ある日、ゾンビを助けたら。




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レモンの君

恥ずかしがらずに

語ってね


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――光星(みつほし) 風太(ふうた)の回。


どうも。風太です。


「はい、カットォォォ!!
 風太!かたい!もう1回です!」

「うるせぇな!!
 お前は引っ込んでろ!!」

「はいっ、さーせん!」


ピュンッ!!

「相変わらず瞬足だな……」




念の為、

キョロっと見渡す。



うん、居ねぇな。よし。




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ふとした時に、思い出すんだ。

仄暗い通路で
クスッと笑ったお前の姿。

すらっと伸びた肢体が
吐息のような笑い声で
小さく揺らめいた。

その姿が、

なんか、

すごく、

俺、寂しかった。



きっと、
ずーっと、
俺の中に焼き付いたまま、

この先も、
この脳裏に
あり続けるんだろうな。




それから――、

道で会った時の、お前の声。


――藻布川(もぶかわ)さん、それ消そう?


柔らかく低いトーン。

その中に、
僅かに見えた

音のない怒り。


嬉しかったとか、
そういうことじゃないんだ。


俺の心を
代わりに引き受けてくれたような、

ただ、
そんな気持ちになっただけ。※第5話参照




あの瞬間から
アイツの前でだけ、
俺はありのままで居られる。


……と、続くべきなのは分かってる。


だが、
実際はそんなことはない。


俺がありのままでいるのは、
暗い通路で出会った時に
自らダル絡みをして、

なんとなく……。

そのまんま……。

ってわけだが。


ストーリー的に、
これはOKなのか、不安だ。


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少し前から

俺は、あることに気を取られてる。


遊園地のホラーハウスは、
この春、
初めてリニューアルしたんだ。

それまでは、

今どきの子供には通じない、
良く言えば
ノスタルジックな
アトラクションだった。

猫娘の頭は禿げてたし、
ろくろ首の首は伸びたまんまだった。


今のホラーハウスは、
話題が話題を呼び、大盛況となった。


園内ポスターでは、
こう謳っている。


――《《ひと夏》》の体験!超絶恐怖!





その“ひと夏”は、

きっと、
ヒグラシが鳴き始める頃、
幕を閉じる。



ってことだよな?



そしたら、
ホラーハウスはどうなるんだろう。


俺が
初めてゾンビになった日、

煌人が俺を残して
暗闇の向こうへ走っていった時、

あの背中を見送りながら

あれ?

って、頭を過ったんだ。



ほんの一瞬だけど。

すぐに忘れちゃったんだけど。



どうしたわけか、

部屋に帰るといつも、

その疑問が頭をもたげてくる。



そして、

俺は眠れなくなる――。




煌人は何も言わない。



俺も、何も聞かない。




聞いてしまったら、


“知りたくないことが待ってる”


って、俺の心が赤信号を点すから。


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バリケード3人組が
煌人の部屋に上がり込んだ
次の日――。


俺はまんまと遅刻して、
何やかんやあって、

煌人に担がれたまんま
校内爆速移動。

終始、てんとう虫と戯れる。

訳の分からん
とんでもない朝を過ごした。


煌人が目を覚ますのを待って
一緒に教室に行ったわけだが――。

先生に叱られる覚悟してたけど、
バリケード3人組の機転で
全く咎められずに済んだ。


煌人は、というと……

「なんか、吐きそうなんで
 保健室で寝てきます~……」

って再び、教室から姿を消した。



「朝っぱらから
 あんなに走るからだろ!

 素直に、生徒指導に
 捕まっておけばいいんだよ!」



呆れる俺。
ため息を漏らす。


そんな俺を、

煌人が
キッ!とした目で見る。


「推しが叱られるのは
 見たくないです!」


――あ、はい。



煌人の居ない机を、眺める。

プッ……

朝のことを思い出して
つい笑ってしまう。


「光星ぃ~、なに笑ってんの?」

後ろから、
茄子が俺の肩にのしかかる。

「なになに?どうした?」

富士川と鷹野も寄ってきた。



「なんか、
 光星が1人で楽しそうなんだよ。」

茄子が俺の肩を揺さぶる。


「いつも通りだよ?」

ニコッ。

とりあえずの笑み。
これさえあれば、
大体のことは切り抜けられ……



「おーい。光星ぃ?

 そろそろやめない?

 ――“《《それ》》”」





ドクンッ……と
鳩尾(みぞおち)が跳ねる。


「――え?」

ニコッ。


3人が腕組みをして
俺をじぃっと見ている。


いつもなら、

“光星かわいー”って和むのに。


なぜだ?

なぜ通用しない?

やべぇぞ。
これは、やべぇやつだ。


ちょっとした緊張感。


「んー、まぁいっか。」

茄子の鶴の一声。



助かった……。

胸を撫で下ろす。


鷹野が、
隣の空席に腰を下ろす。

半身で頬杖をつきながら、
目だけで黒板を見つめている。


ただ、それだけなのに、

その横顔に

少し緊張してしまう。


えっと……何か言うべき?

でも何を?

言い訳か?

それとも、認めちゃう?


あー、もう。

馴染みの深い3人に、
何でこんなに頭を使ってる?

バカみたいだ。


頭を搔き、

頬を撫で、

その指先でトントンと
机を叩き、

また頭へ――


俺の手、どこに置こうか。


チラッと、
鷹野の目が俺を見た。

落ち着きない俺の姿に
クスッと笑う。

「――あのさ。

 光星なりの事情あるけどさ、

 俺たちは
 ずっと友達だからな。」


――えっ。


なんだ?急に。

近くに立っている
富士川と茄子の顔を見る。


2人が
うんうんと頷く。


鷹野が続ける。

「俺たち――
 幼稚園からの腐れ縁だぞ?

 たぶんお前、
 いろいろ窮屈じゃね?

 今すぐじゃなくてもいい。

 《《そろそろ》》、
 気楽に過ごそうや、光星?」


心の奥が、きゅっとなる。

どんな顔をしたらいいか、
わからない。


「俺ら、洞には感謝してんだ。」

ニッと茄子が笑う。


「え?煌人に?」



――なぜ?



「だってさぁ、
 光星、すんげえ楽しそうじゃん。」

「うんうん。
 よく笑ってるし、
 久しぶりにお前の大声聞いたし。」

「ブハッ!そうそう!
 洞を見る光星の冷たい目っ!
 あれ好き!
 めちゃくちゃ、イイ!」


3人こそ、
とても楽しそうだ。


それがすごく嬉しい。



なんか、

今、

俺、

煌人に、会いたい。


このこと、話したい。


そう思ったら
ウズウズして落ち着かない。


茄子が笑う。

「はいはい。分かりやすすぎ!

 もー、行ってくれば?」



「……べっつに!何もねぇし!」

ふいっと横を向く。


あ、ついやっちまった。


そろっと3人に
向き直す。

一瞬より短い一瞬、
3人の目が驚いたように見開く。


慌てる俺。

「あっ……いや、ごめん。
 なんか……えっと……

 えっと……


 あーもう、めんどくさ!」

華麗に投げ出す俺。


3人は、
お互いを
肘で小突き合いながら

くしゃっと笑った。


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――保健室。


眠る煌人のベッド脇に、座る。



カタッ……ン

カタ……ン

古い丸椅子の脚が、
俺の微かな動きで小さく揺れる。

その音をなるべく立てないよう……
何度も座り直す。

カタッ……カタッ……

「コイツ……椅子やる気あんのか!?」


立ち上がり、
辺りを見渡すも
他に椅子はナシ。

「ま、いっか。寝てるし。」

横向きに眠る煌人の
横に腰掛ける。


少し開いた窓。

ひらり、ひらり、と
カーテンがなびく。

風が気持ちいい。


すぅすぅと
寝息を立てる煌人に
そっと話しかける。


「なぁ――煌人。

 俺、

 友達に愛されてたぞ。」


煌人の前髪から覗く

その目元が、

少し笑ってるように見える。


「クスッ……

 “おめでとうございます”

 って言ってんのか?」


静かに、煌人を見つめる。


――チラッ……


ん?
今微かに目を開いたような……

いや、寝てるよな。


――チラッ……

バチッ!

薄目の煌人と目が合う。


「おまっ……起きてたのか!」


「許しませーーんっ!!」

ガバッ!!

煌人が飛び起きる。


「もしかして、寝ぼけてる?」


「寝ぼけてないです!

 煌人を愛してるとは……

 誰がそんな破廉恥なことを!?」



破廉恥て。

「常にバカだな、お前。」

手のひらで煌人の額を掴み、
グッとベッドに押し戻す。

「うぐぐ……。」


「いいから、寝てろ。」


「触られ……たっ……」

――クタッ。


「あ。寝た。

 なんなんだよ、お前っ……」

クスクスと
笑いが込み上げて止まらない。




煌人、
お前に出会ってから、

俺は笑ってばかりだ。


このまま、

この日々が続いて欲しいよ――。