「ぐわぁーー……
俺っ、絶対赤点だ……っ。」
机に突っ伏している風太。
後頭部が……
――クッソ可愛い。
とか言ってる場合ではない。
「呆れますね。
期末なんて大切なものを
普通、忘れますかね。」
「……なんとなく、そうなった。」
「おかしいな、と思ってました。
全くその話が出てこないんで。
俺たちの間ではもちろんのこと、
何より、この世界で!」
――キリッ!
ふっ……決まった。
パコーンッ!!
後頭部に一発。
「いたっ!」
「洞、余計なこと言うな。
この世界観への言及はタブーだ。
そういうもんだと思え。
忙しき高校生、
たまに忘れることもある。」
鷹野が
風太の肩をポンと叩く。
「追試に賭けろ。」
パシッ。
風太の手が
鷹野の腕を捕まえる。
さっ、と立ち上がる。
「鷹野さん。」
「……なんだよ。
いきなり敬称で呼ぶな。」
「いつものやつ、ください。」
「は?」
「いつものやつを、ください。」
俺の知らないシチュ来ました。
《《いつものやつ》》って、
――なんですか?
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「――断る。」
鷹野のメガネが光る。
振り払われそうになりながらも
その手を掴んで離さない風太。
「おーねーがーいぃぃいー!」
「こ・と・わ・る!
えーい、離せ!」
「いーいじゃぁーーん!」
「離せ!離れろ!」
「いーやーだーー!」
俺は何を
見せられているのか。
ジャレあい?
仲良し同士のツーカー的な?
クラスメイトたちが
クスクス笑っている。
「ふうくんがジャれてる。」
「鷹×光、キター。」
「冷徹メガネ男子×ゆるふわ男子っ」
「ひぃ……尊死っ!」
「俺のメガネで啼け。
――みたいな?」
ちょーっと、待てぃ!
メガネで啼くか、馬鹿者が!
鷹×光なんておぞましいもの
生まれてたまるか。
却下!!却下!!
――鷹野……なんかジャマ。
俺の濁りなき純粋な心に
ジェラ神が降臨しそう……
あ。
もう降臨してた。
口が勝手に言っちゃうみたい。
仕方なし。
「風太、
俺が《《いつものやつ》》をあげます。」
「へ?」
鷹野が驚いている。
「洞、マジで言ってんの?」
富士川と茄子が
俺に耳打ちする。
「引き返すなら今だぞ?」
「後悔すんぞ。」
「するもんですか。
《《いつものやつ》》は
俺が調達してみせますとも。」
風太が鷹野の手を
ペっ!と捨て去る。
「煌人、ほんとに?」
「ええ、
冷徹メガネではなく
――《《俺が》》
風太にあげます。」
ふふん。
鷹野に流し目をする。
「おー、いいじゃん。
そうしろ、ぜひ、そうしろ。」
鷹野が
俺の手を取り握手する。
大歓迎である。
これも何だか気に入らないが
――まぁ、良い。
「鷹野、後になって
やっぱり自分が!とか
絶対ナシですからね?」
お呼びでない奴には
念を押してやる。
「うん、約束するよ。
残念だけど、洞に譲るよ。
せいぜい頑張ることだ。
洞せーんせ。」
うーん?
洞せーんせ、とは何ぞ?
┈┈
┈┈┈┈
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
あれよあれよと
放課後になり……
風太は今、
俺の部屋にいる。
テーブルの上には
教科書の塔がそびえ立ち、
俺のとなりに
風太がちょこんと座っている。
「……うっ!教え子・風太っ!
……っはぁ……はぁっ……」
――苦しい。
萌えすぎて、過呼吸気味。
まさか《《いつものやつ》》が
“学校ごっこ”だったとは!!
なるようになっちまう
テッパンじゃないすか。
あー、俺、
もうゾンビやめようかな。
狼男になっちゃおっかなー。
✦・┈┈┈┈┈
勉強会
ラッキースケベの
宝庫なり
✦・┈┈┈┈┈
あぁ、
めくるめく世界が
俺を呼んでいる。
「――……煌人って!おいっ!」
「おっと、
俺を呼んでたのは
風太でしたか。
はいはい、なんでしょう?」
「分かんない。」
「――は?
まだ表紙もめくってませんが?
てか、教科も選んでないです。」
「無理。なんか食べたい。」
――んん~?
誰ですか、このお子ちゃまは。
「こら、風太。
追試のための勉強会ですよ?
お菓子が出てくるとか
そんなラッキーはありません。」
ふいっと教科書の塔に
顔を向ける。
シュバッ。
適当に一冊抜き取る。
「わ!ジェンガみたい。
ね、ね、煌人、
俺、ジェンガやりたい!」
おぅ?
非常に聞き分けの悪い子が
ここに居ます。
誰だお前は。
風太の着ぐるみ着た
クソガキか何かなのか?
「――風太。
あと1時間もすれば、
俺はゾンビのバイトです。
時間が、ないのですよ?」
「ね、これ見て。
煌人、こんなのできる?」
「――?」
チラッ。
はぁぁぁぁぁぁ……
まつ毛の上に
シャーペンの芯を乗せとる……
何だろ、俺、
イーッてなってきた。
狼男になる暇もねぇじゃん。
「見て見て!!
両目っ!いけた!写メ撮って!」

プツン――。
「おいコラ、
クソガキ風太。
やりたくなけりゃ、
やらんでいいです。
潔く赤点取って
夏休みはずーっと
登校すりゃいい。」
「えっ……煌人?」
風太が驚いている。
「怒ってるの?」
「正直、苛立ってる。
いい加減、
シャーペンの芯取りなよ。」
バイトの時間が
刻々と迫ってきている。
こんなやり取りで
“学校ごっこ”が
――終わってしまうのか?
「俺――、
夏休み楽しみにしてたんだ。
風太は
そんなでもなかったんだな。」
「あ……いや、俺は……」
「俺は、一緒にスイカ食べたり、
お祭りに出かけたり、
花火をしたり、
涼しい部屋でお喋りしたり……
他にもたくさん、
風太としたいことあったんだ。」
俺の口が止まらない。
ツラツラと、
チクリチクリと、
俺、なんか、すごく嫌な奴だ。
風太が黙ってしまった。
俺は何をこんなに
イライラと
気を立たせているのだろう。
いつもなら
こんなことはないのに。
――沸点低すぎ。
「なんか、ごめん。
八つ当たりかもしれん、です。」
「いや――悪いのは俺だよ。
……貸して、それ。」
風太が、
俺の持ってる教科書を指差す。
部屋の時計を見る。
そろそろメイクに
取り掛からないと……
小さく息を吐く。
黙って
ルーズリーフに走り書きをする。
スッ……
「はい、これ。」
テーブルの上に出す。
「え?……これ。」
「明日までに
この英単語を覚えてくること。
ウォーミングアップに
軽くテストします。」
「あ……俺、もう帰るの?」
「はい。
家でやってきてください。
俺、もうバイトなんで。」
「でも俺……」
何か言いかけている
風太に背中を向け、
化粧台に座る。
そのまま、
急いでメイクを始める。
「煌人……?」
聞こえてはいる。
だけど、
なんか、
振り向きたくないんだ。
カタッ。
パタン……ッ。
風太が部屋を出ていく音が
俺の耳に
寂しく響いた。

┈┈
┈┈┈┈
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
――朝の教室。
ずどーーん……
どよーーーーん……
机の上で
ぺちゃんこになる俺。
ほぼ溶けている。
ゾンビ、液体説浮上。
「うわっ!洞かよ!
ビックリした!」
朝から元気な富士川の声。
「なになに?
――え、これ洞?」
俺をツンツンとする茄子。
「ははーん。やられたな。」
鷹野の声。
風太は――、まだ来ないか。
ズルッと頭を上げる。
「バリケードさんたち、
……おはようございます。」
「うわぁ……酷い顔だな。
光星の監督、大変だったろ?」
「はぁ、まぁ。」
「アハハ!何回、起こした?」
3人がワクワクした顔で
俺を見ている。
「起こした、とは?」
スン。
「え?
3分置きくらいかな?
光星、すぐ寝るから
ひたすら起こしたろ?」
「貴重な放課後が
光星を起こし続けて
終わるっていう。」
「うん、そうそう。
自分の無力さに
打ちひしがれるんだよな。」
口々に言う3人組。
深くため息をつく。
「何を言ってるのか、
さーっぱりわかりませんな。」
茄子が首を傾げる。
フクロウ並に。
「じゃぁ、
洞はなんでそんなに
――落ち込んでるんだ?」
「え?
あぁ……
お恥ずかしながら、
苛立って怒ってしまって。」
「洞が?
光星に怒ったの?
お前が?
マジ?」
「なんか、
凄く苛立ってしまって。
なぜあんなに沸点低かったのか、
自分でも
よく分からんのですよ。」
額に手を当て頭を振る。
3人、顔を見合わせる。
「状況よく分からんが、
3分おきが、
1分くらいだったのかな?」
「それは“大変”超えてる。」
「怒るくらい構わんだろう。
元気出せ、洞。」
――うーん?
「風太は
寝てなんかないですよ?
さっきから何の話ですか。
寝るどころか、
ひたすらキャッキャと
はしゃいでましたけど?」
「ほー。それは興味深いな。」
鷹野が
メガネをクイッとあげる。
「勉強会の時の光星は、
毎回、焦燥感ハンパないんだ。
始まる前からふらっふら。
寝るっていうか、
気絶に近いっていうか、
すんごい拒絶反応なんだ。」
――え?
目を見開き、
鷹野の話に耳を傾ける。
「意識飛ぶ度に、起こす。
ひたすら、起こす。
英単語のひとつでも
教えられたら
拍手喝采もんだよ。
だって、ほぼ寝てんだから。」
いやいや、
むしろランランとした目をしてた。
どういうことだ?
俺だから――?
「俺、舐められてんっすかね。」
気持ちが萎えていく。
「いーや!違う。
これは――
期待以上の展開だな!」
3人は揃ってにんまりした。
「――はあ??」
さーっぱり分からん。
もういいや、考えるのやめよう。
「で、風太は?
いつも団子になって
登校してくるのに。」
「保健室。」
「――え、保健室?
風太っ……!!」
ガタッ……!
パタパタパタパタッ……
「まぁ、寝不足じゃね?」
富士川が
クスッと肩をすくめる。
鷹野が言う。
「おい、洞はもう居ないぞ。」
「え?
あれっ!?洞!?
どこ行った?」
「はっや!」
茄子が笑う。
「あとは、何とかなるでしょ。」
3人は
それぞれの席に向かった。



