ある日、ゾンビを助けたら。



「誰かが、風太を
 愛してるそうなんですけど。」


3人組が談笑しているところに、
言葉を落っことす。

雑に。

ポイッと。



ハタ……。

3人が静まり返る。

「ええぇぇぇぇ!!」

揃って叫ぶ。


あ、はい。
そのシーン、
結構見慣れてきました。

若干の飽きた感は否めません。


「コラコラコラ。
 ぜんっぶ聞こえてっから!」

「お前、そんな奴だったのか!」

「全くもってひどいな。」



あーだこーだ、
めんどくさい子たちです。

「どうとでも。」

投げやりに
肩をすくめる。

「俺はこんなもんですよ。
 むしろ、どんな期待を?

 それよりも……」

目だけで、
周りを注意深く見渡す。

3人にちっちゃく手招きをする。

「もっと、こちらへ耳を。」


3人顔を見合わせ、
そっと、
俺の顔へ頭を寄せ合う。

口元の横に手を当て、
コソコソッ。

「破廉恥な奴がいるようです。

 風太に愛を叫ぶような……」


「なんだと!?」

バッ!!

3人が勢いよく立ち上がる。

ガッ!(富士川の頭を押さえる)
ガッ!(茄子の頭を押さえる)
ガシッ!(鷹野の頭を挟み込む)


――ギュウッ……(3人まとめて圧縮する)


そっと風太を確認する。

日直の風太は
黒板を消している。






小さく息を吐く。

「……騒ぐなよ。
 風太に聞こえるだろーが。」

喉の奥から声を出す。


「えっ。誰だお前!」

ザワつく3人。

俺に圧縮されたまま、
必死に
頭をあげようとしている。


「あ?洞だよ。
 俺以外いるかよ。

 今話してんの、
 そこじゃねーんだよ。」

ギュウッ……
また圧縮する。


茄子が
小さな声で言う。

「そういうことがないように
 グルチャ立ち上げてるのに。
 今になって、急に?」

他の2人も
高速で――うんうんうんうん!



「グルチャだと?初耳だな。
 詳しく聞かせてもらおうか。」


両手の圧を緩め、
3人を解放する。

「入学してから、
 ……そりゃもう大変で。」

「そうそう。
 一挙手一投足、キャアキャアと。」

「そのうち告白合戦みたいに……
 何ターンも果敢にトライもあって。」




「物もよく無くなってたし。」

「盗撮も当たり前だったよな。」

「そのうち風太、
 あんまり笑わなくなって……」

しょぼーん……


「途中でしょぼくれんな。

 それで?どうなったんだ?」

腕組みして
目だけで3人を見下ろす。


「だから、お前誰だよ!こえぇわ!」


――ジロリ。


「あ、はい、なんでもないです。
 早くっ、続き話せっ!」

「お、おう!

 笑わないっつーか、
 なんか仮面みたいになってさ。」

「それで、作ったんだよ、《《これ》》を。」


スッ……。


見せられたスマホを

手に取り、

画面に視線を落とす。




「――は?……何だこれ。」



──────

グループチャット

·̩͙꒰ঌ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈໒꒱·̩͙
 ♡ふうくんはみんなのもの♡
·̩͙꒰ঌ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈໒꒱·̩͙

♡ルールは守ろうね♡

①独り占めしようとしない。
②画像はこのチャットのみ共有OK。
③勝手に物を盗らない、触らない。
④髪の毛を抜こうとしない。
⑤半径3m内接近禁止。

プライバシーを守ろう!!

♡守ってくれた人への特典♡

抽選で、休日グループデート


etc……

____________


「お前ら……
 
 頭イカれてんのか?」


富士川と茄子が
慌てたように続ける。

「ごっ……誤解するなよ?
 これが最善の策だったんだよ。」

「光星を守る方法が
 これしか
 思い浮かばなかったんだ。」



鷹野が、
宥めるように
俺の肩をポンポン……と叩く。

「これがあっての
 光星の平和だったんだ。
 
 ルール化することで、
 パトロールが使命って
 ファンも生まれて、
 俺たちはバリケードに専念できた。

 一得一失(いっとくいっしつ)ってやつさ。」


「――風太が失うもの多すぎ。」

ため息をつきながら
ポイッとスマホを返す。

呆れ半分、

悔しい感謝が、半分。

「――で、このルールある中、

 《《もぐり》》が出やがったわけだな。」



「そういうことになるね。
 残念だけど……。」



「じゃぁ――風太はどうなる?」



「秩序が乱れた今、
 光星の平穏は――《《ない》》。」



しん……



俺と3人、考え込む。




「揃いも揃って、
 何、難しい顔してんの?」




後ろから風太の声。


そおっと振り返る。

ヘラヘラと笑ってみせる。


「いや、いつも通りですよ。」

「う、うん!そうだよ!」



「ふーん。

 で、俺の平穏がなんだって?」



うっ……
しっかり聞こえてるし。



そんな中、富士川が
しれっとした顔で言う。

「あ、そうだ。茄子。
 俺ら今日、委員会じゃね?」



「――は?何言ってるんですか。」



茄子のとぼけ顔。

「あ?……あー!そうだそうだ。」



「嘘はいけません!」


カタッと
立ち上がる鷹野。

「あー、うん。そうだったな。
 悪い、行くわ!」



「鷹野まで、そんな嘘を!?」


3人並んで、にんまり。

――ダダッ。

逃げやがった!!


「待て!ゴルァー!!」


俺の大声に
クラスメイトが振り返る。


やっちまった。

仕方ない。

《《アレ》》を出すか。



ゾンビ術奥義。

――スン……。

「え?皆さん、どうしました?」



「なんだ、気のせいか。」
「洞が怒鳴るわけないよね?」
「ビックリしたぁー」

ザワザワッとしつつも
またみんなは、それぞれ談笑へ。


ふっ。

さすが俺。


ギュウゥゥゥ……

「イーッ!」

風太の足が
俺のつま先を踏んでいる。

俺の耳元に近づき
小さく声を落とす。

「ふっ、じゃねーよ。バカが。」



「はい、さーせん……。」



「煌人、あっちで話そっか。」

ニコッ。

風太が教室の外を指差す。


髪をゆるふわさせて、
ニコッと愛想笑いですか。


クッソ可愛いじゃないですか。


その、笑ってない目が

“お前に拒否権ないかんな!”

って、言ってますね。



――ゾクゾクします。



┈┈
┈┈┈┈
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



――廊下へ出る。


団子になった3人組が、
階段の踊り場の影から
こちらの様子を伺っている。


――裏切り者め。


顎で
“来いや!”と呼ぶ。


ふいっと
風太について行く。


ペタペタペタ……

トコトコトコ……


幾重にもなる足音。


教室からすぐの
渡り廊下の真ん中で、
風太が立ち止まった。


「なんでこんな
 見晴らしの良いところに……」

3人が困惑している。


「遠目に見ると、
 日向ぼっこしてるみたいだろ?

 それに――
 周りがよく見える方が
 盗み聞きされにくい。」

風太はそう言うと
手すりに肘をかけ、
そのまま体重を預けた。



くーっ……

頭のキレる風太っ

最高です!!

キュンが止まりません!!



「で、なに?
 俺の平穏って。」

俺と3人組へ
順に目線を投げる。

鷹野が口を開く。

「聞いて驚くな。

 例の秩序が乱れそうなんだ。」


「例の秩序?」


「ほら、ふうくんグループの。
 アレだよ。ルールだよ。」


「あー。
 あのクソみたいなやつか。」


「……クソって。」

3人組が固まる。


『がーーーーん』
3人の頭の中で
大きな岩が音を立てて崩れていく。

あぁ、俺たちの築いてきたものは
全部ムダだっ……


鷹野のメガネが
キラッと光る。

「おい、洞。
 勝手にアテレコするなよ。

 微妙に合っててキツいのだが?」



「やった方が
 このシーン、映えますので。」



「悲しいからやめろ!」

「次、絶対やんなよ?」

「返事は?」



「はーい、さーせーん。」



「お前、反省しない奴だな。」

「時々はたきたくなるな。」

「そういうとこ……」



――カンッ!

乾いた金属音。

風太のつま先が
手すりの支柱を
蹴っ飛ばしていた。

「――脱線すんなよ。
 休み時間終わるだろ。」

じろ……。

冷たい流し目。


ひぃ。これは、怖いです。

このくるっとした目が
こんなに悪い目をするなんて。


――2人きりで叱られてみたい。


うっとり……



トスッ。

脇腹に茄子の肘鉄を食らう。

「そういうのは
 心の中で言えよ。バカ!」



「――あらら、
 また漏れてましたか。」



「風太も黙ってないで!

 コイツに怒って
 言っていいんだぞ。」


茄子の指が
俺の目の前に突きつけられる。





「あーもー。

 ……“愛”が重いなぁー。」




風太が、小さくこぼす。

俯いて
ストンとしゃがみこむ。




✦・┈┈┈┈┈


風太さん


今のお言葉


Hey pardon?


✦・┈┈┈┈┈



「あの、風太?……今のは。」


風太が顔を上げ、
キョトンとした顔をする。

「え?

 “愛”が重すぎる、って

 そう、言っただけ。

 ――それが、なんだよ?」



「じゃ……じゃあ、

 さっき俺に言った

 “愛されてた”って……

 この3人のことですか?」



ボッ!と風太の顔が赤くなる。

立ち上がり、
俺の肩をトン!と押す。

「言うなよ、もう!
 お前っバカ!ほんっとバカ!」

頭から湯気が出るほど
真っ赤になっていく。







「愛を叫んでる破廉恥は

 《《俺ら》》だったってこと?」


鷹野のメガネがズレている。

どうやってズレたかは
追求してはならない。

こういう時、

メガネはズレるものなのです。





風太、素敵ですね。


幼馴染って、

簡単には作れないのですよ。


友達よりも、
難しいのですよ。



転々としてきた俺には、

手の届かないものなのです。



一度、

ぎこちなくなった関係。

耳に痛いこと言われても

ちゃんと向き合って

また――繋ぎ直した風太。



――風太は、凄い子です。



┈┈
┈┈┈┈
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



――帰りの準備。


リュックに手を伸ばす。

茄子が
俺の肩に手を置く。

「洞、一緒に帰ろうぜ!」


「え?」


「ほら、行くぞ。」

ドアに向かう風太が
こっちを見て笑う。


「行こっ!」

「置いてくぞ!」

富士川と鷹野の手が
俺の背中を
ポン!ポン!と叩く。


「あ、はいっ!」


生まれて初めて

友達と

団子になって

歩いています。



今日も、夕焼けが綺麗です。