ある日、ゾンビを助けたら。




「うぅぅぅ……ぐぁぁあ……」



おぞましい呻き声が
背後から
俺にまとわりつく。


チラッ……


投げる目線のすぐそこ、
奴の目が
舐めるように俺を見ている。


「おぉぉ……おまえぇぇ……
 うまそう……だなぁぁあ……」


俺の耳に
奴の吐息がかかる。


「落ち着け。食うな。

 俺は、うまくない。」


背中から
気味の悪いゾンビが
俺の首に絡みつく。


俺は息を切らし、
ソイツを引きずっている。



足がもつれる。



「うわっ!!」



ドサッ……



あぁ、

そもそも、

なぜ、こんなことになったのか。



――……
―――――



俺の名前は、

光星風太(みつほし ふうた)。

乙叶井(おっかない)高校に通う、
高校三年生だ。
成績は、
普通……のちょっと下くらい。
明るく、人当たりもいい。

自分で言うのもアレだけど、

俺は、モテる。



――吐き気がするほどに。



モテるって地獄なんだぞ。



例えば――


見知らぬ奴が、
LINE繋ごうとか言ってくるし、
見知らぬ奴が、
俺を背景に写メ撮ったりする。


勝手に俺を
オーディションに出す
不届き者もいたな。


全てにおいて――イカれてやがる。



知ってる奴も、油断ならない。


知ってる奴が、
“ふうくんはみんなのもの”って
妙なグループ作りやがった。

“ふうくん”て言うなや。


知ってる奴が、
いつも俺の周りに
バリケード作りやがる。

俺にも外の空気吸わせろ。


知ってる奴が、
合コンデートのメンツに
勝手に俺を入れやがる。

客寄せパンダ、断固反対!


こんなのほんの一部だ。

やっぱり、
全てにおいて――イカれてやがる。



でも、

一番イカれてるのは




――俺だ。




いつもニコニコ、
当たり障りなく、

「嫌だ」の一言も出せない。


ゆるふわ良い子のフリしてる俺。


超、ムカつく。


┈┈
┈┈┈┈
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


――快晴の日曜日。

地元の遊園地ゲート。


バリケード作る奴ら3人に、
やっぱり
バリケード作られながら、
“お嬢さん”たちと合流。


本当は
部屋のカーテン閉め切って、

一人静かに
ホラー上映会やりたかったのに。


男女混合グループで
わちゃわちゃと合コンデート。

青春エンジョイみたいな俺。


さっむ!!
鳥肌が立つぜ。



「ふうくん、やほー。」

だから、
ふうくんって言うなや。

そんで、お前誰やねん。

「あぁ、こんにちは。

 ――《《はじめまして》》、かな?」

ニコッと笑う。
でも、少しトゲはつけてみたりする。



「きゃー、可愛い!」



「ははは。」

はにかんで笑う。

トゲに気付かぬ能天気め。

――可愛いってなに?



後ろからバリケード3人が
俺の肩に乗っかってくる。

「なんっだよ!光星ばっかりー!」

「ほらほら、
 そういうこと言わない。」

マジ、言うな。

勝手にメンツに入れたの
忘れたんか。



――さぁ、今日は何からだ?

2人1組で観覧車か?
それとも絶叫か?

なんでもござれ。

「ねぇねぇ、知ってる?
 ホラーハウスがOPENしたんだよ。」

「知ってるー!
 だって俺らそれ目当てだもんよ。」

「入るしかないよねー。」


ホラーハウス……だと?

2人1組は、
絶対に回避したい。

抱きつかれるとか
――マジ勘弁。


「うわ~……俺、怖いの、
 ちょっと苦手なんだよね。」

両腕を抱えて、震えてみせる。

プルプル……

何が怖いって
抱きつくチャンス!って
横から伝わってくる静かな圧。

肉食獣と歩いてるみたいで
めちゃ怖いんすよ。



男女問わず、
中学で経験済み!



回避!!

ぜーったい回避!!



「――他のにしない?」

ニコッ。懇願の笑み。


「しない。」

「うん。しないよね。」

「さぁさぁ、みんなで行こ?」


うそーー!!なんなん!?

手、繋がれた!両方!!

ヤバい。捕獲じゃん。

後ろから
肩に手を置かれてる!
懐かしのトレインだ!

「えー、やめようよ?」

おそるおそる、声を出す。

「大丈夫!
 みんながついてるから!」

嘘つけ。
顔に書いてあんぞ。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

ふうくんの、

ビビるところが、

見てみたい。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


その、ポケットに入ってる手。
スマホ握ってたりしないだろうな。

自分の蒔いた種とはいえ、
俺、ビビってるふりすんの?

今から?

「あぁ……辛い……。」

俯き、小さく呟く。


「わ。怖がってる。可愛い♡」
「守ってあげるから!」
「そうだぞ、任せろ!」
「光星、いつでも抱きついていいぞ。」


あーもう、暑苦しい。

ホラーハウスっていうのは、
誰かを守り抜く
感動のアトラクションではない。

方向性間違ってるぞ。



「高校生6名でーす。」

ギィィ……

扉が開かれる。



嫌だ。嫌だ嫌だ。

嫌だぁぁぁー!!



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



進む先も分からないような
――真っ暗な道。

ゆっくり先へ進んでいく。



時折、

仲間の喉が

ゴクッ……と音を立てる。



ひんやりとした
緩い風が俺たちを撫でる。

どこからともなく、
呻き声が聴こえてくる。



そこの角、曲がったとこ、


居る――!


と思ったけど、
別に何もいない。



ふぅ……



通り過ぎる。



ズズズズッ……


引きずるような音が

近づいては、

離れる。



ホラーハウスめ。


雰囲気が、

けっこう、

本気なんですけど?


俺を守るって言ったのに、
みんなの手が冷たい。

バリケードたち、静かだし。


ゴクッ……


ゴクッ……


って、何回飲み込むんだ!


あとは、浅い呼吸と
おぼつかない足音しか聞こえん。



オイオイ、大丈夫か?

暗闇の中、
キョロキョロと目だけ動かす。



ゴソッ……



バンッ!!

「グワァァァァア!!」



出たーっ!!


コイツはすごい。

迫力満点。

血走った目が俺たちを見てる。



俺の心、ワクワクが止まらない。


俺、怖いの平気。
むしろ、好き。

自然と笑みがこぼれてしまう。

いやいや、ダメだ。
しっかりしろ、光星風太。


「ふうくん、大丈夫?」
「すごく静かなんだけど?」
「暗くて顔が見えないね。」
「ねぇ、返事して?」


「――うん、何とか。」


君たちこそ大丈夫か?

俺の手を握るキミ、
それから、
俺の肩に手を置くキミ、

さっきから指先が

――キンキンに冷えてますよ。



「なぁ……、俺ら6人だよな?」

「え。」

「……最後尾、俺だよな?」



「何言ってんの。
 光星の後ろで
 トレインしてるの

 ――お前だけじゃん。」



「何で今さら
 そんなこと聞くんだよ?」



「グルルル……」



――ピタ。

全員、立ち止まる。



「今、誰か何か言った?」



俺の肩を掴むトレイン担当が、

か細い声を投げかける。



「さっきから――、

 俺の肩で……

 トレインしてる奴が、いる。」



「――は?」


同時に、
地の底から這い出るような
割れた叫び声。


「ウグググワァァァァア!!」



「うわあぁぁぁぁああ!!」

ドンッ!←あ。俺突き飛ばされた。

「うがっ!!」※注、これ俺。


ドサッ……!※注、これも俺。


声もなく
激しい動揺が広がる。


ズザッ!!

ガンッ!!

ゴンッ……!!


「――こっちだ!」
「逃げろ!」
「ひー、前見えない!」


ダダダッ!!


みんなの声と足音が

みるみる遠くなる。



「みんな――……早く――……」



バタバタバタバタ……







しん……。








「いててて……

 アイツら――
 何が“ふうくん守ってあげる”だよ。

 “ふうくん”突き飛ばして、
 一目散に逃げとるやないかい。

 口ばっかりだ。

 ――くだらねぇ。」


悪態をつき、

真っ暗闇にちょこんと座る。



目が慣れてきて、
うっすらと周りが見えてくる。

「……静かでいいな、ここ。」




カタッ……

視界の端に
黒い影が入ってくる。


――あ。さっきのゾンビ。


ゆらり……ゆらり……

細身の肢体を揺らし、
みんなが走り去った方を
じっと見てる。



「ふふっ……」



ゾンビの口から
小さく漏れる声に息を飲む。




「――ねぇ。今、笑った?」

咄嗟に声をかけていた。



ズザッ……!!

ゾンビが
飛び上がって振り返る。


おう……その顔、ド迫力。


座ったまんま、話しかける。



「なぁ、今なんで笑ったの?

 面白いって感じでもなくてさ。

 いつもそうやって笑ってんの?」






ゾンビ、――困惑。

思い出したように、
両手をガバッとあげ、
威嚇する。


「グルルァァァア!!」


「あー、怖い怖い。っと。」

パンパンと
服を払いながら立ち上がる。



すっと距離を詰める。



「さっき、
 “ふふっ”って笑ったよね?

 な・ん・で?」

ゾンビの顔を覗き込む。



その瞬間、

ゾンビが固まった。



「キッ……キキ……キラッ……メキッ」



「何だ?その呪文は。」

ツン。

ゾンビのおでこを
指先で軽く突く。



「ギャッ……。さ、触られた……」

バターン!!


ゾンビがキレイに、
棒みたいに倒れた。



「え!?ちょっと!
 おい、お前、どうした!!」



悲報。

ゾンビ、
俺の指先で死す――。



ホラーハウスの中で、
驚かされたゾンビを驚かせて、
挙句に失神させてるなんて、
諸々、面倒くさすぎる。

俺、指で突いただけじゃんよ。


「あれ?
 もしかしてこれって
 営業妨害とか、なんとか、
 お咎めあるやつかな……」

急に不安になってくる。

てか、コイツ、息してる?

てか、怪我とかしてね?


ふーん……

今ならまだやれる。


「逃げるが勝ち!」


タッ……!

駆け出しの一歩を
大きく出す。


でも、なんとなく。

立ち止まって振り返った。



暗闇にポツンと……

ゾンビが落ちてる。


「もしかして、溶けた?」

今から地獄?亡者の世界?に
帰るのかもしれん。


目を皿のようにして、
もう一度見る。


――見事に倒れとんな。


「はぁ……
 亡者の世界になんか
 帰るわけないじゃん。
 めんどくせぇなぁ、もう。」


もういいや、怒られよう。

乗りかかった船だ。


とにかくコイツ――外に出そう。


「よいしょ。」

担いでみた。

ズズズズッ……!

そのまま引きずってみた。

「あ。意外とイける。」


「うぅぅぅ……ぐぁぁあ……」

背中でゾンビが蠢く。


もう蘇生したか。
さすがゾンビ。

「大丈夫か?」

チラッ……


すぐそこにゾンビの顔。

――意外と瞳が綺麗。

笑いそうになる。


「おぉぉ……おまえぇぇ……
 うまそう……だなぁぁあ……」


俺の耳に
奴の吐息がかかる。


「おい、耳やめろ?

 落ち着け。食うな。

 俺は、うまくない。」



「おぉぉぉ……おまえをぉぉ……

 食う気はぁぁ……ないぃぃ……」



「ないんかい!」



じゃぁ、なんだよ。

うまそうって。



進むにつれて、
重さがリアルにのしかかる。

「はぁ、はぁ、っく……はぁっ……

 お前っ……ゾンビじゃなくて……
 子泣き爺なんじゃねえの!?

 ったく、出口遠くね!?」


背中から
気味の悪いゾンビが
俺の首に絡みつく。


「それぇぇ……ウケるぅぅうう……」


「今、ウケるって言った!?
 ブハハハハ!!」

笑った瞬間、足がもつれる。

「うわっ!!」

ドサッ。


人間1名+ゾンビ一体、
共に、地面に転がる。


「グァァア……逃がさないぃぃい……」

チャンスとばかりに
俺に迫りくるゾンビ。

ガシッと肩を掴まれる。


「一緒にぃぃ……

 ゾンビになろぉぉ……」


「え。なぜに。それは断るわ。」


「おまえぇぇえ……
 嫌がらせぇえ……うまそぉぉぉ……」



――は?



事なかれ主義の俺、

たまの人助けをしてみたら


強烈に、ディスられました。