“落とし物を
拾いに来ました”――
俺、お前に拾われたい。
今なら誰も見てないよ。
その、胸のポケットに
俺をしまい込んで欲しい。
お前を独り占――……
ペシッ!
風太の平手打ちが
俺のおでこにヒット。
「あぅっ……」
「おいコラ。
誰がアテレコしろって言った?
あぁ?」
愛しの教え子に
こめかみを
グリグリされてますっ。
「うぎぎぎ……
しゅみましぇ~ん……」
ト……ッ。
風太の手が、俺の胸を押す。
目線で
近くの丸椅子を指す。
「ほら、もう下りろ。
そこ座れ。」
スッ……
風太から離れ、
丸椅子に腰を下ろす。
ポンポンと膝を叩き、
両手を広げる。
「風太、ほらっ!」
「誰が座るか。」
ゴソッ
風太はあぐらをかき、
ふふん、と俺を見た。
「――チッ。」
丸椅子に座る俺と、
ベッドの上で
あぐらをかく風太。
なんか、
ホラーハウスでの出会いを
思い出します。
懐かしいです。
まだ、
3ヶ月も経ってないのに。
あの時と違うのは、
お互いの距離でしょうか。
それとも――
このときめきが“恋”だと、
自覚してることでしょうか。
「クスッ……
いつもの調子が戻りましたね。」
「ハハッ!ホントだな。」
風太が声を立てて笑う。
転がるようなその声も、
ヤンチャな笑顔も、
まるごと全部
ポケットにしまいたいです。
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俺に向かって微笑む煌人が
どうにもあったかい。
いつからか、
この空気が俺には心地よくて
いつでも感じていたくて
ずっとずっと、と
永遠を願ってしまう自分がいる。
この感情を
“大切”と呼ぶのかもしれない。
「煌人、本当にごめんな。」
俺――、
こんなに素直に謝ったのって、
記憶の中では低学年以来だ。
ちょっと、
照れくさい。
――受け入れてくれるだろうか。
こんな心配も、
正直、照れくさい。
「――いえ、
俺が謝りたいです。」
煌人の言葉に緊張が緩む。
「そう言うと思ったよ。
もう……!」
照れ隠しに
自分の胸に枕を抱く。
「なにがどうでも、
俺が謝る日なのに。」
ポスッ……。
枕に顎を乗せる。
前髪の隙間から
煌人の手が
カタカタと震えるのが見える。
――あ、コイツ、また……
「クッソ可愛……っ」
ピトッ。
手のひらを煌人の口に当て、
ニヤッと笑ってみせる。
「封印成功。」
煌人が目を丸くして、
固まってる。
ふふっ、ざまあみろ。
たまには俺が
先手を打つのもイイ。
「クスッ……参ったか!」
丸くなってる黒い瞳を
覗き込む。
あ、やべ。
俺から触ったら
また煌人ぶっ倒れるんじゃ……?
そんな心配をよそに
煌人は倒れることなく、
俺の手に
口元を抑えられたままだ。
目線だけが
ゆっくりと
俺をなぞって上がってくる。
――あれ?平気っぽい……
スルッと俺の手に
煌人が自分の手を重ねる。
俺の手を握り、口元から離す。
「――風太。」
「な、なに。」
なんだよ。
なんだよ、なんだよ。
この感じはなんだよ。
「あの……。
――うん。
そろそろ、話をしましょうか。」
なんだ?
今、何か言いかけた?
「――あ。……うん、そだな。」
迷子になってる俺の手。
そのまま、
迷いながらも髪に。
そして、小さく後頭部をかく。
ほんの少しのドキドキと
微かに上下する喉。
自然と、
口から言葉がこぼれていく。
「俺さ、昨日、
本当は勉強なんて……って
思ってたのに。
自分でも訳わかんないほど
浮かれてた。
――変だった。」
「うん。」
「煌人が忙しいの知ってたのに。
――ごめんなさい。」
俺から溢れる
拙い言葉のひとつひとつを、
煌人が
キュッと唇に力を入れて
うん、うん、と頷いている。
その目が真剣で、
寂しげで――
ふと、俺の中に
漠然とした不安が顔を出す。
今まで触れようとしなかった
その感情は、
一度気づいてしまえば
あとは大きく育つしかない。
煌人が話す瞬間が
待ち遠しくも、怖いんだ。
わかってるよ。
もうすぐ夏休みだ。
暑い盛りが過ぎて、
ヒグラシが鳴けば、
――短い夏は終わる。
その時、
俺たちは、
今みたいに
一緒にいるのかな――。
煌人の口が
小さく息を吸う。
その唇の微かな動きが
まるで
スローモーションのように、
俺の目に焼き付けられた。
「――風太。」
ドクンッ!
俺の胸が重苦しく跳ねる。
「なに。」
上ずってしまう声を
短い言葉で、隠す。
聞きたい。
でも、聞きたくない。
ザワザワとした雑音が
俺の頭の中で反響している。
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┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
風太の緊張が
ビリビリと伝わってくる。
俺に
――迷いが生まれてしまう。
「……あの、風太。」
「だから、なに。」
「えっと……
――俺、
夏休みは
風太と過ごしたいんです。」
「え?」
風太の目が
キョトンと俺を見る。
「俺、バイトもあるけど、
風太とも過ごしたいんです。
――ワガママ、ですか?」
今の俺が言える、精一杯。
ふたり、静かに見つめ合う。
お互いの目から
離れることができない。
瞳に映る、
カーテンの白と
差し込む日差しの金色が
同じリズムで、
揺れる。
不安、迷い、
隠したい――
そんな感情の気配を
一つたりとも逃さない、
その光。
窓の外で
蝉が鳴き始めた。
この声は、
もっと、
ワクワクするものではなかったか。
窓の外へ
目線を投げる。
「――夏、ですね。」
「――――。」
風太は何も言わない。
ただ、静かに
俺をじっと見ている。
「夏休み、忙しいですか?」
風太の目がハッとしたように
微かに大きくなる。
「あ。いや、忙しくない。
予定といっても
ホラー三昧しかないし。」
「ホラー三昧?
……ってなんですか?」
小さく風太が笑う。
「クス。
俺、ホラー超好きでさ
休みの日とかは
部屋で一人上映会やってんだ。」
目じりを下げ、
照れくさそうに笑っている。
「ほう。
一人上映会……。」
「なんだよ。
暗いとか思ってんなら
はっきり言えよ。」
トン。
風太の指先が
俺の肩を小さく突く。
「ブハッ……
そんなこと、思いませんよ。
ただ……」
「ただ、なんだよ。」
「それ、俺も参加しても?」
「――は?」
「しても?っていうか、
します。参加を。はい。」
キリッ。
そんな面白そうなもの、
一緒にやりたいに決まってる。
俺は、参加します。
絶対参加。
「いやいや、
俺のセレクトなんて、
ひたすら観て終わりの
何の学びもないのばっかりよ?」
「学び?」
「あー。簡単に言うと、
レビュー星1個もつかないような
中身のないやつばっかなんだ。」
「でもそれが
風太は好きなんでしょう?」
「まぁ、そうだけど。」
「じゃあ、それは
星ゼロが最高得点ですね。
むしろ星ついたら終わりです。」
風太が、
とんでもなくおもろい顔をしてる。
豆鉄砲食らった
ハムスター、ここに降臨。
✦・┈┈┈┈┈
ハムちゃんや
お菓子をあげる
ほら、おいで
✦・┈┈┈┈┈
「誰がハムちゃんだ。
誘拐の常套文句やめろ。」
「はぅっ……テレパ……」
「テレパシーじゃないかんな。
ダダ漏れてんだよ、バカめ。」
ぐぬぬ……油断できねぇ。
近頃、
ダダ漏れが過ぎる。
ふわっ……
腕に温もり。
風太の手が
俺の腕を軽く掴んでいる。
「??」
風太を見る。
風太の手が
俺の手首、
手のひら、
また腕へ、
ペタペタと歩いていく。
「えっと、何してんですか?」
「んー。」
少し考えた後、
風太の目が俺の目に
すいっと上がる。
ピトッ。
頬に手のひらを当てる。
――ピキーン。
バターン!!
視界が暗くなった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ツンツン。
ベッドに突っ伏す煌人を
つついてみる。
動かない。
「うーむ。」
しばし思案する。
――ピクッ。
煌人の指先が僅かに動く。
「あ。蘇生、キタ。」
ムクリ。
煌人が頭を上げ、
定まらない視線をあげる。
「あの……
今、何がありました?」
「――別に、なんも。」
肩をすくめる。
「あれっ!?
授業、遅刻じゃないですか!
風太!!
早く!急いで!!」
「はいはい。」
やれやれ。
騒々しい奴だ。
聞きたいこと、
そのまんまになっちゃったけど、
急がなくてもいいよね?
だって、
俺たちの夏休みは
これから始まるんだから。
あ――
その前に追試か。



