ある日、ゾンビを助けたら。


――煌人の部屋。


「うへ~……終わったぁ……」

課題の山を押し分け、
風太がテーブルに突っ伏す。


疲れた後頭部。

つむじがふわりんこ♡

――って、

クッソ可愛い!!

可愛いが過ぎる!!


✦・┈┈┈┈┈

教え子の

頭がわたがし

最高かよ

✦・┈┈┈┈┈


洞煌人、
今日も元気に
萌え散らかしております。


「明日の追試、
 頑張ってくださいね。」


「……ん。」


突っ伏したままの風太が
指先だけで返事をする。


「風太は絶対大丈夫!!

 洞先生が
 太鼓判押します。」

どさくさに紛れて
自分で“洞先生”って
言っちゃった♡




「そんなの……
 やってみないと
 分かんないじゃん。

 失敗したら
 夏休み、無くなるんだぜ。」


弱気なくせに
頑固な後頭部だ。

ふむ……
今まで何度
失敗をしてきたのやら。


「俺には分かりますよ。
 学校ごっこに付き物の
 ラッキースケベが
 全くありませんでしたから。

 あわよくばと思ってたのに。」


「きっしょ。」


「ヒィ……
 生々しい返事やめてっ。
 愛のあるやつにしてっ。」


「プッ……
 洞先生、サイテー。」

クスクスと
風太の肩が揺れる。




「《《やってみないと分からない。》》
 ほんと、その通りなんです。

 今回、風太は
 真剣に《《やってみた》》から

 訪れる変化は
 どんな形であれ
 風太のご褒美になるのですよ。」


チロッ。

風太が目だけで俺を見る。

……ふいっ

またそっぽを向く。

小さな籠った声が聞こえる。

「そう。
 頑張ったんだ、俺。

 疲れたなー。」


風太の髪の隙間から見える
耳の端が、
少しずつ色付いていく。


――あ。

もしかして。


自分の手のひらを見る。

すいっと風太に伸ばす。



――ワシャッ。



ふんわりといじけている
後頭部の髪を軽く掴む。



ワシャ……

ワシャ……

大きく撫でる。



ピクッと
風太の頭に力が入る。


顔を近づけ、
色付いた耳に言葉を落とす。

「よく頑張りましたね。

 お顔を上げてください。」



「やだ、無理。」


ワシャワシャワシャ。

ぎゅうっ……。

風太の頭ごと
腕に抱き込む。

そのまま

また、撫でる。


「風太。お疲れ様。」


「まだ――無理。」


「随分と頑固ですね。」

さらっ……

風太の前髪に指を通す。

スルッ……

その髪を
手ぐしでかきあげる。



「――!」

そこには、
真っ赤になった風太がいた。

「――茹でたこさんに、
 ……なってますよ。」




「見んなよ!」

ガタッ!!

風太が勢いよく立ち上がる。


リュックを掴み、
俺を見下ろす。


「見なかったことにしろ!

 《《推し》》からの命令だ!」



「あ、無理です。
 もう、脳に焼き付けました。」


「は?じゃぁ、消せ。」


「いーえ、消しません。」


「推しからの命令だぞ。」


「推しではないので、
 命令は無効です。」


「――え?

 ……推し、じゃなくなったのか?

 なんだ……

 俺、バカみてえだな。」


「バカじゃないです。」


「永遠なんてもんは、

 やっぱ……ないんだよ。

 人間なんて……

 飽きっぽい生き物ってこと
 すっかり忘れてたよ!」



「推しは永遠ではなかったですが、

 風太は、俺の《《想い人》》なので。

 ――そう、気づいてしまったので。」




「……え?」




ガバッ!!

土下座する。

「永遠に推せなくてすみません!

 想い人に
 グレードアップしてすみません!」


あぁ、
俺はなんということを……。

推しを裏切り、
勝手に恋焦がれるなど

言語道断――。


大切な追試前に
風太を悲しませてしまうなんて。


「俺は、最低です……。

 存分に
 怒ってください。」


目の前の風太の脚が
立ち尽くしている。

顔を見られない。


怖くて、見られないんだ。


それでも俺は
見なくちゃいけない。

風太の目を見て、
誠心誠意の謝罪をせねば。


そっと顔を上げる。


バッ!

同時に風太が、
リュックで顔を隠す。


「おっ……おま、おま、お前っ、
 ななな、何、言ってんだよ!」



「あぁ……
 風太、ごめんなさい。」


ショックのあまり
話すこともままならないとは。

――重症です。

明日、大丈夫でしょうか。


「あの、風……」

バッコーーンッ!!

「ひでぶ!!」

風太のリュックが
俺をぶっ叩く。

目の前が満点の星空。

「――あ。綺麗な星だぁ……」

――パタッ。



カタッ……

パタン――。

ノックアウトされた俺の耳に
部屋を出る音が聞こえた。




――ガチャッ……

ドアが開く音がする。


「煌人!

 ――俺!
 全力で頑張るから!」


――バタンッ!!


バタバタバタ……



┈┈
┈┈┈┈
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



――数日後。

朝の教室。



「いやー、
 お前はやる男だと思ってたよ。」

「うん、さすが光星だ。」

「まさかの快進撃じゃん。」


バリケード3人が
風太を囲んで賑わっている。


「俺じゃなくて、
 煌人が秀逸なんだよ。」

肩をすくめる風太。


なんて……
なんって……謙虚な。

俺の教え子ハムちゃんは
お人柄も素敵すぎる。

そう、
驕りこそが本当の敵っ!

風太、貴方は武士の鏡です。


ペシッ!

鷹野からの軽い一撃。

「ハムちゃんだの、
 武士だの、
 情報多すぎるわ。絞れ!」


「――じゃぁ、ハムちゃんで。」


もはや誰も、
このダダ漏れに反応しないのだな。

俺だけが心の中で呟く。



“照れますね”



カァッ……♡

――頬が熱いっす!



リュックで
撲殺されそうになった
あの日を経て、

追試を経て、

風太がまさかの
オール満点を取る快挙。


俺たちは
心からはしゃいでいた。



――ガラッ。

教室のドアを開ける
生徒指導部の教師。

キョロキョロと教室を見渡す。

クラスメイトたちが
目を逸らしながらも
小さくざわめいている。

「うわ、土成(どなり)先生じゃん。」

「アイツが来たってことは
 ヤバい案件か……」



「なんだろうね。」

「うん――。」

俺たちも
土成先生の様子を見守る。


――バチッ。

ん?俺?

土成がこっちを見てる。


いや、見てるのは俺じゃない――



土成が叫ぶ。

「おい、光星風太っ!!」



「えっ、光星!?」

クラス中が風太に注目する。



「――俺……ですか?」

風太自身も驚いている。



「そう、お前だ。
 ……ちょっと。」

土成にクイクイと手招きされ、
風太が教室を出ていく。



ザワッ――!!




――なんなんだ?

風太の背中をじっと見つめる。



「オイオイオイ~……
 このタイミングってさ~……」

「おい、
 滅多なこと言うなよ、富士川。」

「うん。もしそうだとしても、だ。
 ――俺ら証人じゃん。」



「タイミング?証人?
 何を言ってるのですか?」


バリケード3人が
顔を見合わせ、
鷹野が俺に耳打ちをする。

『カンニング容疑……じゃね?』




――――!!


ガタッ!!

バタバタバタバタッ!!



「あ、おい!洞、待て……

 てか、速っ!!」


鷹野たちの声を背中に
風太を追って走る。



風太。

風太、風太。

風太、風太、風太……っ



「――風太!」

バーン!!

生徒指導室のドアを
力任せに開ける。


「うわっ!

 ……っだよ、煌人かよ。」


「洞、どうした!?
 入口で躓きでもしたのか?」


お茶とお菓子を挟んで
風太と土成が座っている。


「なに、この和やかムード。

 さては、
 食べ物で吊るやり方か!

 こんの、卑怯者め……!

 表出ろや!くっそジジイ!」


ガシッ!!

「わーーっ!
 またお前、なんかおかしい!
 やめろ!やめろって!」


「風太!離せ!
 このクソジジイを……っ」

ギューーッ。
俺を強く掴む風太の手が
視界に入る。

そのままスルッと、
手から上に目線を滑らせる。


風太が


俺の脇腹に……


脇腹にぃ!?

抱きついているーーっ!?


グハーーーーッ!!



「あっ、脇腹っ……♡

 風太を……守らねば……。」


へにゃ……。

力無く、床にへたり込む。


「えっと……
 これ、本当に洞……なのか?」

土成が引いている。


黙れオッサン。
俺だよ、洞だよ。

目だけで威嚇する。


その目線を
風太が身体で遮る。

「あー、彼、
 時々寝ぼけるみたいで。
 先生、俺に免じて……えっと。」


チラッと風太が振り返る。


「いつでも亡き者に。
 ガルルルルルルッ!!」


ゲシッ!!

「はうっ!」

風太の後ろ蹴りにより、
俺――制圧。



「あー、構わん構わん。

 それより、――光星。

 すまんが、
 一週間あればできるか?」


「充分です。
 少しでもお役に立てれば
 俺も嬉しいです。」


「ありがとうな。
 楽しみにしてるぞ。」


「じゃぁ、失礼します。

 煌人、立て!
 行くぞ!」


「ガルルルルルルッ!」


「あ、光星、
 学校に犬は禁止だ。」


「誰が犬だ!!

 風太っ、やっぱりアイツ、
 一回やっちまいましょうぜ!」


風太にパクッと口をつままれ、
引きずられるように
生徒指導室を出る。

廊下には、
心配そうに並んで立つ
バリケード3人がいる。

「光星、大丈夫か?」
「泣くな、
 誤解だって言ってやるよ。」
「俺たちは証人だからな。」


風太が、
大きなため息をついて、
俺を離す。

「あー、もう、暑苦しい!
 なんなんだよ、お前たちは。

 土成に相談されたんだよ。」


「は?アイツに?」
「……鬼の土成が相談?」
「光星、何を相談された?」

「ガルルルルルルッ」

ゴソッ。
風太がポケットから
キャンディーを出す。

「お手。」

パシ。

キリッ!

「これやるから、
 犬、やめろ?」

ニコッ……


こっわ!
こんな怖い笑顔、初めて!

「はい、さーせん。」


鷹野のメガネが冷たく光る。

「洞の相手はいいから、
 本題行こうぜ。」


「うん。
 あのな――……」






ほぇー。

すげえっす、風太。




『追試についてのレポートを
 書いてくれないか。
 夏休みの補講生に配布したい。』



こんなこと、
頼まれちゃったんですって。


俺の“想い人”は

やっぱりすごく素敵なんですよ。


照れますね。