成り行きで
ゾンビになったけど、
なんだこれ。
めちゃくちゃ楽しい!!
「煌人!
もっと!もっとやりたい!」
次のターゲットが
待ちきれない。
俺、すんげえワクワクしてる。
煌人がクスクスと笑う。
「はい、やりましょう!
風太、すごくいい笑顔です。」
遠くから
ガヤガヤとした声が
聞こえてくる。
「あ!来たんじゃない!?」
身を乗り出す。
「しっ……」
煌人の腕が俺を止める。
耳を澄ましている。
「――これは、ダメです。
風太は一旦お休みの回ですね。」
「ええー、なんでだよ!」
「――お休みです。」
俺の顔を
すっと見据える。
ドクン……
「……なんだよ、ケチ。」
口をとがらせる。
ドクン……ドクン……
「ケチケチ、ドケチ。」
ふくれっ面で、通路の端に座る。
「クスッ……
風太、いい子ですね。
俺が戻るまで、
端に座って隠れててください。
声を立ててもいけません。」
そう言い残し、
煌人は
声の方へ走っていった。
暗闇に一人。
しーん、としてる。
遠くの方から、
微かに悲鳴が
聞こえてくるけど、
ここは――
とても静かだ。
「チェッ……なんだよ……
いつもヘラヘラしてるくせに、
急に、あんな目しちゃってさ。
いい子ですね、って。
優しい顔で
俺の事見るんじゃねーよ。」
その時――
すぐそばで声が響いた。
「居たーっ!ゾンビ!」
「狩ろうぜ!」
――あ。
まさか、さっきの……。
「――待てコラァ!」
「――よし、捕まえろ!」
「――――――!!」
――え?
今、捕まえるって聞こえた……
暗くて見えないけど、
ヤバそうってことは分かる。
「……煌人?」
立ち上がろうとした時、
ふと、
駆けて行った
煌人の後ろ姿を思い出す。
『俺が戻るまで
端に座って隠れててください。
声を立ててもいけません。』
――どうしよう。
でも、
多分、邪魔しちゃダメだ。
声を殺して、
そろっと腰を下ろす。
身を潜め、
声がする暗闇に、目を凝らす。
――ガタガタッ!!
突然の大きな音。
俺の身体が
ビクッと跳ねる。
それでも目は逸らさず
じっと様子を伺う。
ガサガサッ!!
ザザザーーーーッ……
「うわっ!」
「えっ!ちょっ……なんだコイツ!」
ゴソッ!!
バタン!!
ドサッ……ズズズズッ……!!
「食ってやるぅぅう!!
グワァァァアアアーーー!!」
地の底から響くような
強烈な声。
「うわぁーーーーーっ!!」
大きな叫び声と共に
数人の悪ガキ達が
俺の方へと走り込んでくる。
「ヤバい!逃げろ!!」
「待って!待って!」
「うるせー!早くしろ!!」
――ダダダダッ!!
しん……っ
ぽかん、と見送る俺。
――ハッ!
そうだ、煌人!!
「……煌人?
……煌人さーん?」
小さな声で呼んでみる。
ドクドクと
喉の奥が脈打ち、
手が震えている。
「……煌人って!」
少し声を強める。
ペタペタペタ……
足音が近づいてくる。
すっ……と、
煌人が姿を現す。
「――煌人っ!!」
立ち上がる。
フッと煌人の目が和らぐ。
「どうしました?」
「どうしました?じゃねーよ!
置いてくなよ!心配したじゃん!」
ポスッ……
煌人が俺の頭に
手のひらを乗せる。
少し屈んで
俺と目線を合わせる。
「泣きそうな顔……。」
その手を払う。
「そんなんじゃねーし。」
きゅっ……
煌人の腕が、
俺を引き寄せる。
温かい手のひらが
俺の背中を
トントン……
と、叩き始める。
「何してんだよ。」
「よしよし……。
って、してるんですよ。」
「子供かよ。」
「クスッ……
そんなこと思ってません。」
煌人のトントンが、
俺の気持ちを
フラットにしていく。
「あのな、俺――
お前に何かあったのかって、
すんげえ怖くて、
ドキドキしたんだ……。」
「ええ、何かありましたよ。」
――即答。
煌人よ、
こういう時はさ、
“いや、何も無いさ”とか言うんだよ。
そんで、
“お前は何も心配いらないよ”とか
言っちゃったりするんだよ。
ありましたよ。じゃないよ。
俺の緊張が、
ふっ……とほぐれる。
「さっきの奴ら何なの?」
トン……トン……
煌人の手が心地いい。
引き寄せられた身体から
煌人の声が響いてくる。
「ゾンビ狩りやってたんで、
ゲスト向けじゃない
裏メニューを
ご馳走してあげました。」
……裏メニュー。
怖っ。
そこは聞かないでおこう。
「なぁ。次は俺やりたい。」
煌人の肩を押し、
少し身体を離す。
それでもまだ
俺は煌人の腕の中だ。
その腕に
少しだけ力が入る。
「それは、場合によります。」
煌人の肩をグイッと離す。
「俺、やりたいんだ!
やらせて!」
「――いやしかし……」
薄暗い通路の向こうから
誰かが来る気配がする。
カモが来た!!
「俺、行ってくる!」
バッと煌人の腕を振り払い、
さっと走っていく。
「あ、風太!
待ってください!」
煌人の制止を背中に――
次なるカモへ!!
「いてててて……」
しゃがみこむ。
ザッザッザッ。
足音が近づいてくる。
「怪我ですか?」
「ねぇ、外まで連れてってあげれば?」
むむ?
カップル――来たり。
差し出された手を
掴む。
「やさしぃヤツだなぁぁぁあ!!」
グワァって顔で見上げる。
「うわわっ!!離せ!!」
予想外に暴れる彼氏。
力任せに
俺の手を引き剥がす。
彼女の手を引いたまま
大きく腕を振って
走り出した。
――ガッ!!
その肘が俺の頬に
クリティカルヒット。
スローモーションのように
視界が揺れる。
おいコラ、彼氏、
思いっきり当たってんぞ。
お前いつか、食ってやんよ。
ズサッ……
後ろに倒れ込む。
「――風太!!」
「痛ってぇ……」
頬を押えながら
起き上がる。
「おい!大丈夫か!?」
駆け寄った煌人が
俺の背中に手を添える。
「顔、見せろ!」
グイッ……
俺の顎を上にあげ、
四方八方から
細やかに観察する。
「目には当たってないか!?」
「大丈夫。頬に当たっただけ。」
煌人が
バッと頬を見る。
「赤くなってる……
痣になりそうだな。」
親指の腹で
俺の頬をさする。
眉をひそめ、
ふぅ……と息をついた。
――多分、呆れてる。
“ほら言わんこっちゃない”
そんな言葉が
聞こえてきそうだ。
……俺はなんでこうなのか。
油断すると《《こう》》だ。
だから大人しくしてるのに。
――叱られないように。
――嫌われないように。
誰だって
心の中では
みんなに好かれてたい。
俺だって……
俯く俺の頭に
煌人の低い声が落ちてくる。
「あのデート浮かれ野郎……。
風太に何してくれてんだ?
だっせぇ走り方しやがって。」
「へ?……おま誰?」
キョトンとする俺。
煌人が
俺の両肩を掴んで
大きく揺さぶる。
「殿!奴は今すぐ亡きものに!
いざ、出陣!!」
そう叫ぶと
煌人は、すくっと立ち上がった。
――ガシッ!!
反射的に
服の裾を掴む。
「待て待て待て。
――落ち着け。
どう考えても俺が悪いんだぞ?」
煌人の目が
俺を見下ろす。
大きく、
まばたきを
2回。
肩が揺れるような
深呼吸。
そのまま、
俺の傍にへたりこんだ。
「殿っ……立派な最期です。」
「誰が、殿だよ!
首取られてねーし!」
まったく、コイツは
どこまで本気で
どこから冗談なのか。
さっぱり分からん。
つつぅ……
煌人の目から涙。
「殿ぉぉーーーー……」
だばー。
うそーー!!
全部、本気《マジ》なん!?
なんか、遠く見てるし。
「おい!戻ってこい!
勝手に変な世界に迷い込むな!」
もう頬の痛みなんて
どうでも良くなってきたわ。
―――――
俺、反省してます。
風太が望むままに
ゾンビにしたことを。
ゾンビ役は
意外と危険なんです。
緊張と恐怖のために
咄嗟に攻撃するゲストや、
今日みたいに
狩りにくる阿呆が稀にいるのです。
それをよく知っていたのに。
幼少期から
護身術を叩き込まれ、
(個人的な趣味で)カポエイラを取り入れ、
ちょっぴり怖い
裏メニューを作りあげました。
風太は、
自分の身を護れないのに。
なのに
“俺が悪い”と言うのですか。
違いますよ。
悪いのは、俺です。
風太、
お前は、“良い子”ですよ。
そんな顔をしないでください。
そばに居ながら
推しに怪我をさせるなんて
俺がダメでした。
でも、俺も楽しかったんです。
もっと、ずっと、たくさん、
風太と笑いたいのです。
生まれて初めて
引越しなんて
クソ喰らえだと思ってるんです。
今まで、
季節が終わる度に
“消えること”を繰り返してきたのに。



