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「おーい!光星ーーっ!」
「ふうくーーん!」
微かに、みんなが
風太を呼ぶ声が聞こえる。
そりゃそうだ。
大切なふうくんが消えたら
大探しするのは必然。
「風太、みんなが探してる。
さっきのドアまで送るよ。」
手を伸ばし、
有無を言わせず風太を担ぐ。
ひょいっ!
「えっ!降ろせよ!
自分で歩けるって!」
「じっとして。」
暴れる風太を腕でロック。
「こっちの方が早い。
もう行かなきゃ怪しまれる。」
「――あ。……そうか。」
「いざ!ゾンビ走り!!」
――ギューンッ!!
「えっ……ちょっ!お前マジ!?」
「マジっす!!頭抑えててね!!」
シュタタタタタッ!!
「うそぉーーーー!!
うわっ!あっぶね!」
「頭を出してはダメ。
電車からも車からも
ゾンビからも!
頭を出してはいけません!!」
「うわぁぁぁぁああああ!!」
嘘のようだが、本当なのだ。
ゾンビ歴=年齢、の俺。
ホラーハウス内を走り回り、
1人何役もこなしてきた。
その経験値、
役に立つ時がついに来たのです。
しかも推しのためだなんて。
もう俺は、
天に召されてもいい――。
前を向いて
ひたすら走るのみなのです。
――ギュンギュンッ!!
ピタッ。
「到着ぅ!!」
そっと、
ドアの前に
風太を立たせる。
耳を澄ませ、
ドアを少しだけ開ける。
「よし。今だ!
また、学校で会いましょう!」
トン……ッ。
風太が指先でドアを押す。
――パタン。
「……なにか忘れ物でも?」
「とりあえず、これ見ろ。」
スマホの画面を見せられる。
そこには、
────────
光星、返事しろ。
どこだ、光星。
おーい。
俺、みんな帰っちゃったかなって。
追いかけてるつもりで出ちゃった。
だからもう、今、家の近くなんだ。
ごめんね( ՞. ̫ .՞)"ペコリ
────────
くっ……
可愛い絵文字付けてやがるぜ。
クラクラするが……
「これって……どういう……?」
「…………っ。」
ボソッと
風太が何かを呟いた。
「ん?なんて?」
「俺、まだ、お前ん家に居たい。」
バツが悪そうに
風太の口がぷっと膨れている。
可愛い。
マシュマロみたいで可愛い。
マシュマロの高速貨物列車!!
「――今すぐそれを食べたい……。」
「は!?」
「いや、何も言ってませんよ。
何か聞こえました?」
「――いや、気のせいか……」
この日、
俺と風太は
時に笑い、
時にバコン!とやられ、
空が赤く色付くまで
一緒に過ごした。
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日付は変わり――翌朝。
昨夜は
驚くほどよく眠れた。
人は満たされると
こんなにも安眠できるのですね。
今日も俺は
一番乗りで教室へ参ります。
キーンコーン……
……カーンコーン――……
バタバタバタ!!
毎度同じメンツが、
団子になって
教室に駆け込んでくる。
その真ん中に
そっと居るのが風太だ。
俺の目には
“そっと”ではなく、
“涼しい顔で”に見える。
周りのごろごろとした男子が
先生に小言を言われてる隙に、
風太は
ススス……と、
元から居たような顔で、
ほわんっとした顔で、
席に着くのだ。
クラスメイトに声をかけられ、
笑顔で応える。
“俺は早くから来てましたよ”風に。
その様子を俺は、
教室の対角線上の端っこから
“そっと”見ているのだ。
熱く萌える目で。
風太が俺の視線に気づき、
眉を上げて
“おはよう”って顔をする。
俺は、
気付かないふりをして
窓の外へ目をやった。

そよそよと風が吹き込み、
カーテンがなびく。
実にいい朝だ。
バン!!
――ビクッ!
振り返ると、
俺の机に手のひらを置いた
風太が立っている。
「えっと……なに?」
「いや、何でかなって。」
ニコッ。
おぉ……可愛い笑顔だ。
俺に向けられる日が来るとは
これは夢なのだろうか。
「何で……とは?」
「ん~……。
あ。そうそう。“洞くん”。
俺の靴箱に
キミの靴が入ってるんだ。
何でかなぁ……って。」
風太がチラッと、
教室の外に目をやる。
来いってことかな。多分。
カタッ……
立ち上がり、廊下に出る。
俺のすぐ後ろを
風太が着いてくる。
例のバリケード3人が
こちらへ来ようとしたが、
風太が彼らに手を振った。
「大丈夫だから。」
そのまま先生に声をかける。
「先生、洞くんの靴が
俺のところに入ってるので、
直してきます。」
「――ああ、早く帰ってきなさい。」
「はーい。」
いや、先生。
靴の場所直すの、
俺一人でやれますけども。
風太には無抵抗なんですね。
先生ってば。
分かりますよ。
目尻下げて
“うんうん”ってなる気持ち。
よーーく分かります。
可愛いですからね。
――表面上は、ね。
ペタペタ、ペタペタ……
俺たちの足音だけが
廊下に小さく響く。
玄関に差し掛かる。
周りには誰もいない。
声すら、
聞こえてはこない。
「よぉ、煌人ー。」
「はい。」
ポケットに手を突っ込んで
ダラっと立つ風太。
くっ……
そのどうしようもない感じ。
俺、かなり好きです。
「お前、なんで無視したの?」
「関わらない方がいいからです。」
「――は?」
「俺と関われば、
ボロが出て
風太の今までの努力が
水の泡になります。
さっきも、
机をバン!――なんて
……してはいけませんよ?」
あ。
風太、俯いて考えてる。
悩む姿もイイです。
「……でも、無視されるの
なんか嫌なんだけど?」
風太が
少しだけ口を尖らせる。
ふっくらとした唇。
尖らせて、ぷくっとしてる。
そろっ……
指先で触れる。
「えっ……煌人?」
つつっ……と指を滑らせる。
「ちょっ……お前、何。」
指を引っ込める。
「いや、別に。マシュマロッ。」
「なんて?」
「別に。」
「なんか、ムカつく。
別にばっかり言うなよ。
他に何か、
言うことないのか?」
「他にって……いや、別に?」
「だから、それがムカつくって!」
ガタッ……

「大きな声出さないで。」
風太を覆うように
靴箱に手を着く。
「――煌人……?」
風太が驚いている。
でも俺が一番……驚いてる。
うっかりやってしまった。
すぐそこに
風太の鼻先がある。
「────。」
小さく喉が鳴る。
ギュッと
強くまばたきする。
すうっと息を吸う。
「なんですか!
この美味しい展開っ!?
これは、有名な“壁ドン”では!?
コラ!この手っ!悪い手だ!」
「そう思うなら、
さっさとどけろよ。」
「はい。しかしどうした訳か、
俺の手が言うことを聞きません。」
「嘘つけ。んなことあるか!」
「クスッ……はい、嘘です。」
スルッと手をどける。
「――教室に戻りましょう?」
「……。」
「風太?」
「戻りたくないって言ったら?」
「え。」
「まだ、なんつーか、
お前と喋ってたいっつーか……」
うあぁぁぁ……
ムズムズする!可愛すぎる!
今すぐ捕獲して
ポケットに入れてしまいたい。
「――えっ。」
「え?」
「俺を捕獲してポケットに?」
まさかのテレパシー。
強い思いは
奇跡を起こすのですね。
「違うから!!
お前さっきから
全部、口から出てんだよ。」
「なんと!」
「なんとじゃねーわ。
はぁ……もういいよ。
放課後、お前ん家行く。
首洗って待っとけ。」
「――はい。」
くるっと、
来た方向へ歩き出す風太。
一歩一歩進むにつれ、
歩き方が
いつもの光星風太になっていく。
さっきまでの、
ダラっとした
風太じゃなくなっていく。
あぁ、
俺は風太のこと言えない。
ボロが出て
ペースを乱してるのは
俺の方じゃないか。
学校では
一切関わらないって
決めてたのに。
“推しの日常を守る”
これは、
絶対のルールなのに。
呼び出されて
ウハウハ着いて来てしまった。
壁ドンまでしてしまうとは。
あ。唇も触っちゃったな。
触っちゃったっていうか、
あわよくば
触っちゃおうかなって
思いながら着いてきたんだけど。
俺、指先もう洗えない。
風太が
目だけで振り返り、
掠れた低い声を俺に投げる。
「俺、昨日、
あんまり眠れなかった。
めちゃくちゃ楽しかったんだ。」
ふいっと前を向くと、
風太はいつもの光星風太で
教室へと入って行った。
「風太……、お前……。」
俺は、なんてことを
してしまったんだろう。
廊下にひとり。
立ち尽くす。
俺は最低だ。
推しの安眠を妨げるなんて。
こんなことは、
あってはならない。
今日の放課後は
俺、全身全霊、善処します。
マシュマロッ。



