ある日、ゾンビを助けたら。



「俺のこと、
 嫌がらせが上手(うま)そう、
 
 ――って言った?」


手にある園内マップを
くるくると丸める。


ゆらり、ゆらり、
座ったままうごめくゾンビ。

「言っだぁぁぁあああ……」


パコンッ!


即席・園内マップメガホンで
ゾンビのおでこをはたく。


ゾンビ――キュッと停止。



「ゾンビはもういいから。
 いい加減、普通に話せよ。」




「あ。――はい、さーせん。」


うっ……。
意外と声が若い。

若いっていうか、
んん~?

首を傾げる。

「もしかしてお前、俺と同じくらい?」

右に左に
首を傾げながら
奴の顔を覗き込む。


相変わらず、
瞳が綺麗で、じわる。


ほんの数センチだけ、
顔を背けたり
身体を避けたり、

器用に俺をかわす。



なのに、

目だけは俺をガン見。



コイツ……何かと人間くさいな。

あ。そうだ、人間か。




軽く頬をかくゾンビ。


遠慮がちに、

そろっと指を出すと、

鍵のかかったドアを指した。


「あの……あっちで話しませんか?」


チラッと
ドアに目線をやる。


「――鍵かかってんじゃん。

 はーい、って行くと思う?
 俺、監禁されちゃうじゃん。」


ゾンビが慌てたように
手をパタパタと振る。

急に、流暢に話し出す。

「スタッフ通路の入口だから、
 鍵をかけてあるのです。

 あちらは、
 なんと言いますか……
 私有地にあたると言いますか……

 かくかくしかじか――なのです。」


パコンッ。

ゾンビのおでこを軽くはたく。

ゾンビ――キュッと停止。


「かくかくしかじかでまとめんな。
 そこ一番大事なとこだろ。」


「あ。――はい、さーせん。」



その時、
微かに人の声が聞こえた。

何人かの足音が
少しずつ近づいてくる。


「――あ。ちょっと失礼。」

ガシッ。

「え?」

ふわっ……

「え??」


ゾンビが立ち上がると共に
俺を肩に担ぎあげた。


――地面が遠い!!


「ぅわ!わ!ちょっ……下ろせ!」

じたばたと手足を動かす。


「じっとして!」

ゾンビの腕で、
俺の腰が
奴の肩に固定される。


まんまと捕獲された。


――万事休す。



┈┈
┈┈┈┈
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



ガチャッ!

パタン。

……カチャッ。


このドアの扱い、

やけに手馴れてる。


ふわっ……

すとん。


フカフカとした場所に
それはそれは
優しく着地させてくれた。


キョトン。


俺を見下ろすゾンビが
自分の目を覆う。

「眩しい……薔薇が見える……。」


薔薇?――どこに。

どこに薔薇があるって言うんだ?


「よく分からんけど、
 お前、誘拐と監禁で逮捕だな。」

スマホを出す。


「待って、待って。」

「なに。」

「うーん……。」

「はい。
 やっぱ、待たない。」

スっとスマホに指を当てる。


ギュッ。

その手を握られる。

「――ダメ。」

ゾンビが俺の耳元に
静かに声を落とす。



ゾクンッ……



なんだ、ゾクンッって。



大きなまばたきを
2度、3度、繰り返す。

気を取り直し、
横目でゾンビを一瞥。

「手、離せよ。」

声で突き放す。


「あ。ごめん!」

ゾンビ、慌てて手を離す。



「――で?
 なんで俺、誘拐されたの?」

我ながら
苦しい唐突さ。


握られた手が
どうにも熱くて。


気になる。


それを、
ゾンビには
知られちゃいけないような。


そんな気がするんだ。

変なの。




「次のゲストが来たから。
 場所移動を……。

 怖がらせていたら
 さーせん。」


「別に、怖くねーし。」

実際、怖くはない。

ただ、
俺の様子がおかしいんだ。


急に自分から話しかけたり

毒づいたり……。

さっきみたいな
変な熱さを感じたり……。



そもそも

ゾンビ担いで走るとか
有り得ない。

いつもの俺じゃない。



クラスメイトに
こんな俺見られたら

ヤバいな。




「先程は、
 助けてくれてありがとう。」


「は?あれは――

 俺が……ゾンビ倒したから。」


「うん、うんうん。
 見事に射抜かれてしまって。
 お恥ずかしいやら。」


「射抜いてはいない。」


「いや、ハートを。」


――ハート?

なんだ、コイツ。


「……さっきからなに。
 薔薇がどうとかハートとか。」


「あ。薔薇……。
 ふふっ、
 それはいつも見えてます。
 美しくて棘があるっ……ふふっ」


口元を手のひらで抑え
小さく微笑むゾンビ。


「その顔でやめてくれる?
 今日一番の怖さなんだけど。」



「――あ。
 それで話というのはですね。

 本題入ります。」


こいつ……
無様な程の華麗なスルー。

平然と決める奴、
初めて見たわ。


俺のドン引きを
知ってか知らずか、
ゾンビが話を続ける。

「ここ、俺の部屋なんです。
 ホラーハウスは、
 うちの親がやってるので。

 さっきのドアは
 うちの勝手口みたいなものでして。」


「え。ここお前ん家なの!?

 そんな冗談みたいなこと
 信じると思う?」


「あ、そう言うと思いまして、
 はい、これ……」


学生証を手渡される。

住所が……
ホラーハウス内って書いてる。


「住所……
 ホラーハウス内って……。

 なんだよ、これ。
 おかしくね?」


「おかしくないですよ?
 
 あの、念の為聞きますね。
 この学生証はどこのでしょう?」


「簡単だよ、俺も持ってるやつだし。
 乙叶内(おっかない)高校だよな――……」


んん??
乙叶井(おっかない)高校??


あ。


――ヤバ。

「お前っ、同じ高校!?」


――こくり。

ゾンビ、深く頷く。


足を放り出して、
でかい態度で座っていたが、
それどころじゃねぇな。

ささっと体育座りをする。

「――そっかぁ。
 同じ高校だったんだね。
 俺、ちょっと驚いちゃったよ。」

そして、ニコッ。

いつものキャラに戻さなくちゃ。

この“ニコッ”で
大体は何とかなるんだ。



「俺も驚きましたとも。」

何とかならなかったな。
そりゃそうだ。

念の為聞いてやる。

「……何に驚いたのかな?」

――俺だよな?

文句タレで、
行儀悪くて、
口も悪くて、
若干、手が出るところか?

実は、
結構しょーもない奴

ってとこだよな?


ほら、はやく言えよ。





「まさか、推しが来るなんて!」




「――は?」




「キミは、俺の推しなんです。
 いつもいつも
 見てて、たまらない!」


「――は?――は?」


「……信じられない。
 俺の半径1m内に、
 ――キミがいるなんて。

 あぁ……キラメキ君っ!」


「は?なんつった?今。」

「え?半径1m……」

「いや、最後。」

「あぁ、キラメキ君。
 ――です。はい。」


あ。
ぶっ倒れる時に言ってた
意味不明の呪文!!





“キッ……キキ……キラッ……メキッ”




あれだ!


「キラメキ、くん?」


「俺の中だけで、そう呼んでます。

 光星くん……光る星くん……
 で、キラメキ君。

 ぅわ、恥ずかし!」



バコッ!

「俺が恥ずかしいわ!」

例の即席メガホンで、
思い切り額をはたく。


ゾンビ――キュッと停止。


俺のキャラなんて、
もういい。

「お前、そこ座れ。」

顎で俺の前を指す。

「はいっ!」

ちょこん。

なんでそんな、
キラキラした目で座る……。


「見ててたまんない、
 ……っていうのは何だ?」

コイツ……俺を見て、
いかがわしい妄想でも
してるんだろうか。

怯んだらビンゴ。


「うわ!
 語らせてもらえるんですか!?」


マジか。目が輝いてる。
俺、そんなに良いもんじゃねぇよ?


「うっ……。
 まぁ、参考に、ね。」

ゾンビが活き活きと語る。

「推しに推せ推せを語れるとは!

 キラメキ君って
 腹黒いですよね?
 それが、笑顔の隙間から
 チラッチラッと見えるんです。

 それが、もう好きで好きで……」


え?
腹黒い……?


「ちょっと。ストーップ!

 なんかお前、
 俺のことディスってない?」


激しく首を振るゾンビ。

「ディスる!?とんでもない!
 ふわっとした甘さの中に
 パンチの効いたスパイス……
 それが絶妙なんですよ!

 ディスってるとか
 簡単に言わないでください。

 あと、語ってる最中に
 止めないでもらえます?」


なんか怒られてるし。


「あの……お前、俺の事……」


「だいっすきです!」


「そんな――ハッキリと……」


「大好きです!
 キラメキ君っ!」


あーもう、
なんだろうか、これは。

俺の今置かれてる状況。

こいつの住所諸共、

全てがおかしい。


おかしいけど、

俺、別に嫌じゃない。


それが一番、おかしいんだ。



つつっ……ポタ。

えっ!コイツ泣いてやがる!



うそぉ……