メイクが終わり、
煌人が小さく息を吐く。
「……よし、出来た。」
うっすらと目を開ける。
鏡の前の俺が、
ゾンビじゃない。
「――俺、コレなの?」
手を拭きながら
鏡越しに煌人が微笑む。
「よく、似合ってますよ。」
鏡の自分を指差す。
「ピエロじゃんか。
――てか、
なんで俺、首から出血?」
煌人が、
俺の肩に手を置く。
すいっと顔を寄せ、
鏡の俺と目を合わす。
「危なくないように
ピエロにしました。
俺とセットで
動くことになってます。」
――あ、そうか。
中には《《ゾンビ狩り》》やる輩が
いるんだった。
「ほら、着替えてください。
その後に、
動きながらの
打ち合わせしましょう。」
俺の肩をポンと叩くと、
煌人は、俺の膝に衣装を置いた。
それにしても、だ。
「この衣装は誰の見立て?
――アイドル並みにド派手。」
ピラッと広げてみせる。
「もちろん、俺ですよ。
他に誰がいるのです?」
「うわぁ……
お前、いい趣味してんな……」
「そんなに褒めないでください。
照れるじゃないですか。」
「褒めてねぇよ。」
「わかってますよ!
とっとと着替えなさいな!」
煌人が、
くわっと牙を見せる。
「へーへー、
分かりましたよ。」
袖を通し、鏡を見る。
おや、
意外とイけるもんだな。
くるっと回ってみる。
「ふむ。有りかも。
なぁ、煌人ぉ、これ結構イケ……」
煌人を振り返る。
そこには、
長身のヴァンパイアが
立っている。
黒いマントをひらっと羽織り、
伏せられた睫毛の間から
真っ赤な目が見える。
思わず声が漏れる。
「……すっ。」
赤い瞳が
チラッと俺を見る。
「――す?
……て何ですか?」
ダッ!と近づき、
煌人のマントに飛びつく。
「すっげぇ!すっげぇ!
超カッコイイじゃん!」
バサッ!バサッ!
マントを開き、また閉じる。
「キャァ。
風太さんのエッチ!!」
煌人が腕を広げ、
そのままマントの端を掴む。
バサッ……
マントごと俺を引き寄せる。
くるんっ。
俺を中に閉じ込める。
「獲物を捕まえました。」
「――!!」
真っ暗なマントの中。
すぐそこに
煌人の心臓がある。
ふわっと
温度が上昇する。
ダメだ。
これ、おかしくなるやつ!
俺の直感が、そう言ってる。
「おいコラ、出せよ!
暑いからっ!のぼせる!」
マントの中でもがく。
ぎゅう……
煌人の腕が
俺の動きを閉じ込める。
これ。
《《捕まえて》》ないじゃん。
明らかに、
抱きしめてるじゃん……。
ふっ、と煌人の腕が緩む。
同時に
明るくなる。
「ぷはっ……あちぃ……」
顔を上げると
煌人が
イタズラな笑みを浮かべている。
「なーんてね。」
パッ!
顔を背ける。
――あ、やべ。
つい目を逸らしてしまった。
自分でも分かるんだ。
俺、
今、
すんげえヤバい顔してる……。
あ、でも待てよ。
俺、白塗りじゃん。
グッジョブ、ピエロ!
煌人を振り返り、
その脚に向かってローキック。
「――痛ぇーっ!!」
「ふん、油断するな。
“お色気ヴァンパイア”
このピエロが討ち取ったり!」
足を押えながら
煌人が首を傾げている。
「はい~?……お色気?」
間抜けな顔のヴァンパイア。
座り込んで笑う俺。
「はー、笑った。
――さてと。」
「はいっ。やりますか。」
ふたり、肩を組み
腕を振り上げる。
「思いっきり
ぶちかまそうぜ!!」
┈┈
┈┈┈┈
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仄暗い通路にあるベンチの上で
ヴァンパイアが息を潜めている。
その腕に抱えられた
一体のピエロ。
うなだれ、
ぐったりと脱力している。
ペタペタペタ……
足音が近づいてくる。
――来た!ゲストだ。
ペタペタ……
ピタリ。
「ぅわ……血吸われてる。」
「えぐっ……これ、本物?作り物?」
「もしかして映えポイント?」
わっと寄ってくる。
俺たちの近くに座り、
カシャカシャと大はしゃぎだ。
この、カモネギめ。
今からお前らを
恐怖のどん底に落としてやんよ。
すうっ……
閉じてた目を開き、
ゲストの1人をじっと見つめる。
同時に煌人の口元が
ニヤリと牙を見せる。
ゲストは気づいていない。
――そろそろだ。
「あれ?なんかこっち見てない?」
「うそだぁー。やめてよー。」
「いや……目が合ってる……よ。」
ゲストの目を見つめたまま
小さな声をこぼす。
「た……す……け……て……」
「ヒッ……喋った!!」
僅かに、後ずさる。
煌人が
左腕に俺を抱え立ち上がる。
ゲストを捕まえる勢いで
もう片方の腕を伸ばす。
「血をよこせぇぇぇえ!!」
叫んだ口元に鋭い牙が光る。
「ギヤァァァァァァーーー!!」
目を白黒させながら
飛び上がるゲストたち。
「俺の身代わりになれぇぇ!!」
ぐわっと手を出し
畳み掛ける俺。
「キャーッ!来ないでーーっ!」
カモネギたちが
猛スピードで逃げていく。
その後ろ姿を見送り、
俺と煌人、目を合わせる。
「プッ……」
笑い合う。
小さく息を吐き、
薄暗い通路を見つめる。
「初めて会った時、
煌人もこうして笑ってたな。」
「クスッ。
あれは正直、焦りました。」
眉を下げて煌人が笑う。
その笑顔、
少しハスキーな声、
欲しいって言ったら
煌人はどうするんだろう。
あの時の俺たち――
こんな未来は
予想してなかったよな。
「――なんか懐かしいな。」
「はい。すごく懐かしいです。」
――静かで温かい。
ずっと、このまま、
一緒に居たいな。
あーあ。
煌人ん家、
ホラーハウス辞めねえかな……
――ズサッ。
煌人が
俺を見ながら少し後ずさる。
「ん?どうした?」
「今、風太から
大きな邪気を感じました。」
「ハハッ!邪気って。
出してねぇよ、そんなもん。」
「アハハ!ですよね。
おかしいな、なんだろう。」
「この格好のせいじゃね?
――身代わりになれぇ……」
目を見開き、両手を広げる。
「あー、なるほどです。」
あっぶねぇ……
コイツ、霊感でもあんのかよ。
気をつけなきゃ。
俺まで
心の声ダダ漏れしたら
シャレにならんわ。
ふぅ……っ。
大きく深呼吸。
「煌人、
スタンバイしようぜ。」
「ですね。
そろそろ次が来ますね。」
長い長い、夏休み。
俺たちは――、
数え切れないほどのゲストを
恐怖に突き落とし、
その背中を見て
クスクスと笑い合った。
短い短い、残された時間。
時を刻む音が――聴こえてくる。
┈┈┈
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夏休みも終盤を迎えた頃。
ふたりベンチに並んで座り、
ゲスト待ち。
「どんどん忙しくなるな。」
「そうですねぇ。」
「俺、帰宅後バタンキュー。
来る直前まで爆睡だぜ。」
「――課題、やってますか?」
しーん……。
「課題、やってますか?」
「今日どれくらい来るかなぁ。」
「課題、やってますか?」
しーん……。
「風太さん、課題は――」
「やってない!」
フン、と腕を組む。
煌人が
大きなため息をつく。
「威張らないでください。
始業式、明後日ですよ?」
「しゃーねぇじゃん。
忙しいんだもんよ。」
「言い訳になりませんね。
それならバイトは
やるべきではないです。」
ぐうの音も出ない。
課題、課題、
うるさいなぁ、もう。
バタンキューなんて嘘だ。
――寝れねぇんだよ。
日が過ぎるごとに
考えちゃうんだよ。
お前のことを、さ。
とはいえ、
現実、まっさらな課題の山だ。
――やべぇ。
「今日帰ったら、
荷物持ってまた来てください。」
「え?」
「課題、一緒にやりましょう。」
そのまま煌人が続ける。
「バイト、
俺も一緒にやりたかったので、
同罪です。
とことん付き合いますよ。」
「それって――」
「合宿です。
覚悟してくださいね。
手加減はしません。」
「はいっ!
洞先生!よろしくです!」
スチャッ。
――敬礼。
「お任せあれ。」
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バカな子だ
ラッキースケベの
リベンジだ
✦・┈┈┈┈┈
「ヒッヒッヒ……」
「おい、全部聞こえてんぞ。」
「はぅっ!」
――てなわけで、
俺は今日から
泊まり込みの課題地獄。
あの課題の山を
どう片付けていくんだろうか。
おお……頭が痛い。



