楓はスマホで時間を確認する。そろそろわたしたちは離れなければならない。わかっている。楓には楓の立場がある。わたしを家に帰さなければ、いい加減で無責任なやつだと判断されてしまう。さっきまでは、親が楓をどう思おうがどうでもいいと思っていた。わたしが楓をわかっていればそれで十分だと。でも、今は決してそうは思わない。やっぱり、楓を誤解されたままなんて嫌なんだ。
「楓……家に送ってくれる?」
「うん」
平坦でなにもない毎日でよかった。昨日と同じ今日がきて今日と同じ明日がくる。そんな日々が一番安心できた。イベントなんてなにもいらない。それを退屈とも思わない。憂鬱は常に心のどこかにあって、でも、それが暴れ出すような出来事さえ起きなければ、ずっと居座り続けてもらっても構わなかった。
人の顔色を常に気にしていた。自分の感情を表に出さないように気を付けた。自分のせいで誰かが不幸になるのが嫌だったから。自分が我慢をすることで平和を保てるのならそれでいいと思った。それがいいと思った。
お姉ちゃんがいなくなって家の中が一変した。それから変化というものを嫌うようになった。わたしの中で、変化は不幸と直結していた。季節の変わり目さえ苦手に感じた。そんなわたしの毎日に、突然現れた楓。その世界に一歩足を踏み入れてみれば、そこには眩暈がするほど鮮やかな景色があった。しがみついていなければ振り落とされてしまいそうで、でも、その変化を楓とならどこまでも楽しめた。変化と不幸が袂を分かった。
わたしたちはソファーから立ち上がった。スマホのライトをつけると、もう一度部室を見渡した。黒板にはふざけた下手な絵と、卑猥な言葉が並んでいる。思い思いの場所に置かれた椅子は、おしゃべりが盛り上がった証拠。机の上には食べ掛けのお菓子や、空のペットボトルが散乱し、壁に飾られた写真には、楓と楓の仲間がたくさん写っていて、ふざけたりかっこつけたり真顔だったりと忙しい。ここが楓の居場所なのだと思うと、そのどれもが愛おしく思えた。
「楓、ありがとう、わたしをここに連れてきてくれて」
ドアに向かって一歩踏み出した瞬間、楓の手がわたしの肩に触れる。静寂の中、その腕に包まれ鼓動が激しく波を打つ。お互いの背中で光るスマホのライトがぼんやりと辺りを照らす中、どちらからともなくキスをした。永遠に離れないと約束するように。
「楓……家に送ってくれる?」
「うん」
平坦でなにもない毎日でよかった。昨日と同じ今日がきて今日と同じ明日がくる。そんな日々が一番安心できた。イベントなんてなにもいらない。それを退屈とも思わない。憂鬱は常に心のどこかにあって、でも、それが暴れ出すような出来事さえ起きなければ、ずっと居座り続けてもらっても構わなかった。
人の顔色を常に気にしていた。自分の感情を表に出さないように気を付けた。自分のせいで誰かが不幸になるのが嫌だったから。自分が我慢をすることで平和を保てるのならそれでいいと思った。それがいいと思った。
お姉ちゃんがいなくなって家の中が一変した。それから変化というものを嫌うようになった。わたしの中で、変化は不幸と直結していた。季節の変わり目さえ苦手に感じた。そんなわたしの毎日に、突然現れた楓。その世界に一歩足を踏み入れてみれば、そこには眩暈がするほど鮮やかな景色があった。しがみついていなければ振り落とされてしまいそうで、でも、その変化を楓とならどこまでも楽しめた。変化と不幸が袂を分かった。
わたしたちはソファーから立ち上がった。スマホのライトをつけると、もう一度部室を見渡した。黒板にはふざけた下手な絵と、卑猥な言葉が並んでいる。思い思いの場所に置かれた椅子は、おしゃべりが盛り上がった証拠。机の上には食べ掛けのお菓子や、空のペットボトルが散乱し、壁に飾られた写真には、楓と楓の仲間がたくさん写っていて、ふざけたりかっこつけたり真顔だったりと忙しい。ここが楓の居場所なのだと思うと、そのどれもが愛おしく思えた。
「楓、ありがとう、わたしをここに連れてきてくれて」
ドアに向かって一歩踏み出した瞬間、楓の手がわたしの肩に触れる。静寂の中、その腕に包まれ鼓動が激しく波を打つ。お互いの背中で光るスマホのライトがぼんやりと辺りを照らす中、どちらからともなくキスをした。永遠に離れないと約束するように。

