┈┈
┈┈┈┈
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
――ザーッ。
ガンガンに浴びてやるぜ。
全ての煩悩よ、
シャワーという聖水のもと、
散って流れるがよい!
「熱いのもいっとくか。」
ピピッ……温度を上げる。
ぶわっと湯気が上がる。
熱い蒸気を吸い込みながら、
お湯を浴びる。
「うん。イイ。これイイ。
ちょっと頭がボケてくる感じ。
イイ。素晴らしくイイ。」
キュッ……
ポタ。
ポタタッ。
髪から落ちる雫が
どうにも無情なり。
シャワー浴びてスッキリしたけど
俺自身は非常にモヤっている。
モヤモヤ、モヤモヤ。
鏡に映る自分の顔を見て
脱力する。
キリッとしてみても
頬がだらしなく赤く、
ちょっと口が緩んでいる様は、
とても、
いやはや、
言葉にできないほど
――エロティックである。
「アニメかよ!
なんっなんだ、この顔は~……」
パン!
パンパン!!
両頬を挟むように叩いてみる。
シュッ――
お。すげぇ。
一瞬で引き締まった。
よし!これなら……
――びよ~ん。
鼻の下、でろ~んっ。
一秒も持たぬとは……
ぐぬぬぬぬ。
「はぁ……
こんなんで頑張れるのか?
浮かれてる場合じゃねーんだよ。」
洗面台に手を付き
じっと考えを巡らせる。
――見てるだけで幸せだったのに。
だけど、俺は
随分と欲張りになってしまった。
外ヅラ風太も、腹ぐろ風太も、
ゆるふわ王子な風太も……
ニカッと笑う風太も……
それから、
それから、
――全部。
俺が知っていたい。
見たい。
焼き付けたい。
触れたい。
抱きしめたい。
「クソッ……
こんな騒がしい感情
どうしたらいいんだ、俺は。」
――カタッ……
「あの、煌人どの?」
――ん?
誰?
誰っ!?
キョロッ……
「こっちこっちぃ~」
バッ!!
足元を覗き込む。
なんか、
親指サイズのオッサンがいる……。
白いヒラヒラの帽子だけを身につけ、
あとは……フリーダムスタイル。
「――小さな変態?」
「いやだなぁ、天使ですぅ!」
両手を広げ、くるんっと回る。
お腹もぷるんっと揺れる。
ぴょんと飛ぶ。
お腹もぷるるんっと跳ねる。
「ぅ……わっ!気持ち悪っ!
アナタ、だだだ誰ですか!?」
「だから、天使だって。」
「天使ぃ~?
そんなもん居てたまるか!」
「まぁまぁ、
そんなことよりも――。
煌人さん、
アナタ悩んでますね。」
偉そうに腕を組んでいる
このオッサンを
俺はどう扱おうか。
本音としては、
今すぐ手のひらで
叩き潰してしまいたいが。
「アナタ、悩むってことは
もう《《正解》》が出てるんですよ。」
「――《《正解》》だと?」
「ええ。
このまま何も成さず、
静かに過ごすことが良いと。
葛藤なんて
格好いいもんじゃないですよ。」
「オッサン、勝手なこと言うな。
俺の何が分かるんだよ……」
「潔さこそが正解です。」
「いい加減、黙れ。」
スッ……と
手を挙げたその時、
バンッ!!
――シュンッ……
見慣れた手が
オッサンを叩き消した。
「――あれま。」
ゆっくり顔を上げると、
手のひらを
パンパンとはたく風太がいる。
「風太……?
手、大丈夫ですか?」
「あ?
お前こそ、《《頭大丈夫か》》?」
こちらを見るやいなや、
俺の肩をつかみ、
身体ごと洗面台に押し付ける。
「えっ、風太!?」
「風太風太うるせえなぁ……。
お前の目には
俺が風太に見えてんのか?」
え。なになになに?
ちょっとよく分かんない。
驚いて、
言葉が出てこない。
「フン……俺は悪魔だ。
さっきのクソ痒いジジイに
まんまと
丸め込まれてんじゃねーだろうな?」
なにぃー?
今度は悪魔だと?
昔の漫画でよくあった、
天使と悪魔が
主人公の頭の上で
ポカスカ喧嘩するみたいな……?
「いや、丸め込まれてはないです。
ないですけど、
ちょっと落ち着こうかなって
思ってはいました。」
風太にそっくりなソイツが
俺の耳元で囁く。
「バカだな……
――やっちまえよ。」
「はーーーー!?
ななな、何を?何をですかっ!?」
「分かってるくせに。
やってしまえ。何とかなるさ。」
「そんなこと……っ」
「――やれ。
やれ。やれ。やれ。やれ。」
「風太の顔で
下品な言い方するな!」
奴を押しのける。
俺のその手を掴み、
また俺に絡みついてくる。
「やれ。やれ。やれ。やれ。」
すごい力だ。
このままじゃ、
押し負けてしまう……。
俺の頭の中に
風太のニカッとした顔が浮かぶ。
嫌だ。
これには絶対、負けたくない。
「……っ!……風太っ!
風太。風太。風太。
助けて……っ」
「……――おい!煌人っ?」
風太の声が
耳に飛び込んでくる。
パチッ!目を開く。
すぐそこに、
俺を覗き込む風太の目がある。
「――風太?」
「……ん。大丈夫か?」
「風太っ!」
――ガバッ!!
風太にしがみつく。
「ええ!?なになに!?
暑すぎて頭やられたのか?」
驚きながらも、
風太の腕は優しく
俺の背中をさすっている。
「何が何やらっ……
とにかく怖かった……ですっ!!」
「はあ?
……え、お前泣いてる?」
「泣いてませんっ!」
「嘘つけ!顔、見せろ!」
俺をぐいっと引き離す。
そのまま、
俺の頬を手のひらで掴む。
「むぐぐぐ……
泣いてましぇん……」
引っ張られる顔を背け、
必死の抵抗を見せる俺。
風太が小さく息を吐く。
「――おい。
見せなきゃキスすんぞ。」
「へ?
き……す……?」
それはダメーッ!!
――クルッ!
目をガン開き、
高速で風太に顔を向ける。
「プッ……すげぇ顔っ!
ほーら、泣いてんじゃん。」
おぅ……
俺の目に水滴溜まってるの
確認されてしまった。
「恥ずかしすぎます……
もうお婿に行けません。
よよよ……」
顔を覆い、肩を落とす。
「ブハッ!何言ってんだよ。」
カラカラと笑う風太に
ホッとする。
――そうだ。
なんなんだ、さっきのは。
怪奇現象だ。ヤバい。
風太だけは
巻き込まれてはいけない。
「風太、よく聞いて。
ここから逃げた方がいいです。」
「え。なぜに。」
「なぜにでも。
変なやつがいます。
ほぼ裸のぷるんぷるんオッサンと
悪い顔したエロガキ風太が、
――います。」
風太の両肩に手を置き、
目を見て、真剣に伝える。
目をまん丸にしている風太の顔が
みるみるうちに
クシャツと和らぎ、大声で笑う。
「何言ってんだよ!
お前っ……お前さ……
ククククッ!
のぼせて倒れてたんだよ。」
「えっ!」
「発見したスタッフさんが
部屋まで運んでくれたんだ。
ひたすらうなされてるわ、
俺の名前呼ぶわ、
助けてって言うわ、
……で、起こしたらコレかよ!
ぷるんぷるんオッサンて!
アハハハ!!腹痛てぇ!!」
「な……んだ……。
俺、倒れて……。
そう……ですか。
うう……良かったですーっ……」
涙、ダバーーー。
その俺を見て、
また笑い転げる風太。
なんかすごく怖かったけど、
今、俺、
この時間が、
――めちゃくちゃ幸せだ。
「ほら、煌人。コレ見て!」
風太がドヤ顔で
テーブルの上を指差す。
真っ白だったはずの課題が、
ちゃんと解かれている。
「おお、これ、この短時間で?
見せてください。
……すごい。
ちゃんと合ってます。」
風太が、
誇らしげに笑った。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
煌人が嬉しそうだ。
さっき、俺、頑張ったもんね。
どうせ分かんないって
放置してたけど、
開いてみたら解けたんだよ。
追試の時に
煌人に教えてもらったこと、
ちゃんと俺の中に残ってた。
「ごめんな、煌人。」
「え?何がですか?」
「うまく言えないけど、
信じられなくてごめん。
……んー、いや違うな。えっと……」
チラッと
目だけで煌人を見る。
「信じ……られ……なくて……?
分かりました。
主の信頼を得られないとあらば、
これはもう、腹を斬るしか……」
「待て!早まるな!
俺が言葉足らずだった!
あのな、俺、
どうせできないって決めつけてた。
でも、スラスラ解けたんだ。
煌人が教えてくれたこと、
ちゃーんと俺に残ってるんだよ。
なのに、その……
信じずにごめん、というか、
……その……もう!日本語ムズいっ!」
煌人がクスッと笑う。
「なるほど。
風太は、優しいですね。
教えた俺のことを、
思ってくれたということですね。」
「うーん?
そういうことになる、のか?」
「ええ。多分。
日本語って難しいけど、
表現できないのもまた、
趣きあっていいですね。
風太は大丈夫です。
これからは信じていきましょう。」
煌人はいつも、
俺を受け止めてくれる。
悪態ついても、良い子でいても、
日本語使いこなせなくても、
いつもいつも――。
“いいですね”って。
俺の心がふわふわするんだ。
なんっか、
くすぐったいな。
「風太、外行きましょうか。」
「今から?」
「ええ。
ちょっと待っててくださいね。」
煌人が部屋の奥へと姿を消す。
なんだろ?
近くにあったヤドカリを
指先でツンツンとしながら
煌人を待つ。
「――じゃーん!」
戻ってきた煌人の両腕が、
たくさんの花火を抱えている。
「花火じゃん!!」
「風太とやろうと思って
用意してたんですよ。」
「マジ!?
テンション上がる!」
ヤバい。
どうしよう。
――すげぇ嬉しい。
「煌人、さんきゅ!」
ヤドカリで
煌人の鼻先をツンッとやる。
「ヒィ……!ヤドカリッ!!
悪霊退散っ!!」
煌人がなぜか
ヤドカリを嫌がっている。
「なんだよ。変な奴だなぁ。
これ、お前が作ったんだろ?」
「作りましたけど、
ある種の裏切りを受けたので。」
「はあ?
また訳の分からんことを。」
俺はずーっと、宝物にするよ。



