境界線の向こうに眠る

 何度、楓の携帯に電話を掛けてもヒロさんが出てくれることはなかった。次の日、父がこっちに来ると「大学受験のことで聞きたいことがあるから」と言って、理沙ちゃんに電話を掛けてもらった。理沙ちゃんなら楓の入院先を調べることができると思った。理沙ちゃんは、月曜日になれば何か情報が入ってくるから、楓の入院先がわかり次第、連絡すると言ってくれた。

 月曜日、連絡が来るまでの時間は、とてつもなく長く感じた。こんな時期に転入してきたわたしに興味津々に声を掛けてきた子たちとの会話は上の空で、ほとんど覚えていない。新しい場所に早く馴染む為の努力をする余裕なんてある筈もなかった。夕方、ようやく理沙ちゃんから連絡があり、楓が運ばれた病院と、今の状態を教えてもらった。

 楓が入院しているのは青葉野にある総合病院で、意識は戻っておらず、今は集中治療室に入っている為、面会はできないとのことだった。理沙ちゃんは、楓の状態を逐一報告することを約束してくれた。

***

 十月も終わりに近づいた頃、依然として楓は意識が戻らなかった。学校が終わり、未だ慣れない自転車で家へと向かう。いつの間にか稲刈りが終わった田んぼの脇を、ただひたすらに走る。バイクなら十五分もあれば着きそうな道のりを、わたしの足では四十分以上かけて進む。楓のバイクの後ろに乗っていろんなところへ行ったことを思い出す。運転手が帰ってこないバイクは今頃一人駐車場に取り残されている、そんなことを考えると悲しくて仕方がなかった。

 永遠とも思える程の田んぼ道にようやく終わりが見えた頃、理沙ちゃんからメッセージが届いた。

[楓、集中治療室から一般病棟に移った。意識はまだ戻っていない]

わたしはすぐに理沙ちゃんに電話をした。

「もしもし理沙ちゃん?わたし、楓に会えるの?」

電話の向こうからは心配そうな声が聞こえてくる。

「うん。昨日、一般病棟に移ったって。ねぇ美月、どうやってこっちに来るの?」

楓と面会ができるようになってからのことはとっくに考えてあった。

「土曜日に電車で行こうと思ってる。帰りはお父さんと一緒に戻ってこようかなって。二人には友達が交通事故に遭って意識不明だって説明しようと思ってる。こっちに来てから自由だし、黙って行こうかとも思ったけど、毎週行くとなると往復の電車代が払えないから」
「毎週?」
「本当は毎日行きたいくらい」
「そうだよね、当然だね。ただね、楓は友達多いから一気にみんなで掛け付けちゃって。面会はできるけど、人数制限があって一回につき、三人までなんだって。だから、みんながいる時間と被っちゃうと入れない場合があるんだって」
「大丈夫、その時は待つから」

 電話を切る前、理沙ちゃんは「これからもなにかあったらすぐに連絡するね」と約束してくれた。