ある日、ゾンビを助けたら。



「推しに推せ推せ語れるなんて!」

こんなに幸せなことが、
まさか
俺に降ってくるとは。


俺っ、ゾンビやってて良かった!


高三にして初めて
家業に感謝している。


今までの人生、

どこぞで遊園地が
オープンすると聞けば、

家財道具担いで
家族でその地へ降臨。


シーズンが終われば
跡形もなく姿を消す。


母は、ママ友が出来ない。
と嘆いていたっけ。

そのうち、
そんなもん要るか!とか
言い出して……
伸び伸びしだしたな。

多分、
何か学びがあったのだろう。


そして今、
俺にも転機がやってきている。

人生たるや
何が起こるか分からない。


つつっ……

あれっ。

目から温かい何かが。



「えっ、涙!?
 おいっ、なんで泣いてんだよ。」

キラメキ君、
君はとても物知りだね。

これが涙。

これが泣くってことか。


涙って、

涙って、

熱いんだね!!


だばーーーー……


目から洪水です。


俺の目が
洪水を起こしたのは
なぜでしょうか。



┈┈
┈┈┈┈
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



俺の名前は、

洞 煌人(ほう きらと)。

乙叶井(おっかない)高校に通う、
高校三年生。
成績は……
わざわざ言うのもアレなので
割愛しましょうか。

気づいたら
教室の片隅に居た、
って昔からよく言われます。

別に
存在感ないとか、
いじられてるとかでは、
決してないですよ。

孤独でもありません。

誤解なきよう。


自分で言うのも照れますが、

“静かにすみっこで佇んでいる”

それが、俺です。


見た目は静寂
中身は推し活

絶賛キラメキ君推しです。

照れますね。


難点といえば、
人付き合いが苦手なくせに
人が大好きなところ。

攻めるのは好きだが、
受けるのは苦手。

と、まとめておきましょう。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


皆さん、考えたことあります?


自分の部屋に、推しがいる。

自分の部屋に、推しが遊びに来る。


とんでもない大事件。
気絶必至案件なんですよ。

今、俺が直面しているのは
推し活民として
ある意味、絶体絶命ピンチなのです。


「おい。
 ――おい、って!」


「あっ、はいっ!」


「お前、何ブツブツ言ってんだよ。」


「ちょっと、心の同志と会話を。」


「は?」


「別になんでもないです。
 で、何でしょうか?」


この、
口の悪い
態度のでかい、
キラキラとした可愛い人。

これが、俺のキラメキ君です。


「もっかい聞く。
 お前、俺のこと……」

「だいっすきです!」

あぁ、言ってしまった。

3回も。


推しに“好き”と。


俺、隠れて推してこそ!
と思ってました。


撤回します。



推しにぶつけてこそ!


推しに認識される喜び!



これは、
タブーかもしれません。

でも、俺、
それじゃあ
満足出来ない奴みたいです。

キラメキ君の目に映りたい。


✦・┈┈┈┈┈

キラメキ君

俺はまんまと

トキメキ君

✦・┈┈┈┈┈


あ。なんか目頭が熱く……


「もっかい泣いたら、しばく。」


「悲しくないんだけど……
 感極まりは止まりませんて!」



だばーーーーっ



「うわっ……汚ねっ!
 お前、一回、顔洗ってこい!
 ゾンビより怖いぞ。」


チラッと
部屋の鏡に目線をやる。

「ギャーーッ!!」

バターン!!



ゾンビ――死す。



「なんっなんだよ、こいつは。

 ……チッ。しょーがねぇな。」


ガサガサッ……

ペタ……ペタペタ。

顔がひやっとする。

スルスルッ、キュッキュッ。

まるで、
マッサージみたいに

優しく丁寧に
顔を拭かれている。

気持ちいいなぁ……

「めんどくせ!」

荒々しい口調とは裏腹に、
スッ……スッ……と
心地よい冷たさが
肌の上を滑っていく。


ピタッ。


ん?止まった?

蘇生しながらも
気絶してるフリしてたの
――バレた?


そっと目を開ける。


キラメキ君が
俺の顔を食い入るように
見つめている。


え。もう何か始まっちゃうの?
ちょっと早くない?


ガサッ……

キラメキ君が後ろに下がる。
器用な足だ。


「お前っ……クラスに居たよな!?」


「はい、居ますけど?」


「居ますけど?じゃねーよ!
 なんで、それ、
 先に言わないんだよ!」


「それよりもさ!
 俺のこと知ってたなんて!」


バコーン!!

でこっぱちを
また、はたかれる。


「もう、そういうのいいから!」


「はぁ……もう、めんどっちいな。」

「え。」


ゴソッ。

起き上がる。


「あー、はいはい。
 いるよ、いますよ。

 それが何か?」


「なんか……キャラ違うくない?」


「違うくないよ。

 キラメキ君もそうでしょ?

 どれも自分だよ。」


キラメキ君の目が
俺を見てる。

じっ……と。

少し唇を噛んで。


「俺のは、――違うし。」

「違う?」

「全っ然、違う!

 俺のは……俺のは……
 事なかれ主義の……

 ただの“逃げ”だから。」


キッ!



キラメキ君、強い目だな。

確かに、
いつもの
ほわほわしてる君とは違う。


「それは“逃げ”じゃないよ。
 うまくやるための
 “鎧”――とでも
 言って欲しいもんだな。」


「嫌いなんだよ。
 俺って奴が嫌いなんだ。」


「嫌いでも何でも、
 全部、自分なんだよ。」



キラメキ君が
吐き捨てるように言う。

「そうは言っても、
 お前だって
 俺の見た目、推してんだろ?」



キラメキ君が……
今にも泣いてしまいそうだ。

そんなつもりはないのに。


どうすれば伝わるだろう。

君は唯一無二なんだと。

みんなみんな、そうなんだよ。



トン……



キラメキ君の肩を
指先で押す。

そのまま、
すいっと鼻先を寄せる。


「アンタ、本気で言ってる?
 俺の“尊い”見くびるなよ?」


俺をじっと睨みつけると
キラメキ君が
手を伸ばし、俺の肩を掴む。


「あっ……ヤバい……
 触られ……た。」

今、意識を
飛ばすわけにはいかないんだ。

クラクラする。

触れられた肩が
気絶しそうにくすぐったい。

「キラメキ君、
 手を離してくれませんか?」

必死に言葉を絞り出す。



「――え?」


「俺っ……キミに触られると
 こうなるみたいです……。」

ふるふるとしながらも
倒れないように耐える。

耐えてみせる。


パッ。

キラメキ君が
俺に触れた手を離す。

「はぁー……ややこしい奴……」

大きなため息をつく。

「おい、ゾンビ。
 お前、散々俺に触ってんじゃん。」


「はぁ、そうなんすけども。
 俺、攻めるのは好きでも
 受けるのは苦手でして……」


「妙な言い方すんな!
 もっと上品な言い方ないのかよ。」


「えーっと……
 推すのは得意です。
 推されると死にます。」


「なんだそれ。

 もう、どうでも良くなってきた。

 あーーーー、もう!」



ドサッ。

キラメキ君は
大きく手足を伸ばし、
背中からクッションに
身を投げ出した。


天井を見ながら
キラメキ君がこぼす。

「俺ら、もう高三だな。」


そう、高三。
クラス替えで
キミを見つけた時の
あの高揚感。

今も忘れられない。


「俺、もっと早く
 ゾンビに会いたかったな。」


「キラメキ君……」


「なんだよ、
 別に変な意味じゃねぇぞ。」


「いえ、そろそろ
 名前を呼んで頂きたく……。」


しん……。


カタッ。

引き出しから
1枚のカードを取り出す。

「あの、これ。どうぞ。」



──────────

“本格的ゾンビやります!”

“ご用命を!”

ホラーハウス

洞 煌人

──────────



「ブハッ……
 なんで名刺なんか持ってんだよ!」


キラメキ君が笑った。

大きな声で
腹抱えて
笑ってる。


「で、なんて読むの?

 まさか“ほら”!?
 ホラーだけに!」


「あ、(ほう)です。
 洞 煌人(ほう きらと)です。」


「煌人……?
 お前がキラメキじゃねーか!

 おい、俺のこと、
 もうキラメキ君て呼ぶな。」


えーーーー!
すごいショック。

でも、推しに禁止されたら
従うしかありません。

「では、何と呼べば?」


「俺、光星風太。

 ――風太って呼んで。」

そう言うと、
風太は
ふいっと顔を背けた。


「……風太。」

「なんだよ、煌人。」

「……風太。」

「だから、なに。」

「強烈にイイ!

 名を呼ぶ許しを
 あざっすです!」


「いちいち、癖強いっ!」



――俺と風太。

本当の意味で
出会ってみました。