
「コイツ……洞じゃね?」
鷹野が
ゾンビの首根っこを引っ掴み、
その顔に向かって指を差す。
富士川と茄子が
目を皿のようにして寄ってくる。
「まさかぁ……」
「どこで洞って判断を?」
「なんとなく?」
「いやいやいや、無い無い。」
「キュッて猫みたいになってんじゃん。」
「あー、猫……ゾンビ?」
「ニャ……ニャア……」
「あ。洞だわ。」
「そうだな。これは洞だ。」
「ニャアで分かったな。」
「なんでニャ?」
「それ、キモいからやめろ。」
すかさず、3人組に口を押えられる。
「まぁまぁ、バリケードさん達。
ちょっと場所を変えませんか?」
「――?」
「ここだと、
他のゲストがすぐ来ます。」
「あー、そうだな。」
「確かに。」
「どこかあるのか?」
「こっちこっち。こちらへ……」
洞らしきゾンビに
鍵付きのスタッフ通路へ案内され、
細い細い通路をグネグネと歩く。
「はい、どうぞ、入って。」
ガチャッ……
そこには、
白基調の小綺麗な空間。
陽の光が差し込む窓際には
ぷくぷくとした多肉植物。
壁のハンガーには
制服がかけられている。
「おお、なんだこの眩しい部屋は!」
「お恥ずかしながら、
俺の部屋であります。」
┈┈
┈┈┈┈
コトッ……。
3人組の前に、
お菓子とお茶を置いていく。
「うわ。うまそ!」
「腹減ってたんだ!」
「いただきまーす!」
「うんうん。」
自然と顔がほころぶ。
「それで、事案というのは?」
口の中にお菓子を頬張り、
3人がそれぞれ話し始める。
「洞も気づいてるんだろ?」
「あの通り、光星は大変なんだわ。」
「でも俺らアイツ好きだから。」
「うん。
快適に過ごしてほしいですね。」
「そう!そうなんだ!」
「お前、話早いな!」
「お前もバリケードに入っ……」
「あ、それはお断りします。」
被り気味に断る。
「ええぇぇ!!」
バリケードは嫌です。
俺は、“俺”として
風太のそばに居たいのですから。
しかしそもそも、ですよ。
「あなた方はなぜバリケードに?」
俺の投げかけた言葉に
お菓子を頬張っていた3人の口が
止まる。
「それが一番
やりやすかったからかな。」
「光星は何だかんだ
芯はある奴だからな。」
「守られてるとか絶対嫌がるし。」
「ですね。
風太は耐えられないでしょうね。」
「そう。何より周りを考えてる奴。」
「俺ら昔から見てきてるから。」
「うん。昔はあんな大人しくなかった。」
黙って、深く深く頷く。
風太、お前のことを
ちゃんと分かってる人が
こんなにいますよ。
いつか、知って下さい。
「あの……
風太はなぜ、
今のような
ゆるふわキュルルンに?」
「……なんか、表現の癖強いな。」
「まぁ、いいじゃん。」
「癖強いけど教えてやるよ。」
「はい。よろしくお願いします。」
「中学くらいまでは、
口は悪いし粗暴だし
悪ガキ代表みたいな。プッ……」
「アハハ!そうそう!
天真爛漫な悪魔!!」
「それな!一緒にバカやったよな!」
なんて楽しそうに
笑いあって話すのでしょう。
俺もその場にいるような、
そんな気持ちになります。
風太が、悪い顔で笑う姿が
目に浮かびます。
「でもなぁ……中二くらいか?」
「見た目的に目立つようになって……」
「いつも誰かが見てるって、
気味悪がってたよな。」
「そうそう。
知らない間に
SNSに画像載せられて。」
「勝手にオーディション応募
されてたこともあったな。」
「家の前とか
知らない人が待ち伏せしてたり。」
しん……。
3人組の元気が
なくなってしまいました。
「それで、どうなったのです?」
「あ。……あぁ。」
富士川がチラッと鷹野を見る。
茄子は唇を噛んで黙っている。
鷹野が口を開く。
「うん、風太が怒ったんだよ。
だけど人のイメージって怖いもんで
幻滅したとか、まぁ……いろいろ。
めちゃくちゃに叩かれたよ。」
なんて勝手な……。
「そいつらは今どこに?
奥歯ガタガタ言わせてきます。」
「洞、落ち着け。」
「お前、目が素人じゃなくなってるぞ!」
「怖い怖い。その顔で言うな。」
この3人、風太と似てますね。
仲良しなだけあります。
何だか、あなた方を
とても好きになりました。
「プッ……」
思わず吹き出す。
「何笑ってんだよ。」
「いえ、笑ってないです。」
「笑ったじゃん。」
「笑ってないです。」
「プッて笑ったよな。」
「吹き出しただけですけど?」
「なんだそれ!」
3人が爆笑している。
すごく賑やかで、
俺は心がポカポカで、
この部屋が特別な場所にすら
思えてしまったんです。
カタッ……。
部屋の入口から小さな物音。
振り返る。
「ーーすげぇ。
俺、顔パスになってる。」
そう言いながら、
ドアの向こうを見たまま
風太が部屋に入ってくる。
「なぁ、煌人!
遊園地顔パスって初めて!」
笑ってこっちを見る。
「――え。」
風太の目が丸くなる。
「光星!?」
3人組が揃って立ち上がる。
みんなが立ち上がったので、
俺もひとまず立ち上がる。
「風太、こんにちは。
一緒に話しましょう?
あ、ホームパイも出しますか?」
風太に手を差し出す。
その手を風太が
すいっと避ける。
風太の顔からは
笑みが消えている。
「風太?どうしました?」
「――俺、帰る。」
後退りをすると、
くるっと踵を返し
ドアから出ていった。
「えっ、風太?」
「おい、光星!!」
「俺っ、行ってきます!」
3人組を部屋に残し、
風太を追いかける。
ドアのすぐ側で
風太の手を捕まえる。
「待って、風太!」
「手、離してくんない?」
俺の手を振り払おうとする。
ギュッと指に力を込める。
包み込むように
風太の手を握りしめる。
「離しません。」
「なんで。」
「離してはダメだからです。
なぜそんなに
怒っているのですか?」
「怒ってねーし。意味わかんね。
その話し方やめろよ。ムカつく。」
「なぁ自分、なんで怒っとんのや?」
「舐めてんのか。」
風太の目は
そっぽを向いたまま、
俺の事をチラリとも見ない。
「あのぅ……俺たち、帰るよ。」
「洞、お菓子とお茶サンキュ。」
「光星も、また明日な。」
部屋から出てきた3人組が
そろっと
俺たちの横を通り過ぎる。
「あぁ――また明日。
気をつけて帰ってくださいね。」
足早に去っていく3人に、
後ろから声をかける。
風太は
そっぽを向いている。
握っている手を
クイクイクイと小さく揺らす。
「ふ・う・た。」
「なんでだよ……」
風太の小さな口から
こぼれる。
「ん?」
「なんで……っ
煌人とアイツらが一緒にいる?
……部屋にまであげてさ。」
風太がキュと唇を噛む。
頬が少し膨れている。
――クッソ可愛い……
可愛い可愛い可愛い。
風太モデルの
マスコット作ろうかな。
それから……
あとは……
ハッ!!
萌え散らかしてる
場合では――ない。
「バリケード達と
友達になるのはいけませんか?」
「そうじゃない。」
まだこっちを見てくれない。
相手の視界に入れないって、
こんなに寂しいものなんですね。
「こっちを……
見てくれませんか?」
風太の目がチラッと
俺を見る。
視界の端の端に
俺を留めてくれている。
それだけで、
心がふわっと温かくなる。
「ごめん……俺、ガキみたいだ。
なんか嫌だったんだ。」
「何が嫌でした?」
「煌人の部屋は……」
「俺の部屋?」
風太が顔を上げ、
俺の目を見る。
「煌人の部屋は、
“俺だけが知ってる場所”がいい。」
キラッ……キラッ……と
光を反射している、
強く綺麗な目。
思わず口をついて出る。
「俺も、
その目が俺だけのものがいい。」
「――目?」
風太の頬に
指先でそっと触れる。
「はい。
この、強くて綺麗な
風太の目です。」
「……っ。」
風太の目が
キラキラと揺らめく。
さっきよりも強く
綺麗に――。



