「さあさあ、
煮るなり焼くなり好きにしろ!」
やたら態度のデカイ富士川が
風太の隣りにドカッと座り込む。
ほんの数センチだけ、
風太が富士川から離れる。
「煌人、
富士川と一緒にしないでくれ。」
「もちろんです。
こんなクラゲみたいな奴と風太を
一緒にするもんですか。
富士川、風太から離れろ。
浮かれポンチが伝染る。」
「オイオイオイ。
揃いも揃ってなんなん?」
「うるせ。黙れ。」
「黙らっしゃい。」
確かに、
俺たちは揃いも揃ってる。
仕方ないだろう?
だって、
気持ちはひとつなんだから。
――お前が邪魔。
……ってことですよ。
「でも不思議ですね。
富士川が課題放置なんて。
彼女とウハウハでも
アナタなら出来たでしょうに。」
「分かんないとこ出てきちゃって
見ないふりしたら……
――あれよあれよ。」
「なるほど。堕落の極み。
どこですか?
さっさとやって、
さっさと出てってください。」
――トトンッ。
指先で
テキストを叩く。
「はいはい、分かったよ、もう。
……えっと、ここと、ここ。
つまずいたらその後が無理だったわ。」
「ふーん?
あー、これは、置き換えが。
どちらも引っ掛けですよ、ほら。」
「うっわ!本当だ!
なんだよ、もう。
こんなので俺、家追い出されたのか。」
そこからの富士川のスピードは
なかなかのものとなった。
その姿を見る風太の目が
焦り出す。
「やべぇ。俺、置いてかれるっ!
浮かれ野郎に負けたくない!」
――カリカリカリ……
シャーペンの走る音が
部屋に小さく響き合う。
おやおや。
風太のスピードもなかなか。
これはまさかの
富士川からのお土産だな。
思ったより
早く終わるかもしれない。
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「終わったぁーー!」
富士川が全身で伸びをする。
「ちぇっ、いいなぁ……」
うらめしそうな風太に
頬が緩む。
そのほっぺを
突っついてもいいですか?
なーんて♡ふふっ♡
じっ……
風太が俺を見てる。
あれ?ダダ漏れてた?
「お前……。」
「な、なんでしょう?」
「――別に。
とりあえず遠慮しとくわ。」
プイッ。
またテキストの上
シャーペンを走らせる。
ひーーー。
お見通し!?
富士川がニヤニヤしている。
「はーん。すっかり仲良しだなぁ。」
――ゴッ!!
風太の肘が
富士川の脇腹にヒット。
「うぐっ!!
俺、帰るわ。お邪魔しましたぁ……」
「はい。お疲れ様でした。
あ、富士川、
また分かんないとこあったら
連絡くださいね。」
「へへっ。サンキュ。
光星、ラストスパート頑張れよ。
じゃあな、おふたりさん。
また新学期よろしくな。」
富士川は手早く荷物をまとめ、
部屋から出ていった。
スッ……と静かさが訪れる。
人が一人居なくなっただけで
こんな風に
雰囲気は変わるものなんだな。
みんなで花火したり、
勉強会したり、
――賑やかな夏休みだ。
初めての感覚に
何故か
ほんの少し――くすぐったくなる。
「不思議な感覚です……。」
ふと口から溢れる。
風太が顔を上げる。
「あ、すみません。」
「ううん、いいよ。
話せよ――続き。」
風太の丸い目が俺を見ている。
――捕らわれる。
「友達って呼べるものは
初めてなんです。
賑やかさって、幸せなんですね。」
風太の目が更に丸く、
キラッと光る。
「そうか。それは良かったな。」
俺を見つめる目が
ゆっくりと細くなる。
「はい。最高に。」
風太のその顔を見ることも
全部、幸せです。
「明日は俺と2人だけど
線香花火、楽しみだな。」
「――あ。
明日なんですけど、
約束してた映画、観ませんか?」
「んー、線香花火にしようぜ。」
ニコッ。
あれ?
その笑顔、久しぶりのゆるふわ。
そこにあるのは、
――“我慢”
「……風太?」
「映画はいつでも観れんじゃん?
夏休み終わってから、
ゆっくりでいいんじゃね?」
テキストに目線を落とし、
またシャーペンを走らせ始める。
“夏休みが終わってから”
――ですか。
宙ぶらりんになったままの
俺の返事は、
風太に届かないまま
心の中にぽとりと落ちていった。
┈┈
┈┈┈┈
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「うーんっ!」
腕を伸ばし、時計を見る。
あ。
日付が変わってる。
山のようにあった課題が
あともう少しだ。
このままだと
煌人の明日に響くんじゃ……?
察したように煌人が
俺の手元のテキストを閉じた。
「明日にしましょう。
これだけなら間に合いますよ。」
「うん。そうだな。」
「風太、シャワー浴びてきては?
汗かいたでしょう?
その間に、寝る準備しておきますよ。」
「おー、サンキュー。」
――ハッ!!
――《《寝る準備》》?
そうだ、俺、お泊まりなんだ。
「はい。
これ、タオルと部屋着です。
どうぞ。」
「……ん?
部屋着は持ってきたぞ。」
「部屋着は出さなくていいです。
《《それ》》をどうぞ。」
ぴらっと部屋着を広げてみる。
「おい……なんだこれは。」
「ハムちゃん
おねんねウェアですけど。」
全身がハムスターの着ぐるみ。
頭の部分がハムスターのフードだ。
「これを……俺に、着ろと?」
「“着ろ”とは言ってません。
“どうぞ”と言っておりますよ。」
「ふーん。
……煌人、ほれ!」
ヒュッ。
何かを投げる。
ポコン!
煌人の頭にヒット。
ポトッ。
煌人の足元に転がる
その名は――ヤドカリ。
「ヒィ……ヤドカリ!!」
――バターン!
何をそんなに怯えてるのか知らんが
当分、ヤドカリは使えそうだ。
「バカめ。
しばらくぶっ倒れとけ。」
ハムちゃんおねんねウェアを抱え、
浴室へと向かう。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
さっと汗を流し、部屋に戻ると、
綺麗に敷かれたシーツの上で
煌人が伸びている。
「準備して
またぶっ倒れたのか?」
煌人の近くにしゃがみ
ツンツンと髪をつついてみる。
伸びたままだ。
そっと、前髪を避け
顔を覗き込む。
真っ黒なまつ毛が
目元に影を落としている。
「コイツ……、
綺麗な顔してんだよなぁ……」
ほんの数ヶ月前まで
俺の視界にすら入ってなかった煌人。
教室の隅から、
日々、俺を推してた変な奴。
隠すわけでもなく、
俺にまっすぐ、
“好き”をぶつけてくる。
「クスッ……
――変な奴。」
指先で
煌人の前髪を撫でる。
うっすらと煌人が目を開く。
――バチッ……
目が合う。
煌人の指が
ゆっくりと俺の指先を握る。
「……変な奴認定、
ありがとうございます。
ハムちゃん似合ってます。」
「なんだ、その認定は。」
ククッと笑う。
その口元を
煌人の指がツツッとなぞる。
「え。なに?」
「なにって。
――触れてるんですよ。」
俺と煌人の目線は
絡み合ったままだ。
「触れてる、って。
なんか言い方がやらしいぞ。」
「ダメですか?」
「……ダメ、ではないけど。」
「マシュマロ。」
「は?」
「うぁぁぁぁっ!!
無理だ!
シリアス、無理っ!!」
煌人がシーツを掴み
ゴロゴロと転がる。
「え?なに?バグった?」
「マシュマロの高速貨物列車!!
俺、どこまでも運びますっ!!」
「訳分からんわ!」
「うぉおおお!!
煩悩退散!!煩悩退散!!」
「悪霊みたいに言うな!」
「マシュマロ!!マシュマロ!!」
ゴロゴロゴロゴロッ!!
煌人の全身にシーツが絡みつく。
――キュッ。
動きが止まる。
というか、
シーツで拘束されてる。
コイツ、バカなのか?
「訳わかんねぇ……。
お前、こっからどうすんだ?
ピンチだぞ。」
立ち上がり、
蹴飛ばす真似をする。
「風太、俺はこのままここで寝ます。
そっちのベッド使ってください。」
「このまま……って。
お前、下手したら天に召されるぞ。」
「あぁ……それも致し方ない。」
遠い目。
「んなわけあるか。
ったく、バカだなお前。」
コロン。
コロコロ……。
ゆっくり煌人を転がし
巻きついたシーツを剥がしていく。
「あ、やめてください。
それ以上は、
やめてください。」
「なんで。」
「生まれたての姿になってしまう♡」
「黙れ。」
コロンッ!
シーツから煌人を無事解放。
「ふぅ……あちぃ。
また汗かいたじゃん。」
手の甲で汗を拭う風太。
イイ!!
めっちゃイイ!!
――グハッ♡
✦・┈┈┈┈┈
夏の夜
身ぐるみ剥がして
火照る俺
✦・┈┈┈┈┈
「おかしな句を詠むな!」
「さーせん!」
はぁ……なんなんだろ、コイツ。
近づいたと思えば、
こうしてかわしていく。
「煌人、お前、どこまでが本音?」
小さく息を吐く。
むくっと
煌人が起き上がる。
あぐらをかいて俺を見る。
「――全部ですよ。」
「それが分かんねえよ。
だから、聞いてんじゃん?」
「……聞いて、どうするのです?」
「……っ、それは――。」
今日、
この夜を過ごしたら
いよいよ
明日は夏休み最終日だ。
なにがどうなっても
夏が終わるんだ。
そう、俺たちは
どうすることもできない――。
「風太、
マシュマロ食っていいですか?」
――え?



