「あのさぁ……
勝手に背景にしないでくれる?」
俺をバックに
スマホ構えてる不届き者め。
煌人が居なくなって
あっという間に月日は流れ、
もうすっかり秋も深まっている。
“自分を大切に”って煌人の言葉。
少しずつだが、
俺なりの解釈で
“大切に”するようにしている。
「えっ……あっ……ごめんなさい。」
「いっそ、
一緒に撮ろうって言ってよ。」
「えっ!?“ふうくんルール”は!?」
「あんなの、もう撤廃。」
「じゃぁ、一緒に……撮ろ?」
「いいよ。」
この一件が
あっという間に知れ渡り、
長蛇の列を生む。
「はい!そこ!
順番抜かさない!」
「喧嘩しないの!」
「横に広がらない!」
次の人は……と目線を上げる。
俺の前に、
上下ジャージの
怖そうなオッサンが
恥ずかしそうに立っている。
「――土成……先生!?」
「しぃーっ……」
「いや、一番目立ってますよ?」
生徒指導の土成まで
こっそりと列に紛れる始末。
オッサンとのツーショット。
何だ?これは。
「卒業式で良くないですか?」
「良くないっ!!良くないぞっ!!」
「はぁ……そっすか。」
教室の入口では、
バリケードたちが
ゼェゼェ言っている。
長蛇の列のサイドを
アップダウン。
なかなかの運動量だ。
「ルール撤廃の威力よ。」
「休み時間、
ずーっとサイドハーフじゃん。」
「サッカー部に
入部するのもいいかもしれんな。
あと、
土成が居たのちょっとキツいわ。」
俺が勝手にルール撤廃したのに、
バリケードたちは怒るわけでもない。
一生懸命に
秩序を守ってくれている。
自然と口をついて出た。
「いつもありがとうな。」
バリケードたちの目が丸くなる。
「光星が……」
「俺らに……」
「《《ありがとう》》!?
光星、どうした、熱か?」
鷹野が、俺の額に
手のひらを当てようとする。
「あー、うるさいうるさい。」
その手を
ペッペッと振り払う。
「いやしかし、
光星が“ありがとう”を使えるなんて。」
「正しく使えたの、
幼稚園以来じゃないか?」
「とすれば、
まさか“赤ちゃん返り”か!?」
「その失礼な口を
今すぐ縫ってやろうか?
まぁ、この列、
3日もすりゃ終わるさ。」
バリケードたち、
揃って唇をキュッと閉じる。
眉を上げ、
目だけで俺に語っている。
“ホントに3日で?”
「うん。《《にわか》》なんて3日だよ。」
――3日後。
教室の片隅に、
頬杖ついてのんびり寛ぐ俺がいた。
バリケードたちも傍に集まり、
窓からの風を
気持ちよさそうに浴びている。
「ホントに3日で治まったなぁ……」
「なんなんだ、この3日法則は。」
分析好きの鷹野が
身振り手振りで話し出す。
「みんな一通り、
欲しい画像を手に入れたからでは?
自分のスマホに《《それ》》がある。
充分やり遂げた感が形になってる。
しかも堂々と自慢できる。
水族館の
カワウソの赤ちゃん公開!
撮影タイムを設けます!
ってやつと同じ原理だよ。」
「誰が、カワウソだ。
せめて人間に例えてくれよ。」
通りすがりのクラスメイトが
ふと足を止める。
「なぁ、光星、洞ってさ……」
ガシッ!!
富士川がクラスメイトの肩に手を回し
引きずるように連れ去っていく。
今度は先生が
教室の入口から顔を覗かせ、
俺に手招きをする。
「光星、洞の件だが……」
茄子が先生に駆け寄り、
更には視界を遮る。
「先生、俺、悩んでるんです!」
「どうした?」
「今すぐ、職員室で話聞いてください。」
「あ、あぁ……わかった。」
一連の様を
鷹野が静かに眺めている。
ちょっと居心地悪い。
つい、
鷹野につっかかる。
「何か言いたげだな。」
「強いていえば、《《ある》》。
けどもさ。
まぁ、いいんじゃね?
聞く聞かないの選択権は
お前にあるんだから。」
「正直なところ、
名前聞くだけでも、まだキツい。」
「うん。俺らもわかってる。
だから、
あいつらもそうしてるんだろ。
無理に聞かせるのは
こっちのエゴになるからな。
俺らもそこは履き違えたくない。」
「鷹野……」
「あ、待て。
ありがとうとか言うなよ。
お礼言われる筋合いはないからな。」
「フハッ!めんどくせ!」
顔を見合わせ、クスッと笑う。
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川沿いの遊歩道を
ひとり、無心に歩く。
バリケードたちと別れた後の、
この道が
実は一番辛かったりする。
それこそ毎日、
煌人と肩を並べて歩いた道だ。
「ヒグラシすら居ねぇな。
当たり前だけど。」
ほんのり色付いた
葉っぱを拾いあげ、
茎を持ってクルクルと弄ぶ。
沈みゆく太陽の光を
透かしてみる。
葉っぱが
鮮やかな山吹色に変わる。
ヒュウッ……
川からの風が吹く。
「……さむっ!!」
ブレザー越しに
両腕をぎゅっと抱きしめる。
川沿いの柵にもたれかかり、
オレンジ色の雲を眺める。
空高く広がるこの雲は、
煌人にも続いているのだろうか。
――なぁ、煌人。
俺さ、
“嫌”って言えるようになったよ。
ちゃんとフォロー付きでさ。
すごくね?
「お前、
《《推しの進化》》見なくていいのか?
……未練タラタラだな。
俺、かっこわりぃな。」
空に向かって、大きくため息をつく。
トントン。
脚を叩かれる。
目線を落とすと、
もこもこの帽子を被った女の子が
俺を見あげている。
「お兄ちゃん、元気ないね。」
「あー、うん。まあまあ、ない。」
肩を竦め、微笑みかける。
「手、出して。」
「手?――はい。」
差し出した手を
握りしめるように、
女の子の丸い手が被さる。
「元気になるお守りあげるよ。」
「お守り?」
そっと手を開く。
ちょこんと
小さなヤドカリが乗っている。
「えっ!?
――こっ、これ……」
マジか。
俺があげたヤドカリツインズじゃん。
そうか。
あの時のあの子か。
「あれっ?知ってるの?
これ、オバケから貰ったんだよ。
元気分けたい人にあげてって。」
「――うん。知ってる。
超~っレアなやつだよな。」
「うん!
お兄ちゃんに
私の元気あげるよ。」
「それは心強いな。ありがとう。」
「ママが言ってたんだけど、
明日は雪が降るんだって。」
「あー……だろうな。
今日、急に冷え込んできたよね。」
「だから、
風邪引かないように
しっかり元気出してね。」
「ふふっ……
――はい!元気出しますっ!」
ピシッと頭を下げる。
「じゃぁ、またね。バイバイ。」
走っていく女の子の後ろ姿が、
夏にホラーハウス前で
見送った姿と重なる。
その時より、ずっと逞しいな。
また、手のひらを開く。
ヤドカリは変わらずそこに居る。
『風太さんっ……
“俺のヤドカリ”も掴んでます……』
ブハッ!!
俺のバカ。
敢えて、
なんでそのシーン思い出す?
「アイツっ……ほんっとバカ!!
ブハハハッ!!ヤバい、ツボった!
……苦しいっ……クククッ……」
腹を抱えて座り込む。
ヤドカリを握った拳を
額にギュッと当てる。
「もう少し、
もう少ししたら、
ちゃんとバリケードたちに
――話、聞くから。」
ふぅ……
吐く息が白い。
ゴソッ……。
ヤドカリごと
ブレザーのポケットに
手を突っ込む。
「ひぃ~……さみぃ……」
俺は身体を縮こめながら
家路を駆けていった。
こころなしか、足取りは軽い。
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「ぶぇっくしょい!」
豪快なクシャミで目が覚める。
「ぅわ……キンッキンじゃん。」
ぶるっと身震い。
のそのそ起き上がる。
――シャッ……!
カーテンを開け、
窓の外に目を凝らす。
「雪……は降ってないな。
ローファーが死ぬことは無い。
よっしゃ!」
――鏡の前。
さっとブレザーを羽織り、
ネクタイを整え、
ボタンを留めていく。
『ブレザーの風太!
エロ素敵!永久保存します!』
なーんて叫ぶんだろうな。
「煌人~、俺、ブレザーだぞー。
見なくていいのかー。」
一人で呟いてみる。
「ふふっ……
――アホか、俺は。
さて、行きますか。」
「いってきまーす。」
外に出た瞬間、
キンとした冷たさに
目が覚める。
「くあ~……効く~……」
俺も、すれ違う人たちも
みんなが
ふわっと白い息を吐いている。
ふと思う。
“煌人の白い息、
見てみたかったな”
「うわっ!きっしょ!
なに?なになに?
今、俺、煌人が憑依してた!?」
一人で叫んでるあたり、
俺はそろそろイカれてしまったのかも。
いつもの交差点に
バリケードたちが見える。
「おまたせ~……さみぃなぁ。」
「おー。」
「マジそれな。」
「急に冬だな。
――あれ?」
鷹野が空を見上げる。
俺も誘われるように
顔を上げる。
「あ。雪じゃん。」
「うぉぉ!雪っ!」
「なんかテンションあがる!」
「3人で初雪とはね~。」
ん?何か引っかかるぞ。
――“初雪”。
『初雪、一緒に見ような。』
『はい、約束します。』
「あーーーーーっ!!」
俺の突然の大声に
バリケードたちが飛び上がる。
「なんっ……だよ。」
「ビックリしたなぁ。」
「危うくぶっ倒れそうになったわ。」
「待て待て待て。――待て。」
ギュッと目を閉じる。
「光星くん?」
「なにやってんすか?」
「何の儀式だ?」
「うるさい。
お前ら今すぐどっか行け。
散れ。」
「朝から感じ悪いなー。」
「なんでかを言え。」
「儀式なら受け入れるよ。」
「約束、したんだよ!
煌人と初雪見るって!
お前らと見ちゃったら、
《《初雪》》じゃないじゃん!
ただの雪じゃん!」
「よし来た!
これにてバリケード解散!!」
その声と共に足音が遠ざかる。
パタパタパタ――……
そっと、目を開ける。
リュックの肩紐を握り、
遊園地の方向へ足を向ける。
「一か八かの賭けだ!」



